強盗致死傷罪(強盗の機会・故意ある場合・未遂)ごうとうちししょうざい
強盗致死傷罪とは、強盗の犯人が人を負傷させ、又は死亡させた場合に成立する罪です(240条)。殺意や傷害の故意がある強盗殺人・強盗傷人も、同じ240条で処罰されます。
強盗の現場では、金を奪うために殴る場面だけでなく、逃げる途中で追ってきた人を突き飛ばす、口封じに家人を傷つけるといった形で、人が死傷することが少なくありません。240条は、こうした危険に備えて、強盗が人を負傷させたときは無期又は六年以上の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)、死亡させたときは死刑又は無期拘禁刑という、刑法の中でも特に重い刑を定めています。重い刑であるだけに、どこまでの死傷を強盗によるものとして扱うかが問題になります。

死傷の結果は強盗の手段である暴行・脅迫から生じる必要はなく、強盗の機会に生じれば足ります
240条の「強盗」には、236条の強盗のほか、事後強盗と昏酔強盗の犯人も含まれ、強盗が既遂か未遂かを問いません。死傷の原因となる行為の範囲について、判例は、強盗の手段である暴行・脅迫から生じたものに限らず、強盗の機会に行われた行為から生じたものであれば足りるとしています(最判昭和24年5月28日)。条文が「強盗が」と主体を定めるだけで原因行為を限定していないこと、強盗の現場では手段以外の行為からも死傷が生じやすいことが理由です。強盗目的で侵入して家人を殺害して金品を奪うとともに、傍らで熟睡していた幼児も殺害した場合には、幼児についても強盗殺人罪が成立します。幼児の殺害は財物奪取の手段ではありませんが、強盗の機会に行われているからです。東京高判平成23年1月25日は、最後の強取から数時間を経た離れた場所で、当初からの計画に従い罪跡を隠滅するために被害者に覚醒剤を注射して放置し死亡させた事案で、罪跡を隠滅する行為は「強盗と一体のものと評価できる」として強盗の機会に行われたと認めました。脅迫から生じた傷害でもよく、財物奪取目的で包丁を突き付けて脅したところ被害者に包丁をつかまれ、負傷することを分かりながら包丁を引いて両手を負傷させた場合にも、強盗傷人罪が成立します。
原因行為の範囲については、機会説のほかに、手段に限る見解、密接に関連する行為や238条の目的の暴行まで含める見解があります
見解は四つ並びます。強盗の機会に行われた行為から生じれば足りるとする見解(機会説)、強盗の手段である暴行・脅迫から生じる必要があるとする見解(手段説)、手段である暴行のほか強盗行為と性質上密接な関連性を有する行為から生じる必要があるとする見解(密接関連性説)、手段である暴行のほか強盗の機会に238条所定の目的で行う暴行から生じる必要があるとする見解(拡張された手段説)です。強盗の現場で現金を奪った直後、約10メートル逃げたところで追跡してきた被害者を捕まらないために殺害した事例では、機会説からは強盗殺人罪が成立するという結論になります。現金を奪って逃走しようとした玄関先で、鉢合わせして悲鳴を上げた訪問者を殺害した事例では、機会説からは成立し、手段説からは成立しないという結論になります。犯行の翌日、約10キロメートル離れた場所で、目撃者や被害者に見つかって暴行を加えた事例では、もはや強盗の機会とはいえないので、機会説からも、238条の目的の暴行まで含める見解からも成立しないという結論になります。強取の直後に現場で、共犯者に対する日頃の不満を解消するためだけに共犯者を殴って負傷させた事例では、手段説や密接関連性説からは成立しないという結論になります。金品を奪えなかった腹いせに別の部屋で寝ていた幼児を蹴って負傷させた事例では、238条所定の目的がないので、拡張された手段説からは成立しないという結論になります。機会説に対しては、強盗と無関係な私怨による行為まで含むことになり広すぎるという批判が向けられ、手段説に対しては、逃走のための暴行のように強盗に通常伴う行為を含められず狭すぎるという批判が向けられます。

- 現場から約10メートルで追跡者を殺害機会説=成立
- 逃走しようとした玄関先で訪問者を殺害機会説=成立/手段説=不成立
