三段階審査の手順(保障・制約・正当化)さんだんかいしんさのてじゅん
三段階審査の手順とは、人権の制約が争われる問題を、主張する行為が人権の保障範囲に入るかの画定、制約の有無の認定、制約の正当化という三つの段階に分けて検討する手順です。どの段階の議論をしているかを自覚するための答案の骨格で、日本の判例が常にこの形をとるわけではありません。
生徒が校則で叱られたとき、まずその行為がそもそも保障されている自由に入るのか、次に校則がその自由を実際に制限しているのか、最後にその制限に正当な理由があるのか、と順に考えれば議論が飛びません。憲法の人権問題も同じで、保障範囲の画定、制約の認定、制約の正当化という三段階に分けて検討する手順を三段階審査と呼びます。日本の判例は総合考慮の形をとることも多いですが、どの段階の話をしているのかを見失わないための骨格として役立ちます。

第一段階では、主張する行為が人権の保障範囲に入るかを画します
最初に決めるのは、どの条文のどの権利の問題かということです。ここでの判断は条文の文言と趣旨の解釈であり、制約が許されるかどうかの価値判断を持ち込みません。たとえば職業選択の自由には営業の自由も含まれ、そのうえで多様な制約が検討されます。職業選択の自由は、消極的な目的や社会経済政策上の積極的な目的のほか、租税の適正かつ確実な賦課徴収という財政目的のためにも制約され得ます。保障範囲を広くとったうえで正当化の段階で絞る、という順序が三段階審査の作法です。逆に、保障範囲の画定の段階で「公共の福祉に反する行為は初めから保障されない」と論じてしまうと、正当化の審査をする機会が失われ、制約の当否を検証できなくなります。
- 第一段階 保障範囲問題となっている行為が、どの人権の保障範囲に入るかを条文の解釈によって画する
- 第二段階 制約当該国家行為がその人権を制約しているかを認定する。直接の禁止だけでなく、間接的・付随的な制約も含む
- 第三段階 正当化制約が憲法上許されるかを、目的の正当性と手段の相当性に分けて審査する。ここで審査密度が問題になる
第二段階では、制約の有無を認定します
制約は、その行為を直接禁止する形に限られません。行為の時間や場所を限る規制、許可制、罰則による萎縮、給付の停止なども制約です。もっとも、制約の態様は正当化の段階での審査密度に影響します。判例は、表現の内容に着目しない間接的・付随的な制約については、厳格な審査を及ぼしていません。最大判昭和49年11月6日(猿払事件)がその典型です。表現の手段である立入り行為を処罰する場面でも、「公務員及びその家族が私的生活を営む場所であり一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない集合住宅の共用部分及び敷地に管理権者の意思に反して立ち入ることは、それが政治的意見を記載したビラの配布という表現の自由の行使のためであっても許されず、当該立入り行為を刑法上の罪に問うことは、憲法第 21 条第 1 項に違反するものではない」という肢(R6 問1 エ)は正しいです。制約の有無を認定する段階では制約を広く拾い、その強さを正当化の段階で評価する、という役割分担になります。萎縮効果が生じるかどうかも、この段階で拾っておきます。給付の打切りのように、禁止の形をとらない不利益も制約に当たります。

第三段階の正当化は、目的と手段に分けて審査します
正当化の段階では、制約の目的が正当か、手段がその目的との関係で相当かを検討します。規制が過度に広汎であるという主張に対しても、裁判所は目的と手段の関係を検討することがあり、文面審査と実体審査は截然と分かれるものではありません。目的については、その目的が正当といえるか、より強い正当性を要求すべきかを、規制される権利の性質から決めます。手段については、目的との関連性の程度、より制限的でない手段の有無を順に検討します。

