法条競合(特別関係・補充関係・吸収関係)ほうじょうきょうごう
法条競合とは、1個の行為が複数の構成要件に当たるように見えても、構成要件どうしの関係から1つの構成要件だけが適用され、1罪しか成立しない場合です。構成要件どうしの関係は、特別関係・補充関係・択一関係・吸収関係に分けて説明されます。
人をナイフで刺して殺した場合、体を傷つけているので傷害罪にも当たるように見えますが、成立するのは殺人罪だけです。殺人罪の構成要件が、体を傷つけることまで含めて評価し尽くしているからです。1個の法益侵害に2個の犯罪を認めると、同じ事実を二重に評価することになります。そこで、構成要件どうしの関係から、適用する構成要件を最初から1つに絞ります。これが法条競合です。

特別関係では、特別法に当たる構成要件だけが適用されます
特別関係とは、2つの構成要件が一般法と特別法の関係にある場合です。銀行員が業務上保管する金銭を横領したときは、横領罪(252条)と業務上横領罪(253条)の両方に当たるように見えますが、特別法である業務上横領罪だけが成立します。保護責任者が要扶助者を遺棄したときも、遺棄罪(217条)ではなく保護責任者遺棄罪(218条)だけが成立します。特別法の構成要件は一般法の構成要件を全部含んでいるので、特別法で評価すれば一般法で重ねて評価する必要がありません。
補充関係と択一関係でも、適用される構成要件は1つに絞られます
補充関係とは、基本となる構成要件を補うために別の構成要件が置かれている場合です。人を殴ってけがをさせたときは、傷害罪(204条)が成立し、これを補う暴行罪(208条)の適用は排除されます。殺人罪が既遂になれば、殺人未遂罪を別に数えることもしません。択一関係とは、両立しない2つの構成要件が重なって見える場合で、一方だけが適用されます。他人の事務を処理する者が、自己の占有する他人の物を不法に処分したときは、横領罪と背任罪の両方に当たるように見えますが、横領罪が成立するときは背任罪の適用は排除されます。
- 特別関係一般法と特別法の関係。特別法だけが適用される(業務上横領罪と横領罪、保護責任者遺棄罪と遺棄罪)
- 補充関係基本法と補充法の関係。基本法だけが適用される(傷害罪と暴行罪、殺人罪と殺人未遂罪)
- 択一関係両立しない構成要件が重なって見える関係。一方だけが適用される(横領罪と背任罪)
- 吸収関係重い罪に通常伴う軽い罪が、重い罪に吸収される関係(殺人罪と殺人予備罪、偽造通貨行使罪と詐欺罪)。包括一罪の一種として説明されることもある
重い罪に通常伴う軽い罪は、重い罪に吸収されて別罪を構成しません
吸収関係とは、ある罪を犯すときに通常伴う軽い罪が、重い罪の中で一緒に評価される場合です。殺人のために包丁を買い、翌日その包丁で殺害したときは、殺人予備罪(201条)は殺人罪に吸収され、殺人罪だけが成立します。偽造通貨を真正な通貨のように装って代金として支払い、商品を受け取った場合も同じです。偽造通貨を使って商品を受け取った場合、詐欺罪と偽造通貨行使罪が成立して観念的競合になるのではありません。判例は、偽造通貨行使罪だけが成立し、詐欺罪はこれに吸収されるとしています(大判明治43年6月30日)。偽造通貨の行使は相手をだまして財物を得ることを通常伴いますし、詐欺罪を別に成立させると、収得後知情行使罪(152条)の刑を特に軽くした趣旨が失われるからです。吸収の向きにも注意が必要で、偽造通貨行使罪が詐欺罪に吸収されるのではありません。両罪が成立して牽連犯になるのでもありません。他方、偽造有価証券を行使して金品をだまし取った場合は、詐欺罪と偽造有価証券行使罪が成立し、両罪は牽連犯となります。通貨と違い、偽造有価証券の行使には収得後知情行使罪に当たる規定がなく、詐欺罪を吸収させる理由がないので、偽造有価証券行使罪と詐欺罪の両方が成立します。

住居侵入罪が成立するときは、退去しなくても不退去罪は成立しません
130条は、前段で住居侵入罪を、後段で不退去罪を定めています。不退去罪は、適法に立ち入った者が退去の要求に応じない場合を処罰するための規定です。最初から住居権者の意思に反して立ち入った者には住居侵入罪が成立し、その後に居座っても、その違法は住居侵入罪の中で評価されます。住居に侵入した者が退去しなかった場合、住居侵入罪と不退去罪が成立して併合罪となるのではありません。判例は、住居侵入罪が成立するときは、退去しないことが別に不退去罪を構成することはないとしています(最決昭和31年8月22日)。
罪質の異なる罪は吸収されず、両方の罪が成立します
吸収されるのは、重い罪に通常伴い、同じ法益侵害の中で評価できる罪に限られます。保護法益が異なる罪は、どちらかに吸収されることなく両方が成立し、1個の行為であれば観念的競合になります。窃盗犯人が追跡してきた警察官に暴行を加えて傷害を負わせた場合、公務執行妨害罪は事後強盗致傷罪に吸収されません。事後強盗致傷罪は財産と身体を、公務執行妨害罪は公務を保護する罪であり、両罪が成立して観念的競合となります(大判明治43年2月15日)。家屋に放火して中の人を殺害した場合も、殺人罪が現住建造物等放火罪に吸収されるのではありません。放火罪は公共の安全を、殺人罪は人の生命を保護する罪なので、両罪が成立したうえで科刑上一罪として処理されます。逆に、同じ強盗の罪の中では重ねて数えません。事後強盗に当たる者が人を負傷させた場合に、事後強盗罪と強盗致傷罪が成立して観念的競合となるのではありません。事後強盗は「強盗として論ずる」(238条)ので、事後強盗に当たる者が人を負傷させれば強盗致傷罪(240条)の一罪が成立し、事後強盗罪を別に数えることはしません。

刑法 第152条(収得後知情行使等)
貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の三倍以下の罰金又は科料に処する。ただし、二千円以下にすることはできない。
刑法 第238条(事後強盗)
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
試験ではこう問われる
- 業務上横領罪が成立するときは横領罪は適用されず、特別法に当たる構成要件だけが適用される
- 偽造通貨を使って商品をだまし取った場合は、偽造通貨行使罪だけが成立し、詐欺罪は吸収される(大判明治43年6月30日)
- 偽造有価証券を使って金品をだまし取った場合は、偽造有価証券行使罪と詐欺罪の牽連犯となる
- 住居侵入罪が成立するときは、退去しなくても不退去罪は成立しない(最決昭和31年8月22日)
- 窃盗犯人が追跡してきた警察官に暴行して傷害を負わせた場合、事後強盗致傷罪と公務執行妨害罪が成立し、観念的競合となる(大判明治43年2月15日)

