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放火罪の類型・自己所有物の特例・着手と罪数ほうかざいのるいけいじこしょゆうぶつのとくれいちゃくしゅとざいすう

刑法 第14章 公共の安全・信用に対する罪 過去問で5肢

放火罪の類型とは、客体が現住建造物等か非現住建造物等かそれ以外の物か、他人所有か自己所有かによって、108条・109条1項・109条2項・110条に分かれる放火罪の区分をいいます。自己所有物の特例とは、自己所有でも差押え・賃貸・保険などがあれば他人の物として扱う115条の定めをいいます。

同じ「火をつける」行為でも、家族が寝ている家に火をつけるのと、だれもいない自分の物置を燃やすのと、道端の自転車を燃やすのとでは、周りの人に及ぶ危険の大きさが違います。刑法は、燃やした物が何であるか、だれの物かによって放火罪を四つに分け、危険の大きいものほど重い刑を定め、危険の小さいものには公共の危険が実際に生じたことを要求しています。自分の物であっても、保険が掛かっていたり人に貸していたりすれば、他人の利害が絡むので他人の物と同じに扱われます。

教室の場面。先生が教師役で黒板の前に立つ。黒板に四つの絵が横に並ぶ。一つ目は窓に明かりのある家と札「108条:人が住む・人がいる」。二つ目は空き家と札「109条1項:他人の空き家」。三つ目は物置と札「109条2項:自分の空き家・公共の危険が

放火罪は、客体が現住建造物等か、非現住建造物等か、それ以外の物かと、他人所有か自己所有かで分かれます

放火罪の罪名は、客体と所有関係で決まります。現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物・汽車・電車・艦船・鉱坑は108条で、所有者がだれかを問いません。犯人が家族と住む自己所有の家屋に放火しても108条です。現に人が住居に使用せず、かつ現に人がいない建造物・艦船・鉱坑は109条で、他人所有なら1項、自己所有なら2項です。これら以外の物(自動車、自動二輪車、家具、ごみ箱、人のいない汽車・電車)は110条で、他人所有なら1項、自己所有なら2項です。108条と109条1項は公共の危険の発生を要件としませんが、109条2項と110条は公共の危険の発生が要件です。客体の所有者が焼損に同意している場合は、自己所有物と同じに扱われます。共犯者の所有物も「自己の所有に係る」物です。

  • 108条 現住建造物等放火現住・現在の建造物、汽車、電車、艦船、鉱坑。死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)。未遂・予備を罰する
  • 109条1項 他人所有非現住建造物等放火非現住かつ非現在の建造物、艦船、鉱坑。二年以上の有期拘禁刑。未遂・予備を罰する
  • 109条2項 自己所有非現住建造物等放火六月以上七年以下の拘禁刑。公共の危険を生じなかったときは罰しない。未遂・予備の処罰なし
  • 110条1項 他人所有建造物等以外放火焼損し、よって公共の危険を生じさせたとき。一年以上十年以下の拘禁刑。未遂・予備の処罰なし
  • 110条2項 自己所有建造物等以外放火一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金。未遂・予備の処罰なし

自己所有の物でも、差押え・物権の負担・賃貸・配偶者居住権・保険があれば他人の物として扱われます

115条は、109条1項と110条1項に規定する物が自己の所有であっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、配偶者居住権が設定され、又は保険に付したものである場合は、他人の物を焼損した者の例によると定めています。自己所有の家屋に一人で居住していた甲が、火災保険金を詐取しようと考えて放火した事例では、犯人だけが住む家屋ですから非現住建造物であり、保険に付されているので他人の物として扱われ、109条1項の罪が成立します。109条1項の罪になる以上、公共の危険の発生は要件になりません。乙が単身で居住する乙所有の家屋について、甲と乙が保険金をだまし取るため放火を共謀した事例では、居住者の乙は共犯者で「人」に当たらないので非現住建造物になり、保険に付されているので109条1項の罪が成立します。

保険会社の窓口の場面。先生が保険会社の調査員役(札「保険会社」)でカウンターの内側に座り、手元に「火災保険証券」と書いた書類。カウンターの向かいに男性(札「家屋の所有者」)。壁の掲示に一軒の家の絵と、家に結び付けられた札「保険に付した物」。

未遂と予備が罰せられるのは、108条と109条1項の罪だけです

112条は108条と109条1項の罪の未遂を罰し、113条はこれらの罪を犯す目的でした予備を二年以下の拘禁刑で罰します(情状により刑を免除することができます)。109条2項と110条には未遂も予備もありません。自己所有の無人の倉庫に灯油をまいて火をつけたが燃焼に至らなかった場合も、109条2項の罪の未遂は処罰されません。予備も同じです。自己所有の無人の倉庫に放火するためガソリンとライターを持って向かったが職務質問を受けた場合も、他人所有の自動車や自動二輪車に放火するために灯油やガソリンとライターを持って向かった場合も、放火予備罪は成立しません。

