過失致死傷の罪(過失傷害・自動車運転による死傷)かしつちししょうのつみ
過失致死傷の罪とは、過失により人を傷害し、又は死亡させる罪のことで、過失傷害罪(209条)、過失致死罪(210条)、業務上過失致死傷罪・重過失致死傷罪(211条)があります。自動車の運転による死傷は、刑法ではなく、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律で処罰されます。
わざとではなく不注意で人にけがをさせたり死なせたりした場合も、刑法は処罰します。ただし、不注意の程度や立場はさまざまなので、ふつうの不注意は罰金にとどめ、危険な仕事に就いている人の不注意や著しい不注意は重く処罰するというように、段階を分けています。なかでも自動車の事故は件数が多く被害も重いので、刑法から切り離した特別の法律が、不注意による事故と、酒に酔った状態での運転のような危険な運転による事故とを分けて定めています。

過失による死傷は、通常の過失か、業務上過失・重過失かで刑が分かれ、過失傷害罪だけが親告罪です
過失により人を傷害した者は過失傷害罪(209条)、死亡させた者は過失致死罪(210条)で処罰され、刑はいずれも罰金以下です。業務上必要な注意を怠り、又は重大な過失により人を死傷させた者は、211条により五年以下の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)又は百万円以下の罰金に処されます。このうち告訴がなければ公訴を提起することができないのは、過失傷害罪だけです(209条2項)。過失致死罪、業務上過失致死傷罪、重過失致死傷罪は親告罪ではありません。業務上過失の「業務」と重過失の意味は、過失犯の処罰規定の語で扱っています。過失による死傷の後に、故意の行為で同じ被害者を死亡させた場合は、二つの罪が別々に成立します。人を熊と誤認して猟銃を発砲して傷害を負わせ、その直後に誤射に気付いて殺意をもって発砲し即死させた場合も、業務上過失傷害罪と殺人罪は包括一罪になりません。判例は、両罪を併合罪としています(最決昭和53年3月22日)。
- 過失傷害罪(209条)三十万円以下の罰金又は科料。親告罪
- 過失致死罪(210条)五十万円以下の罰金。親告罪ではない
- 業務上過失致死傷罪(211条前段)五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金。親告罪ではない
- 重過失致死傷罪(211条後段)五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金。親告罪ではない
自動車の運転による死傷は、刑法211条ではなく、過失運転致死傷罪で処理します
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、過失運転致死傷罪として七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処されます(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)。業務上過失致死傷罪より刑が重い特則であり、自動車事故に211条は適用されません。傷害が軽いときは、情状により、刑を免除することができます。以前は刑法211条2項に自動車運転過失致死傷罪が置かれていましたが、現在は刑法から削られ、過失運転致死傷罪になっています。同じ法律には、アルコール又は薬物の影響の発覚を免れる行為をした場合の罪(4条)と、無免許運転であった場合に刑を重くする規定(6条)も置かれています。交通事故を起こした後に被害者を別の場所に運んで置き去りにした場合の保護責任者遺棄罪や、殺意をもって放置した場合の不作為の殺人罪は、この罪とは別に問題になります。
- 過失運転致死傷罪(5条)七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金。傷害が軽いときは情状により刑を免除できる
- 危険運転致死傷罪(2条)負傷させた者は十五年以下の拘禁刑、死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑
- 危険運転致死傷罪(3条)負傷させた者は十二年以下の拘禁刑、死亡させた者は十五年以下の拘禁刑
危険運転致死傷罪は、故意に危険な運転行為をして人を死傷させた場合の罪で、過失犯ではありません
危険運転致死傷罪は、法律が列挙する危険な運転行為を故意に行い、よって人を死傷させた場合に成立する結果的加重犯です。危険な運転行為には、アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為、進行を制御することが困難な高速度で走行させる行為、進行を制御する技能を有しないで走行させる行為、通行を妨害する目的で著しく接近する行為、赤色信号を殊更に無視する行為などがあります。運転経験がなく運転装置を操作する初歩的な技能もないのに走行させて対向車の運転者を死亡させた事例、覚醒剤の影響で正常な運転が困難な状態になったことを認識しながら運転を続けて同乗者を死亡させた事例では、危険運転致死罪が成立します。指定最高速度が時速40キロメートルの雨の山道の急カーブに時速約100キロメートルで進入して同乗者を負傷させた事例、飲酒の影響で自車が激しく蛇行していることを認識しながら運転を続けて歩行者を負傷させた事例では、危険運転致傷罪が成立します。事故を起こすことはないだろうと思っていても、危険な運転行為そのものを認識していれば足りるからです。これに対し、赤色信号に気付かずに交差点に進入した事例は、信号を殊更に無視したものではないので、危険運転致死傷罪は成立しません。メールの操作に気をとられた事例、過労で眠り込んだ事例、脇見をしてハンドル操作を誤った事例も、列挙された危険な運転行為に当たらず、過失運転致死傷罪の問題になります。免許の取消処分を受けていても運転の技能がある者は、進行を制御する技能を有しない者に当たりません。追越しを完了させるために先行車の直前に進入し、同車の通行を妨害することになるかもしれないと思っていただけの事例でも、危険運転致傷罪は成立しません。通行を妨害する目的は、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいい、妨害することになるかもしれないという認識では足りないからです。危険運転致死傷罪にも責任能力の規定は適用されます。飲酒の影響による危険運転致傷罪であっても、責任能力が否定されることがあります。

1個の事故で複数の人を死傷させれば観念的競合になり、別々の事故で死傷させれば併合罪になります
罪数は、死傷の結果が1個の行為から生じたかどうかで決まります。脇見運転で前の車に追突し、その衝撃で押し出された車がさらに前の車に追突して、一人が死亡し一人が傷害を負った場合を考えます。1個の追突行為から二つの結果が生じているので、両罪は観念的競合になります。これに対し、脇見運転で通行人を死亡させた後、逃走しようとして安全確認を怠ってUターンし、対向車に衝突して運転者に傷害を負わせた場合はどうでしょうか。二つの事故は別々の過失行為によるものなので、両罪は併合罪になります。判例は、酒酔い運転の罪と、その運転中に人身事故を起こした罪とについても、併合罪の関係にあるとしています(最大判昭和49年5月29日)。運転という継続する行為と、ある時点・場所で起きた事故とは、自然的観察のもとで1個の行為とはいえないからです。
刑法 第209条第1項過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
刑法 第209条第2項前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
刑法 第211条(業務上過失致死傷等)
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
試験ではこう問われる
- 過失による死傷の罪のうち、親告罪は過失傷害罪だけである(209条2項)
- 狩猟免許を受けて娯楽のために繰り返し狩猟をしていた者が、狩猟中に過失で人を撃って負傷させれば、業務上過失致傷罪が成立する(H30 問26 オ ○・出題当時)
- 自動車の運転による死傷は、刑法211条ではなく過失運転致死傷罪で処理する。傷害が軽いときは情状により刑を免除できる
- 危険運転致死傷罪は、危険な運転行為を故意に行ったことが必要である。赤色信号に気付かなかった事例、脇見や居眠りの事例では成立しない
- 1個の追突で二人を死傷させれば観念的競合になる。別々の事故で死傷させれば併合罪になる
- 業務上過失傷害罪と、その直後に殺意をもって行った殺人罪は併合罪になる(最決昭和53年3月22日)

