占有移転禁止の仮処分の執行と効力せんゆういてんきんしのかりしょぶんのしっこうとこうりょく
占有移転禁止の仮処分は、債務者に係争物の占有の移転を禁じ、占有を解いて執行官に引き渡させ、執行官に保管と公示をさせる内容の仮処分で(25条の2第1項)、その執行がされると、債権者は、執行を知って係争物を占有した者と、執行後に執行を知らないで債務者の占有を承継した者に対し、本案の債務名義で引渡し又は明渡しの強制執行をすることができます(62条1項)。
占有移転禁止の仮処分は、建物の明渡しを求める訴訟の間に、被告が別の人に建物を貸したり住まわせたりして、勝訴しても明渡しを実現できなくなるのを防ぐ仮処分です。執行しておけば、その後に執行を知って占有した者や債務者から占有を承継した者に対しても、被告に対する判決で明渡しの強制執行ができます(62条1項)。この効果を当事者恒定効といいます。

民事保全法 第62条第1項占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、債権者は、本案の債務名義に基づき、次に掲げる者に対し、係争物の引渡し又は明渡しの強制執行をすることができる。
一 当該占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたことを知って当該係争物を占有した者
二 当該占有移転禁止の仮処分命令の執行後にその執行がされたことを知らないで当該係争物について債務者の占有を承継した者
占有移転禁止の仮処分は、登記ではなく、執行官の保管と公示によって執行します
占有移転禁止の仮処分命令の内容は、債務者に対し係争物の占有の移転を禁止し、及び係争物の占有を解いて執行官に引き渡すべきことを命ずることと、執行官に係争物の保管をさせ、かつ、占有の移転が禁止されている旨と執行官が保管している旨を公示させることです(25条の2第1項)。執行官は、はく離しにくい方法により公示書を掲示する方法などで公示し(民事保全規則44条1項)、引渡しを受けた係争物を債務者に保管させることもできます(民事保全規則44条2項)。登記をする方法で執行するのではないので、「不動産の占有移転禁止の仮処分命令の執行は、債務者に対してその不動産の占有の移転を禁止することを命ずるとともに、その旨の登記をする方法により行う」という肢(R6 午後 問6 オ)は誤りです。
執行を知って占有した者と、執行を知らないで債務者の占有を承継した者に、本案の債務名義で執行できます
62条1項は、占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、債権者は、本案の債務名義に基づき、執行がされたことを知って係争物を占有した者(1号)と、執行後にその執行がされたことを知らないで係争物について債務者の占有を承継した者(2号)に対し、引渡し又は明渡しの強制執行をすることができるとしています。執行を知らなくても、債務者から占有を引き継いだ者には効力が及びます。H28 午後 問6 ウ はこの2号の場面で、正しいとされました。これらの者に執行するときは、債務名義に表示された当事者以外の者に対する執行文(民事執行法27条2項)の付与を受けます。
執行後の占有者は、執行を知って占有したものと推定され、みなされるのではありません
62条2項は、占有移転禁止の仮処分命令の執行後に係争物を占有した者は、その執行がされたことを知って占有したものと「推定する」としています。推定なので、占有者は反証を挙げて覆すことができます。「みなされる」とした肢(H30 午後 問6 イ)は誤りでした。占有者は、執行文の付与に対する異議の申立てにおいて、債権者に対抗することができる権原により占有していること、又は執行を知らず、かつ、債務者の占有の承継人でないことを理由とすることができます(63条)。

民事保全法 第62条第2項占有移転禁止の仮処分命令の執行後に当該係争物を占有した者は、その執行がされたことを知って占有したものと推定する。
訴訟承継の手続をとらずに済む点で、訴訟の当事者を固定する役割を果たします
仮処分がなければ、債務者が占有を第三者に移したときは、債権者はその第三者を訴訟に引き込む訴訟引受けの手続をとるか、別に訴えを起こさなければなりません。占有移転禁止の仮処分を執行しておけば、債務者を被告としたまま判決を得て、執行の段階で占有者に執行文の付与を受ければ足ります。債務者を特定することが困難な不動産については、債務者を特定しないで発することもできます(25条の2第1項)。
試験ではこう問われる
- 占有移転禁止の仮処分は、登記ではなく、執行官の保管と公示で執行する(25条の2第1項。R6 午後 問6 オ ×)
- 執行を知って占有した者には、本案の債務名義で明渡しの強制執行ができる(62条1項1号)
- 執行後に執行を知らないで債務者の占有を承継した者にも、本案の債務名義で執行できる(62条1項2号。H28 午後 問6 ウ ○・出題当時)
- 執行後の占有者は、執行を知って占有したものと推定される(62条2項。H30 午後 問6 イ ×・出題当時)
- 占有者は、執行文の付与に対する異議で、対抗できる権原や善意かつ非承継を主張できる(63条)
この用語が問われた肢
不動産の占有移転禁止の仮処分命令の執行は、債務者に対してその不動産の占有の移転を禁止することを命ずるとともに、その旨の登記をする方法により行う。
解説と関連先例は肢別演習で読めます。

