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特定物債権と保存義務(400条)・注意義務の程度の一覧とくていぶつさいけんとほぞんぎむ

民法 第9章 債権の目的と効力 過去問で12肢

特定物債権とは、この絵画・この建物のように、当事者が物の個性に着目して定めた特定物の引渡しを目的とする債権のことで、債務者は引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもってその物を保存しなければなりません(400条)。注意義務の程度は、善良な管理者の注意、自己の財産に対するのと同一の注意、固有財産におけるのと同一の注意などに分かれ、制度ごとに条文で決まっています。

中古の絵画を買う約束をして、引渡しは来月と決めたとします。その間、絵は売主の手元にあり、壊れれば買主が困ります。そこで民法は、特定物を引き渡す債務者に、引渡しまで物を大切に保管する義務を負わせています。どの程度の注意が要るかは、無償か有償か、誰のための管理か、相手方に落ち度があるかで変わり、条文が場面ごとに書き分けています。試験では、この注意の程度の言い回しが1語だけ入れ替えられます。

画廊の倉庫の場面。壁に一枚の絵画が掛かり、札「特定物(この絵)」が付いている。先生が売主役(札「売主」)で、手袋をはめて絵の額を布で丁寧に拭いている。横の机に契約書(「引渡しは来月」)と、温度湿度計。入口から男性(札「買主」)がのぞき込んで

特定物の引渡債務者は、引渡しをするまで、契約と取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意でその物を保存しなければなりません

400条は、債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならないと定めています。善良な管理者の注意とは、その人の能力にかかわらず、その立場にある人に一般に求められる程度の注意のことです。贈与には寄託の659条のような軽減の規定がないので、特定物を贈与した者も400条により善良な管理者の注意を負います。400条は任意規定なので、当事者の特約で注意義務を加重することも軽減することもできます。改正後の400条が「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」と書き加えたのも、保存義務の中身が契約の趣旨で決まることを示すためです。なお、引渡しをすべき時の品質を契約などから定めることができないときは、その時の現状で引き渡せば足ります(483条)。

債権者が受領を拒み、又は受領できないときは、債務者は履行の提供をした時から自己の財産に対するのと同一の注意で保存すれば足ります

413条1項は、債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りると定めています。引渡しが遅れている原因が債権者の側にあるのに、債務者に重い注意を負わせ続けるのは公平でないからです。軽減されるのは注意の程度であって、保存義務そのものがなくなるわけではないので、受領遅滞の後に債務者が故意に物を滅失させれば責任を負います。受領遅滞のそのほかの効果(増加費用の負担・不能の帰責)は、受領遅滞の語で扱います。

無償であることを理由に注意義務が軽くなるのは条文に定めがある場合だけで、無報酬の受寄者は軽くなりますが、受任者は無償でも善良な管理者の注意を負います

659条は、無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負うと定めています。対価を得ずにもっぱら寄託者のために保管を引き受けた者には、重い注意を求めないという趣旨です。ただし、商人がその営業の範囲内において寄託を受けた場合には、報酬を受けないときであっても善良な管理者の注意を負います(商法595条)。「倉庫営業者は,その営業の範囲内において寄託を受けた場合であっても,報酬を受けないときは,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,寄託物を保管する義務を負うことになる」という肢(R3 問35 ウ)は誤りです。これに対し、委任には無償の場合の軽減規定がなく、受任者は委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います(644条)。委任は当事者の信頼関係を基礎に他人の事務を任せる契約だからです。「受任者は、報酬を請求することができる旨の合意がある場合に限り、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」という肢(R8 問19 ア)は誤りです。株式会社と取締役の関係も委任に関する規定に従うので(会社法330条)、社外取締役も善良な管理者の注意をもって任務を遂行しなければなりません。他人の物を占有する担保権者も重い注意を負い、留置権者は善良な管理者の注意をもって留置物を占有しなければならず(298条1項)、この規定は質権に準用されます(350条)。留置権者がこの義務に違反したときは債務者は留置権の消滅を請求でき(298条3項)、債務者から留置物を譲り受けた第三取得者も、譲受け後の違反を理由に消滅を請求できます。「留置物の所有者である債務者から当該留置物を譲り受けた第三取得者は、その譲受けの後に、留置権者が善良な管理者の注意をもって当該留置物を占有すべき義務に違反したとしても、留置権の消滅請求をすることができない」という肢(R8 問11 エ)は誤りです。事務管理の管理者も、急迫の危害を免れさせるための緊急事務管理(698条)を除き、善良な管理者の注意を負うと解されています。緊急事務管理については、「管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重過失があるのでなければ、その事務管理によって生じた損害を賠償する責任を負わない」という肢(R4 問19 オ)は正しいです。

