履行遅滞の時期(412条・期限の種類と債務の性質別の一覧)りこうちたいのじき
履行遅滞とは、債務者が履行期に履行できるのに履行しないことで、遅滞の責任を負う時期は、確定期限があれば期限の到来した時、不確定期限があれば期限到来後に履行の請求を受けた時又は期限の到来を知った時のいずれか早い時、期限の定めがなければ履行の請求を受けた時です(412条)。
支払日を決めて約束したなら、その日を過ぎれば支払が遅れたことになるのは分かりやすいはずです。では、「父が亡くなったら払う」「いつでもよい」という約束や、事故の損害賠償のように約束自体がない場合は、いつから遅れたことになるのでしょう。遅れた時から遅延損害金が付くので、その始まりの時期は大きな意味を持ちます。民法は期限の種類ごとに遅滞の始まりを決め、判例が債務の性質ごとに補っています。

確定期限のある債務は期限の到来した時から遅滞しますが、債権者の取立てが先に必要な取立債務では、債権者が取立てをしない間は遅滞しません
412条1項は、債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負うと定めています。ただし、債権者が債務者の住所まで取りに来る取立債務では、履行の完了に債権者の行為が先に必要なので(493条ただし書参照)、債務者が準備をして通知していれば、債権者が取立てに来ない限り履行しないことの責任を負いません。指図証券の債務者も、期限の定めがあるときであっても、期限が到来した後に所持人が証券を提示して履行の請求をした時から遅滞の責任を負うので(520条の9)、「指図証券に記載された期限の定めのある債務の債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う」という肢(R5 問16 イ)は誤りです。また、返還期日を日で定めた貸金は、その日のうちに返せば期限に間に合うので、遅滞になるのは返還期日が過ぎた翌日からです。これに対し、利息は元本利用の対価なので、利息の特約があれば借主が金銭を受け取った日以後の利息を支払い(589条2項)、受け取った当日から利息が付きます(最判昭和33年6月6日)。
不確定期限のある債務は、期限の到来した後に履行の請求を受けた時又は期限の到来を知った時のいずれか早い時から遅滞します
412条2項は、債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負うと定めています。「父が死亡したら支払う」のように、いつ来るか分からない期限では、債務者が期限の到来を知らないまま遅滞の責任を負わせるのは酷ですが、知らないふりを続ければ遅滞を免れるのも不当です。そこで、債権者から請求を受ければ、知らなくてもその時から遅滞するとしました。逆に、請求を受けていなくても期限の到来を知れば遅滞するので、「Aが死亡したら履行するとの履行期を定めた債務の債務者は、Aが死亡した後に履行の請求を受けていなくとも、Aの死亡を知った時から遅滞の責任を負う」という肢(R5 問16 ア)は正しいです。改正前の412条2項は「期限の到来したことを知った時から」とだけ定めていましたが、現行法は請求を受けた時を加えました。なお、時効の起算点は期限が到来した時(166条1項)で、遅滞の時期とは別の規律です。
期限の定めのない債務は履行の請求を受けた時から遅滞し、返還時期の定めのない消費貸借では相当の期間を定めない催告でも相当の期間を経過した時から遅滞します
412条3項は、債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うと定めています。善意の不当利得者の返還債務も期限の定めのない債務で、判例は、履行の請求を受けた時から遅滞するとしています。消費貸借には特則があり、当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は相当の期間を定めて返還の催告をすることができます(591条1項)。借主に返済の準備の時間を与えるためで、貸主が相当の期間を定めずに催告しても、催告の時から相当の期間を経過すれば借主は遅滞の責任を負います。「消費貸借契約において返還の時期が定められていなかった場合において,貸主が期間を明示せずに返還の催告をしたときであっても,借主が催告を受けた時から返還の準備をするのに相当な期間を経過したときは,借主は,返還義務について遅滞の責任を負う」という肢(R2 問19 エ)は正しく、「返還時期の定めのない貸金の返還債務の債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」という肢(R5 問16 エ)は誤りです。詐害行為取消請求で受益者が取消債権者に受領金を支払う債務について、判例は、取消判決の確定により受領時にさかのぼって生じる期限の定めのない債務であり、取消判決の確定より前にされた請求も412条3項の「履行の請求」に当たるとして、履行の請求を受けた時に遅滞に陥るとしました(最判平成30年12月14日)。判決の確定まで遅滞しないとすると、受益者が争えば争うほど得をするからです。「詐害行為取消権に基づく受領物返還債務の債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」という肢(R5 問16 ウ)は正しいです。
