労働基本権(28条)と公務員の争議行為ろうどうきほんけん
労働基本権とは、憲法28条が勤労者に保障する団結権・団体交渉権・団体行動権のことで、国家に対する自由権の面と、国に積極的な措置を求める社会権の面を併せもち、使用者との私人間にも直接に及びます。公務員の争議行為の一律禁止について、判例は全農林警職法事件で、地位の特殊性・職務の公共性と代償措置を理由に合憲としました。
会社で一人が賃上げを求めても相手にされませんが、従業員が組合を作り、代表が会社と交渉し、まとまらなければストライキで応じることができます。憲法28条が勤労者に団結権・団体交渉権・団体行動権を保障しているのは、経済的に弱い立場の勤労者が、25条の人間に値する生存を実現できるように、集団の力で使用者と対等に向き合わせるためです。だから正当なストライキは犯罪にも損害賠償の対象にもなりませんが、公務員には別の制約が課されています。

労働基本権には自由権の側面と社会権の側面があります
労働基本権は、25条の生存権保障を基本理念とし、27条の勤労の権利とあいまって、勤労者の経済的地位の向上を手段として支える権利です。「労働基本権は、自由権として、国に対して労働基本権を制限するような立法その他の国家行為を禁止するという意味を有する」という肢(R8 問1 イ)は正しいです。「労働基本権は、社会権として、国に対して労働者の労働基本権を保障する措置を実施すべき義務を負わせるという意味を有する」という肢(R8 問1 ア)も正しいです。自由権の面は国家の刑罰権からの自由として刑事免責に現れ、社会権の面は労働委員会による不当労働行為の救済に現れます。全逓東京中郵事件(最大判昭和41年10月26日)は、28条を勤労者の経済的地位の向上のための手段として団結権、団体交渉権、争議権等を保障しようとするものと述べましたが、そこから自由権としての側面が否定されるわけではありません。

- 団結権労働条件の維持改善のために団体を結成し、これに加入する権利
- 団体交渉権団体の代表者が使用者と労働条件について交渉し、労働協約を結ぶ権利
- 団体行動権ストライキその他の争議行為と、組合活動を行う権利
- 自由権の側面これらを制限する国家行為を禁じる。争議行為の刑事免責がその具体化
- 社会権の側面実効性を確保する措置を国に求める。労働委員会による不当労働行為の救済がその具体化
刑事免責と民事免責は28条の趣旨を具体化したもので、使用者との間にも直接に及びます
正当な争議行為には刑事責任も民事責任も生じません(労働組合法1条2項・8条)。この免責は、28条の趣旨を私法の一般規定に取り込む間接適用の結果として生じるものではありません。人権規定は私人間には私法の一般規定を通じて間接的に及ぶのが原則ですが、28条は使用者に対する関係を直接規律することを予定した規定で、私人間に直接適用されるというのが判例・通説の理解です。民事免責は28条の効果そのものとして生じ、労働組合法8条はそれを確認した規定にすぎません。もっとも、免責は責任からの解放にとどまります。正当な争議行為であっても、ストライキ中は労務を提供していないので、その期間の賃金は請求できないのが原則で、28条の争議権の保障はこの原則まで修正するものではありません(最判昭和40年2月5日)。
判例は全逓東京中郵・都教組の緩和路線から全農林警職法事件で転換しました
全逓東京中郵事件(最大判昭和41年10月26日)が労働基本権の保障を公務員にも原則として及ぼし、都教組事件(最大判昭和44年4月2日)が処罰の対象を違法性の強い争議行為をあおる行為に限る限定解釈をとった後、全農林警職法事件(最大判昭和48年4月25日)がこれを改めました。全農林警職法事件は、地位の特殊性と職務の公共性、勤務条件の決定についての財政民主主義を理由に一律禁止を合憲としました。同判決が判例の変更を明言したのは、限定解釈をとった全司法仙台事件判決(最大判昭和44年4月2日)で、全逓東京中郵事件判決ではありません。全農林警職法事件は、公務員の争議行為を違法性の強弱で区別し、違法性の強い争議行為を違法性の強い行為であおった場合に限って刑事制裁を科すという限定解釈を、犯罪構成要件の明確性を要請する31条に違反する疑いがあることなどを理由に否定しました。全逓名古屋中郵事件(最大判昭和52年5月4日)で、公労法下の職員にも同じ枠組みが及びました。

