仮の地位を定める仮処分かりのちいをさだめるかりしょぶん
仮の地位を定める仮処分とは、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため、本案の判決までの暫定的な地位を定める仮処分命令で(23条2項)、原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができません(同条4項)。
仮の地位を定める仮処分は、特定の物の給付を守るのではなく、争いのある法律関係について、判決が出るまでの仮の状態を決める仮処分です。解雇の効力を争う労働者に賃金の仮払いを命じるもの、取締役の職務の執行を停止するものなどがあります。債務者に与える影響が大きいので、債務者の言い分を聞く機会を原則として設けます。

民事保全法 第23条第2項仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
仮の地位を定める仮処分は、著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要なときに発し、金銭債権に限られません
23条2項の要件は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときです(H26 午後 問6 ア)。保全するのは争いがある権利関係なので、金銭債権を保全すべき権利とする場合に限られず、金銭債権に限るとした肢(R1 午後 問6 イ)は誤りでした。保全すべき権利関係と保全の必要性を疎明しなければならない点は、他の保全命令と同じです(13条2項)。被保全権利が条件付・期限付でも発することができ(23条3項・20条2項)、条件付・期限付ならば発することができないとした肢(R1 午後 問6 ア)は誤りでした。

原則として、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければなりません
23条4項本文は、仮の地位を定める仮処分命令は口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができないとしています。要件は「口頭弁論又は」審尋の期日なので、口頭弁論の期日を経ない場合には発することができないとした肢(R1 午後 問6 ウ)は誤りでした。ただし書は、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは例外としています。「裁判所は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、その期日を経ずに、仮の地位を定める仮処分命令を発することができる」という肢(R6 午後 問6 ア)は正しい記述です。
民事保全法 第23条第4項第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
期日を経る制限は仮の地位を定める仮処分だけのもので、仮差押えや占有移転禁止の仮処分には及びません
23条4項が適用されるのは「第二項の仮処分命令」、つまり仮の地位を定める仮処分命令だけです。占有移転禁止の仮処分は係争物に関する仮処分なので、「占有移転禁止の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない」という肢(R4 午後 問6 イ)は誤りです。仮差押命令も同じで、「仮差押命令は、債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、発することができない」という肢(R8 午後 問6 ア)は誤りです。保全異議の審理では、どの保全命令でも口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日が必要になる点(29条)と区別します。
金銭の支払を命ずる仮処分が取り消されたときは、原状回復の裁判で返還を命ずることができます
仮処分の方法として、裁判所は債務者に給付を命ずることもできます(24条)。仮の地位を定める仮処分では、債務者に金銭の仮払いや物の引渡しを命じることがあり、仮処分命令がこれを命じているときは、仮処分命令が債務名義とみなされて執行されます(52条2項)。後に保全異議などで仮処分命令が取り消されると、裁判所は、債務者の申立てにより、取消しの決定の中で、債権者に対し、債務者が支払った金銭や引き渡した物の返還を命ずることができます(33条)。
試験ではこう問われる
- 仮の地位を定める仮処分は、著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要なときに発する(23条2項)
- 期日を経ると申立ての目的を達せられない事情があれば、債務者の立ち会える期日を経ずに発することができる(23条4項ただし書。R6 午後 問6 ア ○)
- 占有移転禁止の仮処分命令は、債務者の立ち会える期日を経なくても発することができる(23条4項。R4 午後 問6 イ ×)
- 仮差押命令は、債務者の立ち会える審尋の期日を経なくても発することができる(23条4項・3条。R8 午後 問6 ア ×)
- 保全すべき権利関係は金銭債権に限られず、条件付・期限付でもよい(23条2項・3項・20条2項。R7 午後 問6 ウ ○)
この用語が問われた肢
裁判所は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、その期日を経ずに、仮の地位を定める仮処分命令を発することができる。
占有移転禁止の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。
仮差押命令は、債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、発することができない。
仮処分命令は、保全すべき債権が条件付又は期限付である場合においても、発することができる。
解説と関連先例は肢別演習で読めます。