相続財産の管理は固有財産・自己の財産と同じ程度の注意で足り、親権者の財産管理は自己のためにするのと同一の注意で足ります

相続人は、相続の承認又は放棄をするまでの間、その固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理しなければなりません(918条)。相続人は自分の意思で財産を取得したわけではなく、帰属もまだ決まっていないからです。限定承認者も、その固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産の管理を継続しなければならず(926条1項)、相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときに限り、相続人又は相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければなりません(940条1項。令和3年改正で「管理の継続」から「現に占有している財産の保存」に改められました)。親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもってその管理権を行わなければならず(827条)、親子という関係から注意義務が軽減されています。これに対し、後見人には644条が準用されるので(869条)、後見人は善良な管理者の注意を負います。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立つ。黒板に縦に段の並んだ表があり、上から「善良な管理者の注意=特定物の債務者・贈与者・受任者(無償でも)・後見人・留置権者」「自己の財産に対するのと同一の注意=受領遅滞の後の債務者・無報酬
  • 善良な管理者の注意特定物の引渡債務者・贈与者(400条)、受任者(無償でも、644条)、後見人(869条)、留置権者・質権者(298条1項・350条)、事務管理者(緊急事務管理を除く)、商人の受寄者(無報酬でも、商法595条)
  • 自己の財産に対するのと同一の注意受領遅滞の後の特定物の債務者(413条1項)、無報酬の受寄者(659条)
  • 固有財産におけるのと同一の注意熟慮期間中の相続人(918条)、限定承認者(926条1項)
  • 自己の財産におけるのと同一の注意相続放棄者で現に占有している者(940条1項)
  • 自己のためにするのと同一の注意親権者の財産管理(827条)
  • 悪意又は重大な過失がある場合に限り責任緊急事務管理の管理者(698条)
民法 第400条

(特定物の引渡しの場合の注意義務)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

民法 第413条第1項

債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。

民法 第659条

(無報酬の受寄者の注意義務)
無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。

試験ではこう問われる

  1. 特定物の引渡債務者は引渡しまで善良な管理者の注意で保存し、特約で軽減も加重もできる。贈与者も同じ(400条)
  2. 受領遅滞があれば、履行の提供の時から自己の財産に対するのと同一の注意に下がる(413条1項)
  3. 無報酬の受寄者は自己の財産に対するのと同一の注意で足りるが、商人が営業の範囲内で受けた寄託は無報酬でも善良な管理者の注意(659条・商法595条。R3 問35 ウ ×)
  4. 受任者は報酬の合意がなくても善良な管理者の注意を負う(644条。R8 問19 ア ×)
  5. 留置権者が善管注意義務に違反すれば、債務者から留置物を譲り受けた第三取得者も消滅を請求できる(298条。R8 問11 エ ×、R4 問13 エ ×)
  6. 緊急事務管理の管理者は悪意又は重大な過失があるときだけ責任を負う(698条。R4 問19 オ ○)
  7. 熟慮期間中の相続人・限定承認者は固有財産、相続放棄者は自己の財産、親権者は自己のためにするのと同一の注意で足りる(918条・926条1項・940条1項・827条)

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