動産の先取特権(311条〜324条・333条の追及効の制限)どうさんのさきどりとっけん
動産の先取特権とは、不動産の賃貸借・旅館の宿泊・運輸・動産の保存・動産の売買など8つの原因によって生じた債権を持つ者が、債務者の特定の動産について優先弁済を受ける法定担保物権です(311条)。目的の動産が第三取得者に引き渡されると、その動産には行使できなくなります(333条)。
アパートの大家は、家賃を払わない入居者が部屋に持ち込んだ家具から、他の債権者より先に家賃を回収できます。旅館も宿泊代を払わない客の手荷物から、家電店も代金未払の冷蔵庫から回収できます。どれも、その動産と債権の間に特別な結びつきがあるので、法律が当然に優先権を与えるのです。ただ、動産は転々と流通するので、買主の手を離れて第三者に引き渡されたら追いかけられないことにして、取引の安全を守っています。

動産の先取特権は8つの原因について債務者の特定の動産に生じ、不動産賃貸の先取特権は賃借人が備え付けた動産などに及びます
311条は、不動産の賃貸借、旅館の宿泊、旅客又は荷物の運輸、動産の保存、動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務、工業の労務によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有すると定めています。動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在するので(321条)、「動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、債務者の総財産について存在する」という肢(R5 問11 イ)は誤りです。不動産の賃貸の先取特権は、賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在します(312条)。建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在します(313条2項)。賃借権が譲渡され、又は転貸されたときは、賃貸人の先取特権は譲受人又は転借人の動産にも及びます(314条)。賃貸人の債権が譲渡の前に生じたものでも同じです。「建物の賃借権の譲渡が適法にされた場合であっても、建物の賃貸人の先取特権は、賃借権の譲受人がその建物に備え付けた動産には及ばない」という肢(R6 問12 イ)は誤りです。転貸人が受けるべき金銭にも及ぶので(314条後段)、「不動産の賃借人がその不動産を転貸している場合には,賃貸人の先取特権は,賃借人がその転貸借契約に基づいて転借人から受けるべき金銭にも及ぶ」という肢(R3 問11 エ)は正しいです。
賃貸人が敷金を受け取っているときは、敷金で弁済を受けない部分についてだけ先取特権を持ちます
316条は、賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有すると定めています。敷金はもともと賃借人の債務を担保するために預かっているので、その範囲では先取特権まで重ねて与える必要がないからです。「不動産の賃貸人は,敷金を受け取っている場合には,その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ,不動産賃貸の先取特権を有する」という肢(R3 問11 ア)は正しいです。
旅館の宿泊の先取特権には即時取得の規定が準用され、宿泊客の物でない手荷物にも行使できる場合があります
旅館の宿泊の先取特権は、宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し、その旅館にある宿泊客の手荷物について存在します(317条)。319条は、不動産賃貸・旅館の宿泊・運輸の先取特権について、即時取得の192条から195条までを準用しています。そのため、手荷物が宿泊客の物でなくても、旅館の主人がそれを宿泊客の物と善意かつ過失なく信じたときは、先取特権を行使できます。この準用は不動産賃貸の先取特権にも及ぶので、「不動産の賃貸の先取特権について、即時取得の規定は準用されない」という肢(R7 問12 ウ)は誤りです。

債務者が目的の動産を第三取得者に引き渡すと先取特権は行使できなくなり、その引渡しには占有改定も含まれます
333条は、先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができないと定めています。動産には登記のような公示がないので、流通した先まで追いかけさせると取引の安全を害するからです。第三取得者の善意・悪意は問いません。333条は動産についての規定なので、不動産の先取特権は目的の不動産が売却されて引き渡されても消滅しません。不動産保存の先取特権について「はい。先取特権は,債務者がその目的物を第三取得者に引き渡した後はその物について行使することができませんので,Aの甲建物についての不動産保存の先取特権は消滅します」という解答(R2 問11 エ)は誤りです。売主と買主の間で第三者に引き渡しても先取特権を行使できる旨の特約をしても、転買主には効きません。333条の引渡しには占有改定も含まれます(大判大正6年7月26日)。譲渡担保の設定を受けた者も第三取得者に当たり、占有改定による引渡しを受ければ動産売買の先取特権は行使できなくなります(最判昭和62年11月10日)。
先取特権は物を占有する権利を含まず、被担保債権とともに移転します
先取特権は優先弁済を受ける権利で、目的物の引渡しを求める権利は含みません。代金が支払われなくても、売主は先取特権に基づいて買主に目的物の引渡しを請求することはできず、競売を申し立てて優先弁済を受けることになります。先取特権は被担保債権に従たる権利なので、債権が譲渡されれば一緒に移転します。不動産保存の先取特権について、請負代金債権を譲渡したときに「いいえ。被担保債権の譲渡があった場合には,新たな債権者に不動産保存の先取特権が移転しますので,甲建物についての不動産保存の先取特権は消滅しません」という解答(R2 問11 オ)は正しいです。動産の先取特権どうしや動産質権との順位は先取特権の順位の語で、転売代金債権への物上代位は動産売買先取特権の物上代位の語で扱います。
- 不動産の賃貸(312条〜316条)賃借人が備え付けた動産など。譲受人・転借人の動産にも及び、敷金で弁済を受けない部分に限ります
- 旅館の宿泊(317条)宿泊料・飲食料について旅館にある手荷物。即時取得を準用します(319条)
- 運輸(318条)運送賃・付随の費用について運送人の占有する荷物
- 動産の保存(320条)保存の費用についてその動産
- 動産の売買(321条)代価と利息についてその動産
- 農業の労務(323条)・工業の労務(324条)最後の1年間の賃金について果実、最後の3か月間の賃金について製作物
民法 第316条賃貸人は、第六百二十二条の二第一項に規定する敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。
民法 第319条(即時取得の規定の準用)
第百九十二条から第百九十五条までの規定は、第三百十二条から前条までの規定による先取特権について準用する。
民法 第333条(先取特権と第三取得者)
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
試験ではこう問われる
- 動産の売買の先取特権は、代価と利息についてその動産に存在し、債務者の総財産には及ばない(321条。R5 問11 イ ×)
- 賃借権が適法に譲渡されたときは、賃貸人の先取特権は譲受人が備え付けた動産にも及ぶ(314条。R6 問12 イ ×)
- 転貸のときは、賃貸人の先取特権は賃借人が転借人から受けるべき金銭にも及ぶ(314条。R3 問11 エ ○)
- 敷金を受け取っていれば、敷金で弁済を受けない部分についてのみ不動産賃貸の先取特権を持つ(316条。R3 問11 ア ○)
- 不動産賃貸・旅館の宿泊・運輸の先取特権には即時取得の規定が準用される(319条。R7 問12 ウ ×)
- 目的の動産が第三取得者に引き渡されると行使できず、引渡しには占有改定も含まれる(333条。大判大正6年7月26日)
- 333条は動産についての規定で、不動産保存の先取特権は不動産が売却され引き渡されても消滅しない(R2 問11 エ ×)
- 先取特権は被担保債権の譲渡に伴って移転する(R2 問11 オ ○)

