証拠の申出と採否・撤回しょうこのもうしでとさいひてっかい
証拠の申出とは、当事者が裁判所に対し、証明すべき事実を特定して特定の証拠方法の取調べを求める申立てをいい(180条1項)、採否とは、申し出られた証拠を取り調べるかどうかを裁判所が決めることをいいます。申出は証拠調べの開始前なら自由に撤回できますが、開始後は相手方の同意が要り、終了後は撤回できません。
民事訴訟では、どの証拠を出すかは当事者が決めます。当事者は「この事実を証明するためにこの証人を調べてほしい」と申し出て、裁判所は本当に必要かを判断して取り調べるかどうかを決めます。いったん証人の話を聞いてしまうと、裁判官の頭からその内容を消すことはできませんし、相手方に有利な話が出ることもあります。そのため、申出を取り消せるかどうかは、証拠調べがどこまで進んだかで変わります。

証拠の申出は証明すべき事実を特定してするもので、期日の前にもすることができます
弁論主義の第3テーゼにより、事実認定に使う証拠は原則として当事者が申し出たものに限られます。証拠の申出は、証明すべき事実を特定してしなければならず(180条1項)、規則では証明すべき事実と証拠との関係(立証趣旨)を具体的に明示することも求められています(民事訴訟規則99条1項)。証人尋問の申出は、証人を指定してしなければなりません(同規則106条)。当事者尋問の申出も証拠の申出なので、証明すべき事実の特定が要ります。「当事者尋問の申出は、証明すべき事実を特定しなくても、することができる」という肢(R5 午後 問4 ア)は誤りです。証拠の申出は、期日前においてもすることができます(180条2項)。集中証拠調べのためには、期日を待たずに申出を受けて採否を決め、呼出しの準備を進めておく必要があるからです。検証の申出も証拠の申出なので、期日前にすることができます。
裁判所は必要でないと認める証拠を取り調べなくてよく、採否の判断には独立の不服申立てができません
裁判所は、当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは、取り調べることを要しません(181条1項)。争点と関係のない証拠や、すでに十分な心証が得られた点について重ねて申し出られた証拠は取り調べなくてよく、書証であっても同じです。ただし判例は、ある争点についての唯一の証拠方法の申出は、特段の事情がない限り取り調べなければならないとしています(唯一の証拠方法の理論)。また、証拠調べについて期間の定まらない障害があるときも、取り調べないことができます(181条2項)。証拠の採否の決定は終局判決前の裁判であり、これに対して即時抗告を認める規定はないので、独立して不服を申し立てることはできず、終局判決に対する控訴の中で控訴裁判所の判断を受けます(283条)。
証拠の申出は、証拠調べの開始前は自由に撤回でき、開始後は相手方の同意が要り、終了後は撤回できません
証拠の申出の撤回は、手続の段階によって扱いが分かれます。証拠調べが始まる前は、申出をした当事者が自由に撤回できます。証拠調べが始まると、証拠共通の原則によって相手方に有利な資料が得られている可能性があるので、撤回には相手方の同意が必要とされています。証拠調べが終わった後は、申出はすでに目的を達しており、裁判官の心証から取り調べた結果を取り除くこともできないので、撤回できません。最判昭和32年6月25日は、証人尋問が終了した後はその申出を撤回することはできないとし、鑑定についても同じ趣旨の判断があります(最判昭和58年5月26日)。

- 証拠調べの開始前申出をした当事者が自由に撤回できます
- 開始後、終了前相手方の同意があれば撤回できます(証拠共通の原則で相手方に有利な資料が出ている可能性があるため)
- 終了後撤回できません(最判昭和32年6月25日。鑑定について最判昭和58年5月26日)
争点整理が終わった後も新たな証拠を申し出ることはでき、相手方の求めがあれば早く出せなかった理由を説明します
争点及び証拠の整理手続が終わった後に新たな攻撃防御方法を出すことは禁止されていません。証拠の申出も攻撃防御方法なので、準備的口頭弁論・弁論準備手続・書面による準備手続のいずれの終了後でも、新たに証人や当事者本人の尋問を申し出ることができます。その当事者は、相手方の求めがあるときは、整理の終了前に出せなかった理由を説明しなければなりません(167条・174条・178条)。「準備的口頭弁論終了後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者は、相手方の求めがあるときは、相手方に対し、準備的口頭弁論終了前にこれを提出することができなかった理由を説明しなければならない」という肢(R7 午後 問3 オ)は正しく、「準備的口頭弁論の終了後には,攻撃又は防御の方法を提出することができない」とする肢(R2 午後 問3 オ)は誤りです。故意又は重大な過失で時機に後れた申出が訴訟の完結を遅延させるときは、申立てにより又は職権で却下されることがあり(157条1項)、その要件は時機に後れた攻撃防御方法の語で扱います。
民事訴訟法 第180条第1項証拠の申出は、証明すべき事実を特定してしなければならない。
民事訴訟法 第180条第2項証拠の申出は、期日前においてもすることができる。
民事訴訟法 第181条第1項裁判所は、当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは、取り調べることを要しない。
試験ではこう問われる
- 当事者尋問の申出も、証明すべき事実を特定してしなければならない(180条1項。R5 午後 問4 ア ×)
- 準備的口頭弁論の終了後も攻撃防御方法を出せ、相手方の求めがあれば終了前に出せなかった理由を説明する(167条。R7 午後 問3 オ ○、R2 午後 問3 オ ×)
- 証拠の申出は期日前にもでき、検証の申出も同じである(180条2項)
- 裁判所は必要でないと認める証拠を取り調べなくてよく、書証の申出があっても取り調べる義務はない(181条1項)
- 証人尋問の申出を却下する決定に即時抗告はできず、終局判決に対する上訴で争う(H26 午後 問3 イ ×・出題当時)
- 証拠調べの開始前は撤回自由、開始後は相手方の同意が要り、終了後は撤回できない(最判昭和32年6月25日)
- 証人尋問の申出を撤回しても、同じ審級で同じ証人の尋問を改めて申し出ることは禁じられていない(R1 午後 問4 ウ ×・出題当時)

