最高裁判所と下級裁判所の構成(79条・80条)さいばんしょのこうせい
最高裁判所と下級裁判所の構成とは、最高裁判所がその長たる裁判官と法律の定める員数のその他の裁判官で構成され(79条1項)、下級裁判所の裁判官は最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命し、任期10年で再任されることができる(80条1項)という裁判所の組織の仕組みです。
会社の人事を社長がすべて自由に決められるなら、監査部門は社長に頭が上がりません。裁判所の人事を内閣が自由に決められるなら、同じことが裁判官に起こります。そこで憲法は、最高裁判所の長官は内閣が指名して天皇が任命し、その他の最高裁判所の裁判官は内閣が任命し、下級裁判所の裁判官は最高裁判所が作った名簿の中から内閣が任命するという役割分担を定めました。内閣の関与で民主的な正統性を保ちつつ、名簿の作成を裁判所に委ねて司法の自主性を守っています。

任命の主体は、場面ごとに違います
最高裁判所長官は内閣が指名して天皇が任命し、その他の最高裁判所裁判官は内閣が任命します。「最高裁判所の裁判官は、内閣の指名に基づいて、天皇が任命する」という肢(R6 問3 ア)は誤りです。下級裁判所の裁判官については、最高裁判所が名簿を作り、内閣がその名簿の中から任命します。内閣の任命権を通じて民主的な正統性を確保しつつ、名簿の作成を最高裁に委ねることで司法の自主性を守る、という二重の仕組みです。憲法上の直接の明文はありませんが、司法権の独立の観点から最高裁判所と下級裁判所が司法行政権を担うと解されており、そのことが、この仕組みの前提になっています。誰が指名し誰が任命するのかは、長官、最高裁判所判事、下級裁判所裁判官の三つで異なります。天皇が関与するのは、長官の任命(6条2項)と最高裁判事の任命の認証(7条5号)です。
- 最高裁判所長官内閣が指名し、天皇が任命する。国事行為としての任命は6条2項が定める
- 最高裁判所判事内閣が任命し、天皇が認証する。員数は裁判所法が定める
- 下級裁判所の裁判官最高裁判所の指名した名簿により内閣が任命する。任期10年、再任可。定年は法律で定める
- 下級裁判所の種類高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所。裁判所法が定める
司法行政権は、裁判所が担います
明治憲法のもとでは、裁判所の人事や予算は司法大臣の監督下にありました。日本国憲法は、規則制定権(77条1項)と下級裁判所裁判官の指名権(80条1項)を最高裁に与え、司法行政を裁判所の手に移しています。司法権が立法権と行政権から独立して自主的に活動することを担保するため、77条の規則制定権や80条の下級裁判所裁判官の指名権が定められています。もっとも、司法行政権が最高裁に集中したことで、内部からの統制が裁判官の独立を脅かすのではないかという指摘も生まれています。独立は外部との関係だけの問題ではありません。人事や部署の配置を通じた事実上の統制が働けば、個々の裁判官が上位の意向をうかがうことになりかねないからです。制度の設計としては、司法行政を裁判所に委ねることと、その運用が個々の裁判官の判断に影響しないことの両方が求められます。

審級制度は法律事項で、三審制は憲法上の要請ではありません
現行法は三審制を原則としていますが、これは裁判所法が定めた制度であって、憲法が要求しているものではありません。最高裁判所を頂点とした二審制を導入しても、違憲ではありません。最大判昭和23年3月10日も、憲法は81条で最高裁判所が終審裁判所であると定めるほか審級制度について規定していないので、それ以外の審級制度は立法で適宜定めるべきものだとしています。憲法が求めているのは、最高裁判所を終審とすること(81条)と、裁判を受ける権利を実質的に保障することであり、審級の数そのものは立法政策に委ねられています。上告理由を法律で制限することも、この理解から許されます。もっとも、上訴の道を事実上閉ざすような制限であれば、裁判を受ける権利(32条)の侵害になりえます。
専門的な事件を扱う下級裁判所を設けることもできます
特定の種類の事件だけを扱う裁判所の設置は、特別裁判所の禁止(76条2項前段)との関係が問題になります。特定の種類の事件だけを扱う裁判所を設置しても、最高裁判所に上訴できるのであれば憲法に違反しません。76条2項前段は、明治憲法下で認められていた特別裁判所を禁止する趣旨です。「行政機関が裁判所の前審として裁判を行う制度は、特別裁判所の設置を禁止する憲法に違反する」という肢(R6 問3 ウ)は誤りです。禁止されるのは通常裁判所の系列から独立した裁判機関であって、最高裁を頂点とする系列に組み込まれていれば、専門的な下級裁判所を設けても違憲になりません。家庭裁判所や知的財産高等裁判所がその例です。判断の分かれ目は、扱う事件が特殊かどうかではなく、最高裁への上訴の道が開かれているかどうかにあります。この基準は、明治憲法下の行政裁判所や軍法会議を念頭に置いたものです。司法権を一つの系列に統一することが、禁止の目的でした。

任期と再任は、下級裁判所の裁判官についてだけ定められています
80条1項は下級裁判所の裁判官の任期を10年とし、再任されることができると定めます。最高裁判所の裁判官には任期がなく、定年まで在職します。再任を拒むことができるかについては、特段の事情がない限り再任すべきだとする見解と、任命権者の裁量に委ねられるとする見解が対立してきました。前者に立てば、再任拒否は実質的に身分保障の潜脱となりますから、理由の開示や手続の適正が問題になります。任期の定めは、裁判官の質を定期的に確かめる制度でもあり、独立の保障と緊張関係に立ちます。指名の名簿を作る最高裁の判断が、実際には決定的な意味をもつ点にも注意が必要です。名簿に載らなければ内閣は任命できませんから、司法部内での判断が入口を決めることになります。
弾劾裁判所の裁判に、上訴の道を設けることはできません
弾劾裁判所は、憲法が自ら認めた特別裁判所の例外です。「国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける」という肢(R4 問3 エ)は正しく、その裁判に最高裁判所への上訴の道を設けることはできません。憲法64条が国会に弾劾裁判所を置くとした趣旨は、裁判官の罷免を国会の手に委ねる点にありますから、その判断を最高裁が覆せるとすれば、制度の意味が失われます。同じ理由で、議員の資格争訟の裁判(55条)についても裁判所に出訴することはできません。「国会議員の資格に関する争訟については,憲法上,その議員が属する議院が裁判をする旨の規定があることから,裁判所の審判権は及ばない」という肢(R2 問3 オ)は正しいです。憲法が自ら定めた司法権の限界であり、解釈で覆せるものではありません。明文の例外である以上、範囲を広げて読むことも許されません。

日本国憲法 第80条第1項下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。
試験ではこう問われる
- 最高裁判所の長たる裁判官は内閣の指名に基づき天皇が任命し、その他の裁判官は内閣が任命する(6条2項・79条1項。R6 問3 ア ×)
- 下級裁判所の裁判官は最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命し、任期は10年で再任されることができる(80条1項)
- 審級制度は法律事項で、最高裁判所を終審とする限り三審制は憲法の要請ではない(最大判昭和23年3月10日)
- 最高裁判所への上訴の道がある専門の下級裁判所や、行政機関による前審は、特別裁判所の禁止に反しない(76条2項。R6 問3 ウ ×)
- 罷免の訴追を受けた裁判官は国会の弾劾裁判所が裁判し(64条1項。R4 問3 エ ○)、その裁判に最高裁判所への上訴の道を設けることはできない
- 議員の資格に関する争訟は議院が裁判し、裁判所の審判権は及ばない(55条。R2 問3 オ ○)

