事後強盗罪(要件・窃盗の機会・既遂と未遂)じごごうとうざい
事後強盗罪とは、窃盗犯人が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために暴行又は脅迫をした場合に、強盗として扱う罪です(238条)。
万引きをして店を出たところで店員に腕をつかまれ、振りほどくために殴り倒して逃げた場合、物を取る前に暴力を振るったわけではないので、236条の強盗には当たりません。しかし、暴力を使って盗んだ物を確保し、あるいは逃げ切るという点では、強盗と同じくらい危険です。盗みの現場では犯人がこうした行為に出やすいこともあり、238条は、窃盗犯人が一定の目的で暴行・脅迫をした場合を「強盗として論ずる」としています。

事後強盗罪は、窃盗犯人が、取返しの防止・逮捕の免脱・罪跡の隠滅の目的で暴行・脅迫をした場合に成立します
238条の主体である「窃盗」とは、窃盗の実行に着手した者をいい、既遂か未遂かを問いません。財物を取り返されることを防ぐ目的の場合は、性質上、窃盗が既遂であることが前提になりますが、逮捕を免れる目的と罪跡を隠滅する目的の場合は、窃盗が未遂でも成立します。窃盗罪の客体は財物に限られるので、事後強盗罪が財産上の利益について成立することはありません。先行する行為が詐欺罪に当たる場合は、主体が「窃盗」ではないので、事後強盗罪は成立しません。暴行・脅迫は、強盗罪と同じく、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることが必要です。相手方は窃盗の被害者に限られず、追跡してきた目撃者や警察官も含まれます。また、三つの目的は行為者の側にあれば足ります。窃盗に着手した者が、財物を奪うために暴行を加えた場合は、目的が違うので事後強盗ではなく236条1項の強盗になります。
- 主体窃盗の実行に着手した者(既遂・未遂を問わない)
- 目的財物を得てこれを取り返されることを防ぐ/逮捕を免れる/罪跡を隠滅する
- 行為反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫。相手方は被害者に限られない
- 時期窃盗の機会の継続中
- 効果強盗として論ずる(236条の刑。240条・241条の「強盗」にも当たる)
暴行・脅迫は、窃盗の機会の継続中に行われたものでなければなりません
条文には書かれていませんが、暴行・脅迫は窃盗の機会の継続中に行われることが必要です。事後強盗罪が強盗と同じに扱われるのは、窃盗と暴行・脅迫が一体として財物を奪う行為と評価できるからで、窃盗と関係の切れた暴行・脅迫までは含められません。窃盗の機会が続いているかどうかは、被害者などから容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況が続いていたかどうかで判断します。最判平成16年12月10日は、住宅で財布を窃取して数分後に戸外に出て、だれからも発見・追跡されることなく約1キロメートル離れた公園に移動し、約30分後に再び盗みに入ろうと戻ったところで家人に発見されて脅迫した事案で、いったん犯行現場を離れてある程度の時間を過ごしており、取り返され逮捕され得る状況はなくなったとして、窃盗の機会の継続中の脅迫とはいえないとしました。家を出た30分後に戻って発見され、逮捕を免れるために暴行を加えた場合や、約2キロメートル離れた場所まで移動した後に戻った場合も、事後強盗罪は成立しません。これに対し、最決平成14年2月14日は、窃盗の後も犯行現場の家の天井裏に潜んでいた者が、その後に駆け付けた警察官に暴行を加えた事案で、窃盗の機会の継続中と認めています。現場にとどまっている限り、発見されて逮捕され得る状況が続いているからです。追跡を受けている間も、時間や距離が離れても窃盗の機会は続きます。

事後強盗罪の既遂・未遂は、暴行・脅迫の結果ではなく、窃盗の既遂・未遂で決まります
最判昭和24年7月9日は、窃盗未遂の犯人が事後強盗に当たる行為をした場合は、事後強盗の未遂になるとしました。強盗罪の既遂・未遂が財物を得たかどうかで決まることに合わせたものです。したがって、逮捕を免れることに成功したかどうかは、既遂・未遂に関係しません。「窃盗の未遂犯であるAは,当該犯行を目撃してAを取り押さえようとしたBに対し,逮捕を免れる目的で,その反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫を加え,Bの反抗を抑圧し,逮捕を免れた。この場合,Aには,事後強盗既遂罪ではなく,事後強盗未遂罪が成立する」という肢(R3 問25 エ)は正しいです。反対に、財布を窃取した後に、逮捕しようとした警察官に反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を加えた場合は、逮捕されたとしても事後強盗未遂罪にはなりません。財布を窃取して窃盗が既遂に達しているので、逮捕されても事後強盗既遂罪が成立します。
事後強盗も240条の「強盗」に当たり、警察官への暴行は公務執行妨害罪と観念的競合になります
事後強盗は「強盗として論ずる」ので、強盗致死傷罪(240条)の主体である「強盗」にも当たります。事後強盗に当たる暴行で人を負傷させれば強盗致傷罪が成立し、事後強盗罪は強盗致傷罪に吸収されて別には成立しません。窃盗犯人が、逮捕しようとした警察官に反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を加えた場合は、事後強盗罪と公務執行妨害罪が成立し、両罪は観念的競合になります。事後強盗罪は財産と身体の安全を、公務執行妨害罪は公務を保護する罪で、一方が他方を評価し尽くす関係にないからです。
刑法 第238条(事後強盗)
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
試験ではこう問われる
- 主体は窃盗の実行に着手した者で、未遂犯人も含む
- 暴行・脅迫の相手方に逮捕する意図がなくても成立する。目的は行為者の側にあれば足りる
- 暴行・脅迫は窃盗の機会の継続中に限る。約1キロメートル離れ約30分後に戻った事案では継続中といえない(最判平成16年12月10日)。数日後に5キロメートル離れた路上で被害者を殴った場合も事後強盗罪は成立しない(H27 問26 イ ×・出題当時)
- 現場の天井裏に潜んでいた者が駆け付けた警察官に暴行を加えた事案では、窃盗の機会の継続中といえる(最決平成14年2月14日)
- 既遂・未遂は窃盗の既遂・未遂で決まる(最判昭和24年7月9日)。窃盗未遂の犯人が逮捕を免れるため反抗を抑圧する暴行を加えれば、事後強盗未遂罪が成立する(R3 問25 エ ○)
- 事後強盗も240条の「強盗」に当たる。警察官への暴行は事後強盗罪と公務執行妨害罪の観念的競合になる
- 先行行為が詐欺罪なら主体が「窃盗」でないので事後強盗罪は成立しない。無賃乗車のつもりで乗ったタクシーを降りた後に運転手を殴っても、事後強盗罪は成立しない(H27 問26 オ ×・出題当時)

