違憲審査制の性格(81条)と仕組みいけんしんさせいのせいかく
違憲審査制の性格とは、憲法81条が定める、法令その他の国家行為が憲法に適合するかを裁判所が審査する制度が、具体的な事件の解決に必要な限りで審査する付随的審査制なのか、事件を離れて抽象的に審査する抽象的審査制なのかという問題です。判例は付随的審査制と解し、審査権は最高裁判所だけでなく下級裁判所にもあります。
学校の先生が「この校則は生徒手帳の基本方針に反するか」を、誰からも相談されていないのに一般論として判定することはありません。実際に処分を受けた生徒が争ってきたとき、その解決に必要な範囲で判断します。日本の裁判所の違憲審査も同じで、具体的な事件の解決に必要な限りで法律の合憲性を判断する付随的審査制だと解されています。憲法が最高法規である以上、憲法に反する法律を無効にする仕組みは要りますが、その型は憲法が選んだ制度設計の問題です。

81条は、付随的違憲審査制を定めたと解されています
最大判昭和27年10月8日(警察予備隊違憲訴訟)は、裁判所が具体的な争訟事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限をもつものではないとしました。81条が司法に関する第6章に置かれていることも、この理解を支えます。もっとも、議論の余地は残されています。判決が否定したのは法律の根拠なしに抽象的審査ができるという主張であって、立法による制度設計の可能性まで一律に封じたものではない、と読む余地があります。
- 付随的審査制具体的な争訟事件を裁判する際、その解決に必要な限度で適用法条の合憲性を審査する。アメリカ型。個人の権利保護を主たる目的とする
- 抽象的審査制具体的事件と関係なく、法令の合憲性そのものを審査する。ドイツ型。客観的な憲法秩序の保障を主たる目的とする
下級裁判所にも違憲審査権があります
81条は最高裁判所を「終審裁判所」と書いていますが、これは下級裁判所の審査権を否定する趣旨ではありません。「違憲審査権は、最高裁判所のみならず下級裁判所も有する」という肢(R5 問2 オ)は正しいです。裁判官が憲法に拘束され(76条3項)、憲法尊重擁護義務を負う(99条)以上、適用すべき法令が憲法に反すると考えたときに、これを適用しないという判断は当然に導かれます。最大判昭和25年2月1日も、法令が憲法に適合するかを判断することは憲法によって裁判官に課せられた職務と職権であって、最高裁判所の裁判官であると下級裁判所の裁判官であるとを問わないとしています。終審であるというのは、最終的な判断が最高裁に統一されるという意味です。実務上も、下級審が法令を違憲と判断した例は少なくありません。

81条の「処分」には、裁判所の判決も含まれます
81条が列挙する「一切の法律、命令、規則又は処分」の「処分」は、行政処分に限られません。81条の「処分」は統治機関の行為を意味し、行政処分だけでなく裁判所の判決も含まれます。最大判昭和23年7月7日(違憲審査の対象)は、憲法の英訳で「処分」がオフィシアル・アクトと表現されていることを手がかりに、統治機関の行為の意味であって行政機関の行政処分も司法機関の裁判行為も含まれるとし、裁判は個々の事件について具体的な処置をつけるものだからその本質は一種の処分であるとしました。判決も国家行為である以上、上訴審が下級審の判決の違憲性を審査できなければ、憲法保障の仕組みが不完全になります。
客観訴訟でも、違憲審査は行われます
付随的審査制であることと、審査の場面が主観訴訟に限られることとは、別の話です。客観訴訟であっても、裁判所が違憲審査を行う権限がないわけではありません。選挙訴訟や住民訴訟も、法律が裁判所の権限とした以上は具体的な事件であり、その解決に必要な限りで法令の合憲性が審査されます。実際、最大判昭和51年4月14日は、公職選挙法が定数配分規定の違憲を選挙無効の原因として主張することを殊更に排除する趣旨とするのは当を得た解釈ではないとして、選挙無効訴訟という客観訴訟の中で議員定数不均衡を判断しました。付随的審査制が要求するのは、抽象的に法令を審査する独立の訴訟を認めないことであって、事件の中で憲法判断をする場面を主観訴訟に限ることではありません。

条約が審査の対象になるかは、憲法優位説からも両論あります
条約は81条の列挙に含まれていません。憲法優位説は、条約が違憲審査の対象になるかについて、肯定説とも否定説とも結びつきます。憲法が条約に優位するとしても、外国との合意という性質から司法審査になじまないと考えれば否定説になりますし、国内法的効力の面では法律と同視できると考えれば肯定説になります。最大判昭和34年12月16日(砂川事件)は一見極めて明白に違憲無効でない限り審査しないとしており、審査権の存在自体は前提にしていると読めます。「条約は、国家間の合意であるという性質に照らし、裁判所による違憲審査権の対象とならない」という肢(R5 問2 ウ)は誤りです。条約が違憲とされても、失われるのは国内法的効力にとどまります。

付随的審査制でも、主張できる争点が当事者の権利に限られるわけではありません
付随的審査制の目的が個人の権利保護にあるからといって、当事者は自分の権利の侵害しか主張できないということにはなりません。第三者の憲法上の権利が現実に侵害される場合にその主張を当事者にさせることが適切な状況はありえ、第三者所有物没収事件(最大判昭和37年11月28日)はこれを認めましたし、文面上無効の法理による主張も認められえます。「被告人に対する没収の裁判が第三者の所有物を対象とするものであっても、当該被告人は、当該第三者に対して何ら告知、弁解、防禦の機会が与えられなかったことを理由に当該没収の裁判が違憲であることを主張することができる」という肢(R5 問2 エ)は正しいです。なお、違憲審査制は憲法保障の手段の一つにすぎません。抽象的違憲審査制と付随的違憲審査制のいずれを採るかは憲法の最高法規性から当然に導かれるわけではなく、硬性憲法の仕組みや公務員の憲法尊重擁護義務も、あわせて憲法保障の制度を構成しています。どの型の違憲審査制を採るかは、最高法規性から論理的に決まるものではなく、憲法が選んだ制度設計の問題です。
日本国憲法 第81条最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
試験ではこう問われる
- 81条は付随的違憲審査制を定めたもので、具体的な争訟を離れて抽象的に法令の合憲性を判断する権限は裁判所にない(最大判昭和27年10月8日・警察予備隊違憲訴訟)
- 違憲審査権は、最高裁判所だけでなく下級裁判所も有する(最大判昭和25年2月1日。R5 問2 オ ○)
- 81条の「処分」には、行政処分だけでなく裁判所の判決も含まれる(最大判昭和23年7月7日)
- 選挙訴訟などの客観訴訟でも、事件の解決に必要な限りで違憲審査が行われる(最大判昭和51年4月14日)
- 条約も違憲審査の対象となり得る(最大判昭和34年12月16日・砂川事件。R5 問2 ウ ×)
- 第三者の所有物の没収について、被告人は第三者に告知・弁解・防御の機会がなかったことを理由に違憲を主張できる(最大判昭和37年11月28日。R5 問2 エ ○)

