憲法尊重擁護義務けんぽうそんちょうようごぎむ
憲法尊重擁護義務とは、天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員が、憲法を尊重し擁護する義務を負うことをいいます(99条)。列挙されているのは公権力を担う側で、国民は含まれていません。
大臣や国会議員が就任のときに憲法を守ると誓う場面をニュースで見かけます。憲法99条は、天皇や摂政、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員に、この憲法を尊重し擁護する義務を課しています。ここに国民が入っていないのは、うっかり落ちたのではありません。憲法は国民が国家権力を縛るための法ですから、守るよう命じられる側は権力を行使する人たちです。もし国民にも憲法を守る義務を課すと、権力を縛る法が国民を縛る法に変わってしまいます。この規定は第10章「最高法規」に置かれ、憲法の保障を人の側から支える仕組みとされます。

列挙されているのは公務員で、国民は入りません
99条の列挙は、天皇又は摂政、国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員です。名あて人は公権力を行使する側に限られ、国民は含まれていません。憲法が国家権力を制限する法であることから、名あて人は公務員に限られます。12条が国民に対し自由と権利を不断の努力によって保持すべきことを求めているのは、義務ではなく心構えを述べたものと解されます。なお、天皇が名あて人に挙がっていることは、天皇が国政に関する権能を有せず、その行為が内閣の助言と承認による形式的儀礼的なものにとどまる(3条・4条1項)ことと整合します。
- 天皇又は摂政国事行為を行う立場として名あて人に入る
- 国務大臣内閣の一員として法律を誠実に執行する立場
- 国会議員立法を担う立場
- 裁判官その他の公務員司法・行政を担う立場。国民は入らない
義務の法的性格は倫理的・政治的なものです
99条には制裁の定めがありません。したがって、義務違反があっても、それだけで解職や刑罰といった効果が生じるわけではなく、義務の性格は倫理的・政治的なものと解されています。公務員に対する懲戒や、国会議員に対する所属議院の懲罰は、それぞれの根拠規定に基づいて行われるのであって、99条が直接の根拠になるわけではありません。99条が定めているのは公務員の側の姿勢であって、最高法規性の実質的根拠ではありません。憲法がなぜ重んじられるべきかという実質的根拠を示すのは、基本的人権を侵すことのできない永久の権利とする97条です。

99条から国家賠償責任や法律の執行停止権は導かれません
国会議員が憲法尊重擁護義務を負うからといって、違憲の法律を議決した立法行為が直ちに国家賠償法上違法になるわけではありません。最判昭和60年11月21日は、国会議員は立法に関して原則として国民全体に対する政治的責任を負うにとどまるとし、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて立法を行うような、容易に想定し難い例外的な場合でない限り、立法行為は国家賠償法上違法の評価を受けないとしています。判例は、立法の内容が違憲であることと、国会議員の立法行為が国家賠償法上違法と評価されることとを区別しています。もっとも、立法行為が違法となるかどうか自体は裁判所が審理判断する事柄で、「国会議員の立法行為が違法の評価を受けるか否かについて裁判所が審理判断することは許されない」という肢(R2 問3 エ)は誤りです。また、内閣は73条1号により法律を誠実に執行する義務を負いますから、99条の憲法尊重擁護義務を理由に、違憲と解する法律の執行を停止することはできません。国会が制定した法律には合憲の推定が働き、法律が違憲かどうかを最終的に判断するのは裁判所です(81条)。内閣が自らの判断で執行を止めることを認めると、国会の立法権と裁判所の違憲審査権の双方を侵すことになります。内閣にできるのは、改正法案を提出したり、訴訟の場で違憲の主張をしたりすることです。

裁判官の憲法尊重擁護義務は違憲審査権の根拠の一つです
「違憲審査権は、最高裁判所のみならず下級裁判所も有する」という肢(R5 問2 オ)は正しいです。98条1項、76条3項、99条を組み合わせて、81条が最高裁判所を終審裁判所と定めたにすぎず、下級裁判所の違憲審査権を否定していないことを導く筋道です。最大判昭和25年2月1日も、裁判官が法令の憲法適合性を判断することは憲法によって課せられた職務と職権であって、最高裁判所の裁判官であると下級裁判所の裁判官であるとを問わないとしています。
憲法改正を主張することは、それ自体では義務違反になりません
99条が守れと命じているのは、現に効力を有する憲法の規範であって、その内容を将来変えるべきだという意見の表明までは禁じていません。憲法自身が96条で改正手続を定めている以上、改正の主張は憲法の予定する行為です。もっとも、改正の限界を超える主張や、96条の手続によらずに憲法を実質的に変更しようとする行動は、憲法秩序そのものを否定するものとして義務違反の評価を受けます。議論の分かれ目は、改正の内容ではなく、96条の手続に従うかどうかにあります。
公務員の政治的行為の制限は、99条とは別の問題です
公務員が憲法尊重擁護義務を負うことと、公務員の政治的行為が制限されることとは、根拠が違います。後者は、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼の確保という利益に基づくもので、99条から導かれるわけではありません。したがって、公務員の政治活動の制限の合憲性を論じるときに99条を持ち出すのは筋違いです。国家公務員法や地方公務員法が定める服務の宣誓も、99条の義務を具体化したものではなく、それぞれの法律に根拠を持つ服務上の義務です。公務員の人権制約の枠組みは特別な法律関係と公務員の人権で扱います。
日本国憲法 第99条天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
試験ではこう問われる
- 憲法尊重擁護義務を負うのは天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員で、国民は含まれない(99条)
- 義務の性格は倫理的・政治的なもので、違反に直接の法的制裁は結び付かない
- 98条1項・76条3項・99条から、下級裁判所の裁判官も違憲審査の権限を有する(最大判昭和25年2月1日。R5 問2 オ ○)
- 国会議員の立法行為が国家賠償法上違法となるかは、裁判所が審理判断する(最判昭和60年11月21日。R2 問3 エ ×)
- 内閣は法律を誠実に執行する義務を負い、違憲と解する法律でも執行を停止できない(73条1号)