債務不履行による損害賠償債務は請求を受けた時から遅滞しますが、不法行為による損害賠償債務は損害の発生と同時に催告なしで遅滞します
債務不履行による損害賠償債務は期限の定めのない債務なので、412条3項により、債権者から履行の請求を受けた時にはじめて遅滞に陥ります。判例は、安全配慮義務違反による損害賠償債務についてもこのように判断しました(最判昭和55年12月18日)。損害が発生した時から遅滞するのではありません。これに対し、不法行為による損害賠償債務について、判例は、損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく遅滞に陥るとしています(最判昭和37年9月4日)。被害者は自分の意思によらず損害を受けたので、催告を待たせるのは公平でないからです。「不法行為に基づく損害賠償債務の債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」という肢(R5 問16 オ)は誤りです。供託でも同じで、「不法行為に基づく損害賠償債務の債務者は、損害賠償額に相当する額に履行の請求を受けた日から弁済の提供の日までの遅延損害金を加えた額をもって、弁済供託をすることができる」という肢(R4 午後 問10 ウ)は誤りです。判例は、不法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用の損害賠償債務も、同じ不法行為による一個の損害賠償債務の一部を構成するので、不法行為の時に発生し、かつ遅滞に陥るとしています(最判昭和58年9月6日)。

- 確定期限期限の到来した時(412条1項)。取立債務は債権者が取立てをするまで遅滞しない。日で定めた返還期日はその翌日から遅延損害金
- 不確定期限期限到来後に履行の請求を受けた時又は期限の到来を知った時のいずれか早い時(412条2項)
- 期限の定めなし履行の請求を受けた時(412条3項)。善意の不当利得者の返還債務も同じ
- 返還時期の定めのない消費貸借相当の期間を定めない催告でも、催告から相当の期間を経過した時(591条1項)
- 債務不履行(安全配慮義務違反)の損害賠償債務履行の請求を受けた時(最判昭和55年12月18日)
- 不法行為の損害賠償債務損害の発生と同時に催告なしで。弁護士費用も不法行為の時(最判昭和37年9月4日・最判昭和58年9月6日)
- 詐害行為取消しの受領金支払債務履行の請求を受けた時。判決確定前の請求でよい(最判平成30年12月14日)
- 利息(特約あり)金銭を受け取った日から(589条2項)
民法 第412条第1項債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
民法 第412条第2項債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
民法 第412条第3項債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
民法 第591条第1項当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
試験ではこう問われる
- 不確定期限は、期限到来後に請求を受けた時又は到来を知った時のいずれか早い時から遅滞し、請求がなくても知った時から遅滞する(412条2項。R5 問16 ア ○)
- 指図証券の債務は、期限の定めがあっても、期限到来後に所持人が証券を提示して請求した時から遅滞する(520条の9。R5 問16 イ ×)
- 返還時期の定めのない消費貸借は、請求を受けた時ではなく、催告から相当の期間を経過した時から遅滞する(591条1項。R2 問19 エ ○、R5 問16 エ ×)
- 詐害行為取消しの受領物返還債務は、履行の請求を受けた時から遅滞する(最判平成30年12月14日。R5 問16 ウ ○)
- 不法行為の損害賠償債務は、請求を待たず損害の発生と同時に遅滞する(最判昭和37年9月4日。R5 問16 オ ×、R4 午後 問10 ウ ×)
- 確定期限は期限の到来した時から遅滞するが、取立債務は債権者が取立てをしなければ遅滞しない(412条1項)
- 安全配慮義務違反の損害賠償債務は、損害発生時ではなく請求を受けた時から遅滞する(最判昭和55年12月18日)

