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同時履行の抗弁権の効果(存在効果・提供の継続・引換給付判決)と留置権との比較どうじりこうのこうべんけんのこうか

民法 第12章 契約総論 過去問で5肢

同時履行の抗弁権の効果とは、同時履行の抗弁権が付いている債務について、履行期を過ぎても履行遅滞の責任を負わず(存在効果)、訴訟で主張されれば反対給付と引換えに給付を命じる引換給付判決がされることなど、この抗弁権が生じさせる法律上の働きです。

同時履行の抗弁権は、相手が履行を提供するまで自分の履行を拒めるという権利です。この権利があると、約束の日を過ぎて代金を払わなくても、遅れたことの責任は問われません。相手が代金を求めて訴えても、裁判所は請求をはねつけるのではなく、「品物を受け取るのと引換えに払え」と命じます。相手が一度だけ品物を持ってきても、それで権利が消えるわけではありません。似た働きをする留置権とは、拒める内容や物を手放したときの扱いが違います。

法廷の場面。正面の裁判官席に先生が裁判官役(札「裁判所」)で座り、判決書を読み上げている。判決書の見出し「主文 被告は、原告から甲動産の引渡しを受けるのと引換えに、原告に対し代金を支払え」。左の原告席に売主の男性(札「原告・売主」)、右の被

同時履行の抗弁権が付いている債務は、履行期を過ぎても履行遅滞にならないので、相手方は自分の履行を提供しなければ解除も相殺もできません

判例は、同時履行の抗弁権を有する者は履行期を過ぎても遅滞の責任を負わないとしています(大判大正14年10月29日)。抗弁権が存在すること自体で履行しないことの違法性がなくなると説明され、存在効果と呼ばれます。そのため、履行期が同じ売買で履行期が過ぎても、一方の当事者は自分の債務の弁済又はその提供をしなければ相手方を遅滞に陥らせることができず、債務不履行を理由に解除することもできません(最判昭和29年7月27日)。売主が買主の住所地に目的物を持参し、その引渡しと同時に代金を支払うとされた売買で、買主が代金支払の準備をして待っていたのに売主が持参しなかった場合は、買主は受領の催告をしなくても売主に履行遅滞の責任を問えます。この場合について「Bは、代金支払の準備をしたことを通知してその受領の催告をしなければ、Aに対して、履行遅滞による損害賠償を請求することはできません」という肢(R7 問17 ア)は誤りです。自働債権に相手方の同時履行の抗弁権が付いている場合は、相殺も許されません(大判昭和13年3月1日)。相殺を認めると、相手方は反対給付を受けないまま抗弁権を一方的に奪われるからです。「債権につき,弁済期が到来していれば,その債権の債務者が同時履行の抗弁権を有していても,その債権の債権者は,その債権を自働債権として,相殺をすることができる」という肢(R3 問17 オ)は誤りです。この効果の説明の仕方は、主張立証の振り分けにも影響します。同時履行の抗弁権が存在すれば遅滞の違法性が阻却されるとする見解(存在効果説)に立つと、売買契約の主張だけで抗弁権の存在が明らかになるので、履行遅滞に基づく損害賠償を求める原告は、請求原因として自己の債務の履行又は履行の提供を主張立証しなければならないことになります。抗弁権を行使して初めて履行拒絶が正当化されるとする見解(行使効果説)からは、被告が同時履行の抗弁を主張し、原告が履行又は提供を再抗弁として主張立証することになります。

相手方が一度履行の提供をしても、提供を継続しない限り、同時履行の抗弁権は失われません

判例は、双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があっても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失うものではないとしています(最判昭和34年5月14日)。一度提供した者が後で無資力になることもあるので、一回の提供で抗弁権を消すと公平を欠くからです。買主がいったん受領を拒んだ場合も同じで、売主が後で代金を請求するには、提供を継続するか改めて提供しなければなりません(大判明治44年12月11日)。売主が一度持参して受領を拒まれた目的物についても、後日の代金請求に対して買主は引渡しとの同時履行を主張できます。売主の引渡しが先、買主の代金支払が後と定めていても、双方が履行しないまま代金の支払期日も過ぎれば両債務は同時履行の関係になります。そのため、代金を提供しないまま引渡しを求めた買主に対し、売主は同時履行の抗弁権を主張して引渡しを拒むことができます。

解除のために履行を提供して催告した者は、催告期間中に提供を継続しなくても解除できます

本来の履行を求める場面と違い、解除の場面では、相手方を一度遅滞に陥らせれば足ります。判例は、債権者は先に履行の催告をした際に自己の債務の履行を提供し、債務者を遅滞に付した以上、解除権を行使するに当たってはその提供を継続することを要しないとしています(大判昭和3年5月31日)。解除すれば相手方の債務も消えるので履行上の結び付きを保つ必要がなく、提供を続けなければ解除できないとすると解除権が不当に制約されるからです。相当の期間を定めて催告した当事者は、その期間中に弁済の提供を継続しなくても契約を解除できます。

酒店の店先の場面。売主の男性(札「売主」)がワインの木箱を抱えて買主の家の玄関に来たが、玄関先の買主の女性(札「買主」)は手を振って受け取らない(1枚目の小さなコマ「1週間前」)。右の大きなコマで、売主が手ぶらで「代金を払ってください」と請

