通貨偽造の罪つうかぎぞうのつみ
通貨偽造の罪とは、通貨に対する公共の信用を保護するため、行使の目的で通貨を偽造・変造する行為、偽造通貨を行使・交付・輸入・収得する行為、偽造の器械や原料を準備する行為を処罰する罪の総称です。
レジで受け取った一万円札が本物かどうかを、その場で確かめる人はほとんどいません。お金は、だれもが本物だと信じて受け取るからこそ、買い物や支払の道具として働きます。偽札が出回ると、この信用が崩れ、取引そのものが成り立たなくなります。そこで刑法は、通貨を偽造する行為と、偽造した通貨を使う行為を、無期又は三年以上の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)という重い刑で罰し、その準備や、偽造通貨を手に入れる行為まで処罰の対象にしています。

通貨偽造罪は、行使の目的で、一般人が真正な通貨と誤信する外観のものを作り出す罪です
148条1項は、行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者を、無期又は三年以上の拘禁刑に処します。保護法益は通貨に対する公共の信用です。偽造とは、通貨を発行する権限のない者が、真正な通貨の外観を有する物を作り出すことをいい、一般人が真正な通貨と誤信する程度の外観を備えていることが必要です。この程度に達していなければ偽造には当たりません。外国硬貨の周囲を削って500円硬貨と同じ大きさにしただけでは、通貨偽造罪は成立しません。大きさを同じにして自動販売機をだませるようにしただけで、人が見て500円硬貨と誤信する外観はないからです。行使の目的とは、偽造した通貨を真正な通貨として流通に置く目的をいい、自分で使う場合に限らず、他人に使わせる目的でも足ります。学校の教材にする目的や、飾っておく目的で作っただけでは、この罪は成立しません。日本国内に流通している外国の通貨の偽造は、149条で二年以上の有期拘禁刑に処されます。
行使とは、偽造通貨を真正な通貨として流通に置くことをいいます
148条2項は、偽造又は変造の通貨を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者を、偽造と同じ刑で罰します。行使とは、偽造通貨を真正な通貨として流通に置くことをいいます。代金の支払、両替、贈与がこれに当たり、相手が人である必要はありません。偽造通貨を自動販売機やマッサージチェアに投入する行為も行使です。これに対し、自分に資力があることを示すために偽造紙幣を見せるだけの行為(見せ金)は、流通に置いていないので行使に当たりません。偽造有価証券の行使は真正なものとして使用することで足りるので見せるだけでも行使ですが、通貨は違います。行使の客体は偽造通貨でなければなりません。中央に穴が開けられ模様もない円形の金属片は偽造通貨ではないので、自動販売機に投入しても偽造通貨行使罪は成立しません。また、行使罪の客体は、行使の目的で作成されたものである必要はありません。

偽造と知っている者に渡せば交付であり、収得した後に偽造と知って使えば軽い収得後知情行使罪になります
交付とは、偽造通貨であることを知っている者に、又は偽造通貨であることを告げて、その占有を移すことをいいます。偽造通貨と偽造有価証券には交付罪がありますが、偽造公文書には交付罪がありません。150条の偽造通貨等収得罪は、行使の目的で偽造通貨を収得した者を三年以下の拘禁刑に処します。収得の時に偽造通貨であることを知っていることが必要です。釣銭として偽造通貨を情を知らずに受け取り、後で気付いて行使の目的でそのまま所持しても、偽造通貨収得罪は成立しません。収得した後に偽造と知って行使し、又は行使の目的で人に交付した場合は、152条の収得後知情行使等罪として、額面価格の三倍以下の罰金又は科料(二千円以下にすることはできません)という軽い刑にとどまります。知らずにつかまされた損を他人に回そうとする行為は、強く非難できないからです。この類型は通貨にしかありません。有価証券については、収得後に偽造と知って行使すれば通常の行使罪が成立します。
- 148条1項 通貨偽造・変造行使の目的。無期又は三年以上の拘禁刑。未遂を罰する
- 148条2項 行使・交付・輸入偽造と同じ刑。未遂を罰する
- 149条 外国通貨日本国内に流通している外国の通貨。二年以上の有期拘禁刑
- 150条 偽造通貨等収得行使の目的で収得。三年以下の拘禁刑。未遂を罰する
- 152条 収得後知情行使等額面価格の三倍以下の罰金又は科料
- 153条 通貨偽造等準備偽造・変造の用に供する目的で器械又は原料を準備。三月以上五年以下の拘禁刑
通貨偽造等準備罪が成立するのは、器械又は原料を準備した場合に限られます
153条は、通貨の偽造又は変造の用に供する目的で、器械又は原料を準備した者を、三月以上五年以下の拘禁刑に処します。通貨偽造の予備に当たる行為のうち、器械と原料の準備だけを取り出して処罰する規定ですから、それ以外の準備行為はこの罪に当たりません。1万円札の偽造に使う目的で作業部屋を賃借し、印刷機と印刷用紙を購入して運び込んだ場合でも、作業部屋を賃借した段階では通貨偽造等準備罪は成立しません。部屋は器械でも原料でもないからです。準備罪が成立するのは、印刷機と印刷用紙を準備した段階です。準備の後に偽造まで進めば、準備罪は通貨偽造罪に吸収されます。
偽造通貨を使って物をだまし取っても、詐欺罪は偽造通貨行使罪に吸収されます
偽造通貨を代金として渡して商品を受け取れば、形のうえでは詐欺罪にも当たります。しかし、判例は、詐欺罪は偽造通貨行使罪に吸収され、別には成立しないとしています。偽造通貨の行使は相手をだまして財物や利益を得ることをもともと伴いますし、詐欺罪の成立を認めると、収得後知情行使罪を軽い刑にとどめた152条の趣旨が失われるからです。これに対し、偽造有価証券や偽造文書を行使して財物をだまし取った場合は、行使罪と詐欺罪の両方が成立して牽連犯になります。通貨を偽造した者がそれを行使した場合、通貨偽造罪と偽造通貨行使罪は牽連犯です。詐欺罪は別に成立しません。

刑法 第148条第1項行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は三年以上の拘禁刑に処する。
刑法 第152条(収得後知情行使等)
貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の三倍以下の罰金又は科料に処する。ただし、二千円以下にすることはできない。
試験ではこう問われる
- 通貨偽造罪は行使の目的を要し、偽造といえるには一般人が真正な通貨と誤信する外観が要る
- 偽造通貨の行使は流通に置くことをいい、自動販売機への投入は行使に当たるが、見せ金として示すだけでは行使に当たらない
- 情を知る者に渡せば交付になる。交付罪は通貨と有価証券にあり、偽造公文書にはない
- 情を知らずに受け取った後で偽造と気付いて所持しても、偽造通貨収得罪は成立しない
- 収得後知情行使罪は通貨だけの類型で、刑は額面価格の三倍以下の罰金又は科料にとどまる
- 通貨偽造等準備罪は器械又は原料の準備に限る。作業部屋の賃借だけでは成立しない
- 偽造通貨を行使して財物を得ても、詐欺罪は偽造通貨行使罪に吸収される。偽造有価証券の行使と詐欺は牽連犯になる。通貨偽造罪と偽造通貨行使罪も牽連犯になる