点火の前でも、焼損に至る切迫した危険が生じれば実行の着手が認められます

放火罪の実行の着手は、目的物の焼損に至る現実的危険のある行為を開始した時に認められます。目的物や媒介物に点火すれば着手がありますが、点火がなければ着手が認められないわけではありません。ガソリンのように引火性の強い物を屋内に大量に撒布すれば、わずかな火気で建造物が燃え上がる切迫した危険が生じるので、点火の前でも着手が認められます。ガソリン約18リットルを撒布すれば、点火行為に至らなくても現住建造物等放火未遂罪が成立します。時限発火装置を建物に設置した場合も、設置によって焼損に至る危険が生じます。設定した時刻が到来する前に発覚して発火に至らなかった場合でも、現住建造物等放火未遂罪が成立します。また、現住建造物を焼損する目的で、隣接する物置や壁際の自動車に放火すれば、現住建造物等放火罪の着手があります。物置小屋の一部を焼損するにとどまっても、現住建造物等放火罪の実行の着手が認められます。乙が居住する家屋を燃やそうと考え、壁際に駐車されていた乙所有の自動車に放火して焼損し、家屋への延焼の危険を生じさせた場合は、建造物等以外放火罪にとどまらず、現住建造物等放火未遂罪が成立し、自動車の焼損はこれに吸収されます。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。壁の掲示に家屋の台所の見取図があり、床一面に網掛けと札「ガソリンを撒布」、その横にライターの絵と札「点火はまだ」。証言台に男性(札「被告人」)。被告人の吹き出し「火はつけていません。ま

1個の公共の危険しか生じていなければ、複数の建造物を焼損しても放火罪は1罪です

放火罪は公共の安全を保護する罪ですから、罪数は焼損した物の数や所有者の数ではなく、生じた公共の危険の数で決まります。1個の放火行為で隣り合う複数の現住建造物を焼損しても、公共の危険が1個であれば、1個の現住建造物等放火罪が成立します。1個の放火行為で乙と丙の家屋をともに全焼させた場合も、1個の現住建造物等放火罪が成立し、2個の罪の観念的競合にはなりません。現住建造物と非現住建造物を同じ機会に焼損した場合も、最も重い108条の罪だけが成立し、109条の罪はこれに吸収されます。乙の家屋に放火した後、さらに隣接する丙所有の物置にも放火して同時に焼損した場合も、両罪の併合罪にはなりません。

人を殺す意思で放火すれば殺人罪も成立し、保険金詐欺とは併合罪になります

108条の法定刑は重いですが、人の死亡の結果まで評価している罪ではありません。居住者を殺す意思で家屋に放火して焼死させれば、現住建造物等放火罪と殺人罪の両方が成立します。両罪は、1個の放火行為によるものとして観念的競合とするのが一般的な理解で、どちらかに吸収されることはありません。殺意がなく焼死させた場合は、放火罪に結果的加重犯の規定がないので、放火罪と過失致死罪又は重過失致死罪が成立します。居住者を殺害した後に犯跡を隠すため放火した場合は、殺人罪と非現住建造物等放火罪が成立します。火災保険金をだまし取る目的で放火し、その後に保険金の支払を受けた場合、放火と詐欺は罪質上通例手段と結果の関係にあるとはいえないので、牽連犯ではなく併合罪です。

刑法 第115条

(差押え等に係る自己の物に関する特例)
第百九条第一項及び第百十条第一項に規定する物が自己の所有に係るものであっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、配偶者居住権が設定され、又は保険に付したものである場合において、これを焼損したときは、他人の物を焼損した者の例による。

刑法 第112条

(未遂罪)
第百八条及び第百九条第一項の罪の未遂は、罰する。

試験ではこう問われる

  1. 自己所有の家屋に一人で住む者が、保険に付した家屋に放火すれば、他人所有非現住建造物等放火罪(109条1項)が成立する(115条)
  2. 未遂・予備が罰せられるのは108条と109条1項だけで、109条2項・110条には未遂も予備もない
  3. ガソリンを屋内に大量に撒布すれば、点火の前でも現住建造物等放火罪の着手が認められる
  4. 住居の外壁付近に積んだ枯れ木に着火した後、驚いて隣人に「あとは頼む」と伝えて逃走し、隣人が消し止めた場合、中止未遂は成立しない(R2 問25 オ ○)
  5. 1個の放火行為で複数の現住建造物を焼損しても、公共の危険が1個なら1個の現住建造物等放火罪が成立する。現住建造物と隣接する非現住建造物を焼損した場合も、現住建造物等放火罪のみが成立する(R1 問25 オ ○・出題当時)
  6. 殺意をもって放火し焼死させれば、現住建造物等放火罪と殺人罪の両方が成立する。放火と保険金詐欺は併合罪になる
  7. 日本国民が外国で、現に外国人が住居として使用する家屋に放火すれば、日本の刑法が適用され、現住建造物等放火罪が成立する(3条1号。R5 問24 エ ×)

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