譲渡制限株式(定款の定めと承認機関・相続人等に対する売渡しの請求)じょうとせいげんかぶしき
譲渡制限株式とは、会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として、譲渡によるその株式の取得について会社の承認を要する旨の定めを設けている場合のその株式です(会社法2条17号・107条1項1号・108条1項4号)。承認をするかどうかは株主総会(取締役会設置会社では取締役会)が決め、定款で別の機関にすることもできます(139条1項)。
家族や仲間だけで経営している会社では、株主の1人が株式を知らない人に売ってしまうと困ります。そこで定款に「株式を譲渡によって取得するには会社の承認が要る」と定めておく仕組みが譲渡制限株式で、全部の株式にも一部の種類にも付けられます。株式は本来自由に譲渡できる(会社法127条)ので、譲渡の禁止はできず、承認を要するという形でだけ制限できます。後から全部の株式に付ける定款変更は特殊の決議が要ります。相続は譲渡ではないので承認は要りませんが、会社は定款の定めによって相続人に株式の売渡しを請求できます。

全部の株式に譲渡制限を付ける定款変更は特殊の決議で、廃止は特別決議で足り、一部の種類だけに付けることもできます
会社は、発行する全部の株式の内容として(107条1項1号)、又は一部の種類の株式の内容として(108条1項4号)、譲渡によるその株式の取得について会社の承認を要する旨を定款で定めることができます。全部の株式の内容としてこの定めを設ける定款変更は、議決権を行使することができる株主の半数以上であって、その株主の議決権の3分の2以上に当たる多数による特殊の決議が要ります(309条3項1号)。株式の自由な譲渡という株主の基本的な利益を縛る変更なので特別決議より重くしてありますが、多数決の枠内であり、総株主の同意までは要りません。反対する株主は株式買取請求で投下資本を回収します(116条1項1号)。「種類株式発行会社でない株式会社の発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の変更をする株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の 3 分の 2 以上に当たる多数をもって行わなければならない」という肢(R7 問28 ア)は正しいです。総株主の同意が要るのは、全部の株式に取得条項を付ける定款変更です(110条)。逆に譲渡制限の定めを廃止する定款変更は、株主の自由を広げるだけなので、通常の定款変更と同じ特別決議で足ります(466条・309条2項11号)。ある種類の株式に譲渡制限の定めを設ける定款変更では、その種類の株式を目的とする新株予約権の新株予約権者は、公正な価格で買い取ることを請求できます(118条1項2号)。
譲渡制限の定款変更の決議要件
- 全部の株式に譲渡制限を設ける: 議決権を行使できる株主の半数以上、かつその議決権の3分の2以上(309条3項1号)。反対株主に株式買取請求権(116条1項1号)
- ある種類の株式に譲渡制限を設ける: 株主総会の特別決議(466条・309条2項11号)に加えて、その種類などの種類株主総会の特殊の決議(111条2項・324条3項1号)。その種類を目的とする新株予約権者に買取請求権(118条1項2号)
- 譲渡制限の定めを廃止する: 株主総会の特別決議で足りる(466条・309条2項11号)
承認機関は定款で変えることができ、株主間や従業員への譲渡は承認したものとみなす定めも置けます
譲渡を承認するかどうかの決定は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によりますが、定款に別段の定めがある場合はこの限りではありません(139条1項)。取締役会設置会社が定款で株主総会や代表取締役を承認機関にすることもでき、取締役会設置会社でない会社が取締役の過半数を承認機関とすることもできます。「取締役会設置会社でない会社において、株式の譲渡制限に関する規定として「当会社の株式を譲渡により取得するには取締役の過半数の承認を受けなければならない。」と定款に定めて登記することができる」という肢(R7 午後 問30 エ)は正しいです。定款には、一定の場合には会社が承認をしたものとみなす旨とその場合を定めることができます(107条2項1号ロ)。株主以外の者が取得する場合だけ承認を要するとする定め、従業員以外の者に譲渡する場合に限り取締役会の承認を要するとする定めは、譲渡制限を緩める方向なので置けます。