一般の先取特権(306条〜310条・335条・336条)いっぱんのさきどりとっけん
一般の先取特権とは、共益の費用・雇用関係・子の監護の費用・葬式の費用・日用品の供給の5つの原因によって生じた債権を持つ者が、債務者の総財産について他の債権者に先立って弁済を受けることができる法定担保物権です(306条)。
会社が倒産したとき、従業員の未払給料や、債権者みんなのために財産を管理した費用まで、他の債権者と同じ割合でしか払われないとしたら不公平です。そこで民法は、特に保護すべき一定の債権に、債務者の財産全体から先に弁済を受ける権利を与えました。これが一般の先取特権です。合意がなくても法律が当然に与える担保なので、どの債権が守られ、どの順で、どの財産からかが条文で細かく決められています。

一般の先取特権は5つの原因について債務者の総財産に生じ、互いに競合すれば306条の順序に従います
306条は、共益の費用、雇用関係、子の監護の費用、葬式の費用、日用品の供給によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有すると定めています。子の監護の費用は令和6年の改正で加わりました(308条の2)。一般の先取特権が互いに競合するときは、306条各号の順序、つまり共益の費用、雇用関係、子の監護の費用、葬式の費用、日用品の供給の順に優先します(329条1項)。葬式の費用の先取特権は、日用品の供給の先取特権に優先します。特別の先取特権と競合するときは特別の先取特権が優先すること(329条2項)は、先取特権の順位の語で扱います。
共益の費用は利益を受けた債権者に対してだけ存在し、雇用関係の先取特権は給料その他雇用関係に基づく債権全部について存在します
共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在し(307条1項)、すべての債権者に有益でなかった費用については、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在します(同条2項)。「共益の費用のうち全ての債権者に有益でなかったものについては、共益の費用の先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する」という肢(R6 問12 ア)は正しいです。雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在します(308条)。退職金も雇用関係に基づく債権なので含まれ、かつての最後の6か月分という期間の制限もありません。「雇用関係の先取特権は、債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた最後の6 か月間の債権についてのみ存在する」という肢(R7 問12 ア)は誤りです。葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在し(309条1項)、債務者が扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額にも及びます(同条2項)。

日用品の供給の先取特権は生活に必要な最後の6か月分について存在し、その債務者は自然人に限られます
日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6か月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在します(310条)。判例は、310条の債務者は自然人に限られ、法人は含まれないとしています(最判昭和46年10月21日)。この先取特権は、資力の乏しい者が生活に必要な物の供給を受けやすくするためのもので、法人には生活の保護が要らず、法人に及ぼすと範囲の限定も難しくなるからです。法人に供給した電気が代表者とその家族の生活に使われていても、法人の財産に日用品の供給の先取特権は生じません。
一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から、次に特別担保の目的でない不動産から弁済を受けます
一般の先取特権は債務者の総財産に及ぶので、特定の財産に担保を持つ債権者の利益を害しないよう、弁済を受ける財産の順序が決められています。一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ不動産から弁済を受けることができず(335条1項)、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければなりません(同条2項)。不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当する場合には、この順序は適用されません(同条4項)。「一般の先取特権者は、債務者の財産に不動産と不動産以外の財産とがある場合には、まず不動産から弁済を受けなければならない」という肢(R5 問13 ウ)は誤りです。配当加入を怠ると、加入すれば受けられた額について登記をした第三者に先取特権を行使できなくなります(同条3項)。
一般の先取特権は登記がなくても一般債権者に対抗できますが、登記をした第三者には対抗できません
336条は、一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗できるとし、ただし登記をした第三者に対してはこの限りでないと定めています。一般の先取特権は登記をしないのが普通なので、一般債権者には優先しますが、登記をした抵当権者や不動産売買の先取特権者には対抗できません。「一般の先取特権者は、不動産について登記をしなくても、不動産売買の先取特権について登記をした者に優先して当該不動産から弁済を受けることができる」という肢(R5 問13 ア)は誤りです。
一般の先取特権は総財産を目的とするので、債務者の財産の売却代金にも差押えなしに行使でき、物の返還を求める権利は含みません
304条1項ただし書は、物上代位をするには払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならないとしています。しかし一般の先取特権は、もともと債務者の総財産を目的とするので、動産を売却して債務者が取得した代金債権も総財産の一部として目的になり、物上代位の差押えを要しません。債務者がその所有物の代償として支払を受けた金銭にも行使できます。もっとも、行使は民事執行法上の担保権の実行手続によるので、「一般の先取特権者は、民事執行法上の担保権の実行手続によることなく、債務者の有する債権を直接取り立てることができる」という肢(R7 問11 イ)は誤りです。一般の先取特権は優先弁済を受ける権利で、物を占有する権利を含まないので、これに基づいて物の返還を請求することはできません。
民法 第306条(一般の先取特権)
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 子の監護の費用
四 葬式の費用
五 日用品の供給
民法 第310条(日用品供給の先取特権)
日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。
民法 第335条第1項一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。
民法 第336条(一般の先取特権の対抗力)
一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 一般の先取特権は、共益の費用・雇用関係・子の監護の費用・葬式の費用・日用品の供給の順に優先する(306条・329条1項)
- すべての債権者に有益でなかった共益の費用は、利益を受けた債権者に対してのみ先取特権がある(307条2項。R6 問12 ア ○)
- 雇用関係の先取特権は雇用関係に基づく債権全部について存在し、最後の6か月間の債権に限られない(308条。R7 問12 ア ×)
- 日用品の供給の先取特権の債務者は自然人に限られる(最判昭和46年10月21日)
- 一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受ける(335条1項。R5 問13 ウ ×)
- 登記をしていない一般の先取特権は、登記をした不動産売買の先取特権に優先しない(336条ただし書。R5 問13 ア ×)
- 担保権の実行手続によらずに、債務者の債権を直接取り立てることはできない(R7 問11 イ ×)