- 翌日・約10キロメートル離れた場所で暴行機会説=不成立/手段説=不成立/拡張された手段説=不成立
- 強取直後に私怨で共犯者を殴る手段説=不成立/密接関連性説=不成立
- 腹いせに別室の幼児を蹴る手段説=不成立/拡張された手段説=不成立
殺意や傷害の故意がある場合も240条だけが適用され、未遂になるのは殺害が未遂に終わった場合です
240条は、結果的加重犯である強盗致死傷のほか、故意に人を殺傷した強盗殺人・強盗傷人も含みます。判例は、殺意をもって人を殺害した強盗にも240条後段だけを適用し、殺人罪を別に適用しません(最判昭和32年8月1日)。死刑又は無期拘禁刑という刑は、殺意のある場合も予定していると考えられるからです。243条は240条の未遂を罰していますが、既遂・未遂は死傷の結果で決まり、財物を得たかどうかは関係しません。大判昭和4年5月16日は、強盗殺人罪について、財物を得たかどうかは犯罪の構成に関係がないとし、未遂となるのは強盗が故意に人を死に致そうとして遂げなかった場合であるとしました。金庫の扉を開けていたところを見付かり、警察に告げられることを防ぐため家人を殺害してそのまま逃走した場合も、強盗殺人未遂罪にとどまるのではありません。窃盗は未遂でも、事後強盗の犯人が人を殺害しているので、強盗殺人既遂罪が成立します。判例は、犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが必ずしも具体的に一致することを要するものではなく、両者が法定の範囲内において一致することをもって足りるとし、人を殺す意思のもとに殺害行為に出た以上、犯人の認識しなかった人に対して結果が発生した場合にもその結果について殺人の故意があるとして、巡査と通行人の双方に対する強盗殺人未遂罪を認めています(最判昭和53年7月28日)。「Aは、警察官Bから銃を強取する意図で、殺意をもってBに向けて銃を発射し、その弾丸がBの身体を貫通してBに傷害を負わせた上、たまたま付近を歩行中のCに命中して傷害を負わせた。この場合、Aには、BとCに対する各強盗殺人未遂罪が成立する」という肢(R7 問24 ア)は正しいです。
共犯者の一人が強盗の機会に生じさせた死傷は、強盗を共謀した全員が責任を負います
強盗を共謀した者は、共犯者の一人が強盗の機会に生じさせた死傷の結果について、その暴行を認識していなくても、強盗致死傷罪の共同正犯になります。結果的加重犯では、基本となる強盗について共謀があれば、そこから生じた重い結果も共同して引き起こしたといえるからです。強盗を共謀した共犯者の一人が強盗の機会に過失で傷害を負わせた場合も、共犯者の一人が逮捕を免れるために家人を切り付けた場合も、他の共犯者に強盗致傷罪の共同正犯が成立します。罪数では、強盗致死傷罪は被害者ごとに成立します。二人を殴打して負傷させ現金を強取した場合は、強盗致傷罪が2個成立します。事後強盗に当たる暴行で人を負傷させた場合は、強盗致傷罪だけが成立します。人を殺害して現金を強取した後、引き続き死体を床下に埋めた場合は、強盗殺人罪と死体遺棄罪が成立し、併合罪になります。
刑法 第240条(強盗致死傷)
強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の拘禁刑に処し、死亡させたときは死刑又は無期拘禁刑に処する。
試験ではこう問われる
- 死傷は強盗の機会に生じれば足りる(最判昭和24年5月28日)。傍らで寝ていた幼児を殺害しても強盗殺人罪が成立する
- 240条の「強盗」には事後強盗・昏酔強盗も含まれ、強盗の既遂・未遂を問わない
- 殺意がある場合も240条後段だけを適用する(最判昭和32年8月1日)
- 強盗の意図で殺意をもって発射した弾丸が相手を貫通して通行人にも当たり両名を負傷させれば、両名に対する各強盗殺人未遂罪が成立する(最判昭和53年7月28日。R7 問24 ア ○)
- 未遂は殺害が未遂に終わった場合をいい、財物取得の有無は関係しない(大判昭和4年5月16日)
- 強盗を共謀した者は、共犯者が強盗の機会に生じさせた傷害について強盗致傷罪の共同正犯になる。強盗致傷罪は被害者ごとに成立する
- 強盗殺人罪と死体遺棄罪は併合罪になる