既存の譲渡制限の定めに株主間の譲渡を承認したものとみなすただし書を追加する定款変更も、全部の株式に譲渡制限を設けるものではないので特殊の決議は要らず、「株式の譲渡制限に関する規定として「当会社の株式を譲渡により取得するには取締役会の承認を受けなければならない。」と定款に定めて登記している会社が、「ただし、当会社の株主が当会社の株式を譲渡により取得する場合においては取締役会が承認をしたものとみなす。」とのただし書を追加する旨の定款の変更をした場合には、株式の譲渡制限に関する規定の変更の登記の申請書には、当該定款の変更が、株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の 3 分の 2 以上に当たる多数をもって可決された旨の株主総会の議事録を添付しなければならない」という肢(R7 午後 問30 イ)は誤りです。逆に、譲渡を全面的に禁止する定めや、会社法より厳しくする定めは置けません。
相続による取得は譲渡ではないので承認は要らず、相続人は承認なしに株主の地位を主張し名義書換を請求できます
定款の譲渡制限は「譲渡による取得」だけを対象にします。相続・合併などの一般承継による株式の移転は譲渡ではないので、会社の承認は要りません。相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者は、承認を受けていなくても株主名簿の名義書換を請求できます(134条4号)。「相続により譲渡制限株式を取得した者が株式会社に対して株主名簿の名義書換の請求をするには、当該譲渡制限株式を取得したことについて当該株式会社の承認を受けなければならない」という肢(R7 問28 オ)は誤りです。一般承継による取得について承認を要する旨を定款で定めることもできません。

会社は相続人等に株式の売渡しを請求できる旨を定款で定められ、その株主総会の招集通知は相続人にも発します
相続で会社にとって好ましくない者が株主になることを防ぐため、会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求できる旨を定款で定めることができます(174条)。一部の種類の株式だけが譲渡制限株式である公開会社でも、その種類の株式についてこの定めを置けます。請求をするには、その都度、株主総会の特別決議で請求する株式の数と相手方を定め(175条1項・309条2項3号)、相手方である相続人はこの決議で議決権を行使できません(175条2項)。ただし、議決権を行使できないのはこの議案だけなので、「株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主」(298条2項括弧書)には当たらず、相続人にも招集の通知を発しなければなりません。請求は会社が一般承継を知った日から1年以内に限られ(176条1項ただし書)、売買価格は協議で定め、請求の日から20日以内に裁判所に価格の決定を申し立てることができ、申立てが無く協議も調わなければ請求は効力を失います(177条)。
会社法 第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
会社法 第139条第1項株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
会社法 第309条第3項第1号その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設ける定款の変更を行う株主総会
試験ではこう問われる
- 全部の株式に譲渡制限を設ける定款変更は、議決権を行使できる株主の半数以上かつその議決権の3分の2以上の特殊の決議による(309条3項1号。R7 問28 ア ○)
- 譲渡制限の定めの廃止は特別決議で足りる(466条・309条2項11号)
- 承認機関は定款で変えられ、取締役会設置会社でない会社では「取締役の過半数の承認」とする定めも登記できる(139条1項。R7 午後 問30 エ ○)
- 株主間の譲渡を承認したものとみなすただし書を追加する定款変更には特殊の決議は要らない(107条2項1号ロ。R7 午後 問30 イ ×)
- 相続による取得は譲渡ではなく、相続人は承認なしに名義書換を請求できる(134条4号。R7 問28 オ ×)
- 会社は相続人等に売渡しを請求できる旨を定款で定められ、その都度の特別決議で相続人は議決権を行使できないが、招集通知は相続人にも発する(174条・175条)
- 公開会社でない会社が譲渡制限の定めを廃止すると役員の任期が満了するので、役員の退任の登記もする(332条7項3号・336条4項4号。R7 午後 問30 オ ○)