合憲の理由は、地位の特殊性・職務の公共性と代償措置です
全農林警職法事件は、公務員も労務を提供して生活の資を得ている点で一般の勤労者と異ならないから28条の保障が及ぶとしつつ、公務員の地位の特殊性と職務の公共性にかんがみれば必要やむをえない限度の制限には十分合理的な理由があるとし、勤務条件が法律と予算で決まること、争議に市場の抑制力が働かないこと、人事院などの代償措置が講じられていることを挙げて、一律禁止を国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約としました。「公務員は、憲法第 28 条に規定する「勤労者」に当たらず、労働基本権の保障を受けない」という肢(R5 問1 エ)は誤りです。「非現業の国家公務員について、その争議行為及びそのあおり行為等を職務内容等の別なく一律に禁止することは、法律に勤務条件についての周到詳密な規定が設けられ、中央人事行政機関として準司法機関的性格を持つ人事院が設けられていることを踏まえても、違憲である」という肢(R8 問1 オ)は誤りです。判例は職務の性質や違いを考慮せずに一律に禁止することを許容しています。代償措置について、最判平成12年3月17日は、人事院勧告の実施が凍結された事実関係の下でも代償措置がその本来の機能を果たしていなかったとはいえないとして、争議行為を適法とは評価しませんでした。職務の公共性は考慮されないのではなく、むしろ合憲の中心的な理由です。なお、自衛官や警察職員は団結権を含む三つの権利すべてが否定されています。

生産管理や政治的な目的だけの争議は、正当な争議行為にあたりません
争議権も無制限ではなく、労働争議において使用者側の自由意思をはく奪し又は極度に抑圧し、あるいはその財産に対する支配を阻止し、私有財産制度の基幹を揺るがすような行為は許されません。山田鋼業事件(最大判昭和25年11月15日)は、生産管理では企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うのだから、ストライキの違法性が阻却されるからといって生産管理もそうだとはいえないと述べました。勤労者が工場の施設を占拠し、使用者の指揮命令を排除して自ら生産活動を行うことは、社会通念上不当に長時間に及ぶものでなくても正当な争議行為に当たらず、時間の長短は結論を左右しません。争議の目的による限界もあります。最判平成4年9月25日は、使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係のない政治的目的のために争議行為を行うことは28条の保障とは無関係だとしており、政治的な目的だけのストライキは28条の保障の外に置かれます。

最大判昭和48年4月25日(全農林警職法事件)公務員の地位の特殊性と職務の公共性にかんがみるときは、これを根拠として公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由がある。
試験ではこう問われる
- 労働基本権は、自由権として労働基本権を制限する国家行為を禁止し、社会権として国に保障の措置を実施する義務を負わせる(R8 問1 ア ○、R8 問1 イ ○)
- 公務員も28条の「勤労者」に当たり、労働基本権の保障が及ぶ(最大判昭和48年4月25日・全農林警職法事件。R5 問1 エ ×)
- 非現業の国家公務員の争議行為とそのあおり行為等の一律禁止は、勤務条件の法定と人事院の設置などの代償措置に照らして違憲ではない(全農林警職法事件。R8 問1 オ ×)
- 全農林警職法事件は、違法性の強い争議行為のあおりに限って処罰する限定解釈を、31条の明確性の要請に反する疑いがあるとして否定した
- 正当な争議行為でも、ストライキ期間中の賃金は請求できない(最判昭和40年2月5日)
- 生産管理は正当な争議行為に当たらず(最大判昭和25年11月15日・山田鋼業事件)、政治的目的だけの争議行為は28条の保障の外にある(最判平成4年9月25日)

