賃貸人の修繕義務・賃料減額と賃借人の費用償還(606条〜611条)ちんたいにんのしゅうぜんぎむちんりょうげんがくとちんしゃくにんのひようしょうかん
賃貸人の修繕義務とは、賃貸人が負う賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務で(606条1項)、これに対応して、賃借人には必要費・有益費の償還請求権(608条)があり、賃借物の一部が使えなくなれば賃料が減額されます(611条)。
借りている部屋で雨漏りがしたら、直すのは大家さんです。賃貸人は家賃を受け取る代わりに、借主が使える状態を保つ義務を負うからです。借主が自分で直した場合は、その費用をすぐ返してもらえますし、部屋の一部が使えなくなれば家賃はその分だけ下がります。他方で、大家さんが建物を守るための工事をするときは、借主は原則として断れません。

賃貸人は使用収益に必要な修繕をする義務を負いますが、賃借人の責めによる修繕は別です
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負います(606条1項本文)。使用収益させる債務の内容だからです。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要になったときは、この義務を負いません(同項ただし書)。「賃貸人は,賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となったときでも,賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」という肢(R3 問19 ウ)は誤りです。賃借物が修繕を要するときは、賃借人は、賃貸人が既に知っている場合を除き、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければなりません(615条)。賃借人が通知しても賃貸人が相当の期間内に修繕しないときや、急迫の事情があるときは、賃借人が自ら修繕できます(607条の2)。「賃借物の修繕が必要である場合において、急迫の事情があるときは、賃借人は、賃貸人に修繕が必要である旨を通知しなくても、直ちにその修繕をすることができる」という肢(R7 問19 エ)は正しいです。転貸借では、転借人に対して修繕義務を負うのは転貸人で、転借人は転貸人に修繕を請求できます(転借人が賃貸人に直接修繕を求められないことは、適法な転貸の効果の語で扱います)。
賃貸人の保存行為を賃借人は拒めませんが、そのために賃借の目的を達せないなら解除できます
賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人はこれを拒むことができません(606条2項)。建物を守る工事は賃貸人の財産を守るために必要だからです。賃借人の意思に反していても、また賃借の目的を達せなくなる場合でも、拒むことはできません。その代わり、賃借人の意思に反する保存行為のために賃借の目的を達することができなくなるときは、賃借人は契約を解除できます(607条)。
必要費は直ちに償還を請求でき、有益費は賃貸借の終了時に賃貸人の選択で償還されます
賃借人が賃貸人の負担に属する必要費(雨漏りの修繕費のように、目的物を通常の使用収益に適する状態で保存するための費用)を支出したときは、直ちにその償還を請求できます(608条1項)。本来は賃貸人が負担すべき費用を立て替えたにすぎないからです。「賃借人は,賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは,賃貸人に対して,直ちにその償還を請求することができる」という肢(R3 問19 エ)は正しいです。有益費(改良のための費用)は、賃貸借の終了の時に、価格の増加が現存する限り、賃貸人の選択で支出額か増価額が償還されます(608条2項・196条2項)。賃貸人の了解を得ていなくても請求できますが、必要費と違って、賃貸借の終了前に直ちに請求することはできません。費用の償還は、賃貸人が返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません(622条・600条1項)。
- 必要費直ちに償還を請求できます(608条1項)
- 有益費賃貸借の終了時に、価格の増加が現存する限り、賃貸人の選択で支出額又は増価額です(608条2項)。裁判所は期限を許与できます
- 請求の期間返還を受けた時から1年以内です(622条・600条1項)

賃借物の一部が使えなくなれば、賃借人の責めによらない限り賃料は当然に減額されます
賃借物の一部が滅失その他の事由で使用収益できなくなった場合、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるときは、賃料は、使えなくなった部分の割合に応じて減額されます(611条1項)。平成29年改正前は減額を請求する形でしたが、現在は請求を待たずに当然に減額されます。「賃借物の一部が滅失し,使用及び収益をすることができなくなった場合であっても,それが賃貸人の責めに帰すべき事由によるものでなければ,その賃料が減額されることはない」という肢(R3 問19 オ)は誤りです。残った部分だけでは賃借の目的を達せないときは、賃借人は解除できます(同条2項)。この解除は、1項と違って賃借人の責めに帰することができない事由によることを要件にしていないので、「賃借人の責めに帰すべき事由によって賃借物の一部が滅失し、使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、賃貸借の解除をすることができる」という肢(R7 問19 ウ)は正しいです。転貸借で雨漏りのため2階が使えなくなった場合、賃借人(転貸人)は賃貸人に対し2階部分の割合の賃料の支払を拒むことができます。転借人が賃貸人に負う義務は賃借人の債務の範囲が限度なので(613条1項)、転借人も賃貸人に対して同じ割合の賃料の支払を拒むことができます。耕作又は牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力で賃料より少ない収益しか得られなかったときは、その収益の額まで賃料の減額を請求できます(609条)。
民法 第606条第1項賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
民法 第606条第2項賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
民法 第608条第1項賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
民法 第608条第2項賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
民法 第611条第1項賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
試験ではこう問われる
- 賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要になったときは、賃貸人は修繕義務を負わない(606条1項ただし書。R3 問19 ウ ×)
- 急迫の事情があるときは、賃借人は通知をしなくても自ら修繕できる(607条の2第2号。R7 問19 エ ○)
- 賃借人は賃貸人の保存行為を拒めないが、そのために目的を達せなくなるときは解除できる(606条2項・607条)
- 必要費は直ちに償還を請求できる(608条1項。R3 問19 エ ○)
- 有益費は賃貸借の終了時に、価格の増加が現存する限り、賃貸人の選択で支出額又は増価額が償還される(608条2項)
- 一部が使えなくなったときは、賃借人の責めによらない限り、賃料は請求を待たずに減額される(611条1項。R3 問19 オ ×)
- 残存部分では目的を達せないときは、一部滅失が賃借人の責めによるものでも解除できる(611条2項。R7 問19 ウ ○)