訴訟で同時履行の抗弁が認められると、請求棄却ではなく引換給付判決がされ、留置権の抗弁でも同じです

同時履行の抗弁は、請求権そのものを否定するのではなく、反対給付があるまで履行を拒むことを認めるだけなので、判例は引換給付判決をすべきだとしています(大判明治44年12月11日)。判決主文には、「被告は、原告から甲動産の引渡しを受けるのと引換えに、代金を支払え」というように引換えの旨が記載され、請求が全部棄却されるわけではありません。留置権も、物の引渡請求訴訟で抗弁が認められれば、被担保債権の弁済と引換えに引渡しを命じる引換給付判決になります(最判昭和33年3月13日)。これに対し、質権は弁済を受けるまで質物を留置できる権利で、弁済が先履行なので(大判大正9年3月29日)、質権の主張が認められると請求は棄却されます。「質権設定者が被担保債権の弁済前に質権者に対して訴訟を提起して目的物の返還を請求し、質権者が質権の抗弁を主張した場合には、裁判所は、当該請求を棄却するとの判決をするのではなく、被担保債権の弁済と引換えに目的物を引き渡せとの引換給付判決をしなければならない」という肢(R5 問14 オ)は誤りです。

同時履行の抗弁は被告が履行を拒む旨を主張して行使し、先履行の合意は再抗弁になりますが、過去の履行の提供は再抗弁になりません

売主が代金を請求する訴訟では、売買契約の締結を請求原因として主張すれば、双務契約であることから同時履行の抗弁権の存在も基礎付けられます。それでも、私的自治の観点から、被告の買主は、相手方が履行するまで支払を拒絶するとの権利主張をしなければ抗弁になりません。被告が引渡しの履行期の到来や未引渡しの事実まで主張する必要はありません(533条ただし書の弁済期の未到来は原告が主張する事情です)。代金の支払を目的物の引渡しより先に履行する合意は、533条ただし書に当たる事実として原告の再抗弁になります。これに対し、訴え提起前に一度履行の提供をしたことは、提供が継続されない限り抗弁権を失わせないので再抗弁になりません。

留置権は物の引渡しだけを拒める物権で、占有を失えば消え、代担保で消滅を請求されますが、同時履行の抗弁権にはこれらの制約がありません

留置権は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権の弁済を受けるまで物を留置できる権利で(295条1項)、拒めるのは物の引渡しに限られます。同時履行の抗弁権は、自己の債務の履行を拒める権利なので、金銭の支払や登記手続など物の引渡し以外の給付も拒めます。留置権は留置物の占有を失うと消滅しますが(302条)、同時履行の抗弁権は占有を要件としないので、売主が目的物の占有を失っても代金支払との同時履行は主張できます。留置権については債務者が相当の担保を供して消滅を請求できますが(301条)、同時履行の抗弁権には同じ規定がありません。留置権は物権なので契約の相手方以外の第三者にも主張できますが、同時履行の抗弁権は双務契約の相手方に対して主張する権利です。留置権の成立要件と効力は前半の担保物権の語で扱い、両者の比較はこの語にまとめています。

留置権と同時履行の抗弁権の比較

  • 根拠: 留置権は物権(295条)、同時履行の抗弁権は双務契約の効力(533条)
  • 拒める給付: 留置権は物の引渡しだけ、同時履行の抗弁権は自己の債務一般
  • 主張できる相手: 留置権は第三者にも、同時履行の抗弁権は契約の相手方(債権譲受人・代位債権者を含む)
  • 占有の喪失: 留置権は消滅する(302条)、同時履行の抗弁権は影響を受けない
  • 代担保による消滅請求: 留置権はできる(301条)、同時履行の抗弁権はできない
  • 訴訟での扱い: どちらも引換給付判決(質権は請求棄却)
民法 第533条

(同時履行の抗弁)
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

民法 第301条

(担保の供与による留置権の消滅)
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。

民法 第302条

(占有の喪失による留置権の消滅)
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第二百九十八条第二項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。

試験ではこう問われる

  1. 同時履行の抗弁権があれば履行期を過ぎても遅滞にならず(大判大正14年10月29日)、相手方は自己の債務の提供をしなければ解除できない(最判昭和29年7月27日)
  2. 引渡しと代金支払を同時とした売買で、買主が代金の準備をして待っていたのに売主が目的物を持参しなかったときは、買主は受領の催告をしなくても履行遅滞による損害賠償を請求できる(R7 問17 ア ×)
  3. 自働債権に相手方の同時履行の抗弁権が付いていれば、弁済期が来ていても相殺できない(大判昭和13年3月1日。R3 問17 オ ×)
  4. 一度提供しても継続しなければ相手方の抗弁権は失われないが、解除のための催告期間中は提供を継続しなくてよい(最判昭和34年5月14日、大判昭和3年5月31日)
  5. 同時履行の抗弁や留置権の抗弁が認められれば引換給付判決になるが、質権の抗弁では請求棄却になる(最判昭和33年3月13日、大判大正9年3月29日。R5 問14 オ ×)
  6. 先履行の債務者も、相手方の債務の弁済期が過ぎれば同時履行を主張できる
  7. 留置権は物の引渡しだけを拒め、占有を失えば消滅し、代担保で消滅を請求されるが、同時履行の抗弁権にはこれらの制約がない(295条1項・301条・302条)

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