制約の根拠となる公共の利益には、多様なものがあります
公共の福祉という言葉は一つですが、その中身は場面ごとに違います。最大判昭和48年4月25日(全農林警職法事件)は、労働基本権が勤労者の経済的地位の向上のための手段であって絶対的なものではないから、勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れず、このことは13条の規定の趣旨に徴しても疑いがないとしました。つまり、13条の公共の福祉の内容として国民全体の共同利益を挙げたのであって、公共の福祉のための制約の「ほか」に共同利益の見地からする制約を受けるという二本立てではありません。同判決は、非現業の国家公務員の争議行為の一律禁止を合憲としており、「非現業の国家公務員について、その争議行為及びそのあおり行為等を職務内容等の別なく一律に禁止することは、法律に勤務条件についての周到詳密な規定が設けられ、中央人事行政機関として準司法機関的性格を持つ人事院が設けられていることを踏まえても、違憲である」という肢(R8 問1 オ)は誤りです。消極目的、積極目的、財政目的、さらには他者の権利との調整まで、制約の理由は多様です。正当化の審査では、制約の理由がどの型に属するかを示したうえで、その型にふさわしい審査密度を選びます。公共の福祉という言葉だけで制約を正当化すると、実質的な検討を省いたことになります。制約の理由を具体的な利益の名前で書き出すことが、審査の出発点です。
精神的自由の制約に、広い立法裁量を認めることはできません
審査密度の選択は、正当化の段階で最も重要な判断です。精神的自由の制約について、立法者に広い裁量を認め、目的との関連で著しく不合理であることが明らかな場合に限って効力を否定する、という審査をとることはできません。著しく不合理であることが明白な場合に限って違憲とするという緩やかな基準は、最大判昭和47年11月22日(小売市場事件)が経済的自由の積極目的規制について用いたものであり、同判決自身が個人の経済活動の自由に関する限り精神的自由等に関する場合と異なると述べているとおり、精神的自由に持ち込むことはできません。「国が,積極的に,国民経済の健全な発達と国民生活の安定を期し,もって社会経済全体の均衡のとれた調和的発展を図る目的で,立法により,個人の経済活動に対し,一定の法的規制措置を講ずる場合には,裁判所は,立法府がその裁量権を逸脱し,当該措置が著しく不合理であることの明白である場合に限って,これを違憲とすることができる」という肢(R3 問2 イ)は正しいです。最大判昭和50年4月30日(薬局距離制限事件)は、消極目的の規制について立法裁量を狭くとる審査を示しています。同判決は、より緩やかな規制では目的を達成できないことを裏づける立法事実があるかを、具体的に検討しました。審査密度の違いが、事実の検討の深さの違いとして現れる例です。

立法事実の審査の程度は、審査基準の選択と連動します
正当化の審査は、法律を支える社会的・経済的事実、すなわち立法事実の検討を伴います。立法者の事実判断をどこまで尊重するかという問題と、どの審査基準を用いるかという問題は、表裏一体です。厳格な基準を選ぶことは、立法事実を裁判所が自ら踏み込んで検討することを意味し、最大判昭和50年4月30日(薬局距離制限事件)が距離制限の必要性を支える事実を「単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたい」としたのがその例です。逆に緩やかな基準を選ぶことは、立法府が前提とした事実を尊重するという態度の表明になります。
日本国憲法 第12条この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
試験ではこう問われる
- 三段階審査は、保障範囲の画定、制約の認定、制約の正当化の順に検討する手順である
- 職業選択の自由は、消極目的・積極目的のほか、租税の適正かつ確実な賦課徴収という財政目的のためにも制約され得る
- 表現活動に対する間接的・付随的制約や表現の手段への規制には、厳格な審査が及ぼされていない(最大判昭和49年11月6日・猿払事件。R6 問1 エ ○)
- 労働基本権の制約根拠は13条の公共の福祉で、その内容として国民全体の共同利益が挙げられ、非現業の国家公務員の争議行為の一律禁止は合憲とされた(最大判昭和48年4月25日。R8 問1 オ ×)
- 著しく不合理であることが明白な場合に限って違憲とする明白性の原則は積極目的の経済規制について用いられたもので、精神的自由には及ばない(最大判昭和47年11月22日・小売市場事件。R3 問2 イ ○)
- 立法事実の審査の深さは、審査基準の選択と連動する(最大判昭和50年4月30日・薬局距離制限事件)

