横領罪と背任罪の区別おうりょうざいとはいにんざいのくべつ
横領罪と背任罪の区別とは、他人の事務を処理する者が、自己の占有する本人の物を不正に処分した場合に、どちらの罪が成立するかという問題です。判例は、自己の名義または計算で処分した場合を横領罪、本人の名義かつ計算で処分した場合を背任罪とし、両方に当たるときは横領罪だけが成立するとしています。
村長が、村のお金を、村会の決議を経ずに知人の会社に貸し付けた場面を考えます。村長は村のお金を預かっているので、勝手に使えば横領にも見えますし、村長としての任務に背いて村に損害を与えたので背任にも見えます。二つの罪は、任された信頼を裏切る点で共通しており、重なり合う場面があります。横領罪の方が刑が重いので、まず「預かった物を自分の物のように処分した」といえるかを見て、いえなければ背任罪を検討するという順序で考えます。

物の所有権を侵害していなければ横領罪は成立せず、背任罪が問題になります
横領罪は「自己の占有する他人の物」を領得する罪ですから、客体が他人の所有物でない場合や、所有権を侵害していない場合には成立しません。このときは背任罪の成否を検討します。自己所有の不動産に抵当権を設定した後、登記前に別の者に抵当権を設定して登記した二重抵当では、不動産は設定者自身の物ですから横領罪は成立せず、背任罪が成立します。「Aが、自己が所有する不動産に抵当権を設定した後にその旨の登記がされていないのを奇貨として、更に他の者に対して抵当権を設定し、その旨の登記を完了させた。この場合、 1 番抵当権者に対するAの抵当権設定の登記義務は設定者であるA固有の事務であって他人の事務ではないから、Aに背任罪は成立しない」という肢(R7 問26 ア)は誤りです。質権者から保管を頼まれた質物を、質権者に無断で所有者に返した場合も、所有権を侵害していないので横領罪ではなく背任罪になります。所有者の承諾を得て処分した場合は、他の関係者に無断であっても横領罪は成立しません。物ではなく情報だけを持ち出した場合も、横領罪の客体である「物」がないので、背任罪が問題になります。
売却済みの不動産を処分すれば、所有権を侵害するので横領罪になります
これに対し、不動産を売却して所有権が買主に移った後は、登記名義の残る売主にとってその不動産は「他人の物」です。売主がこれを第三者に売却したり、抵当権を設定して登記したりすれば、買主の所有権を侵害するので横領罪が成立します。抵当権が実行されていなくても、また後日その登記が抹消されても、抵当権設定登記を完了した時点で横領罪が成立します。同じ「無断で抵当権を設定する」行為でも、不動産が買主の物になっていれば横領罪、設定者自身の物のままであれば背任罪と分かれます。
- 不動産の二重売買不動産は第一買主の物。横領罪
- 売却済みの不動産への抵当権設定不動産は買主の物。横領罪
- 二重抵当不動産は設定者の物。横領罪は成立せず背任罪
- 質物を質権者に無断で所有者に返還所有権を侵害していない。横領罪は成立せず背任罪
- 会社の情報を自己の媒体で持ち出す他人の「物」を領得していない。背任罪が問題になる
他人の物を処分した場合は、自己の名義・計算か、本人の名義・計算かで区別します
事務処理者が、自己の占有する本人の物を、本人に無断で第三者のために処分した場合は、横領罪と背任罪の両方が問題になります。大判昭和9年7月19日(横領か背任か)は、村長が業務上保管する村の基本財産を、村会の決議を経ずに、村の計算において無尽会社に貸与した事案で、自ら不正に領得したのではなく第三者の利益を図って任務に背いたものとして、業務上横領罪ではなく背任罪に当たるとしました。判例は、処分が自己の名義または計算でされた場合は、物を自分の物として扱ったといえるので横領罪とし、本人の名義かつ計算でされた場合は、本人の事務を不当に処理したにとどまるので背任罪としています。会社の金員を会社の名義で不正に貸し付けたとしても、その経済的な効果が行為者自身に帰属する場合は、自己の計算でしたものとして横領罪になります。

学説は、権限の逸脱か濫用か、客体が物か利益かで区別する見解に分かれます
区別の基準については学説も分かれます。行為者に与えられた権限の範囲を超える処分を横領、権限の範囲内でこれを濫用する処分を背任とする見解からは、一般的な権限がおよそ及ばない処分をすれば横領罪、形式上は権限の範囲内にある処分をすれば背任罪という結論になります。この見解に対しては、権限の範囲内かどうかの判断があいまいになるという批判が向けられます。客体が物であれば横領、財産上の利益であれば背任とする見解からは、物を処分した場合はすべて横領罪の問題となり、背任罪は債権や担保権などの利益を侵害した場合に限られることになります。この見解に対しては、物を本人の計算で不当に処分した場合まで横領罪になってしまうという批判が向けられます。現在は、横領罪の成否、すなわち不法領得の意思を実現する行為があったかを先に判断し、これが否定されるときに背任罪を検討すれば足りるとする考え方が一般的です。判例の名義・計算による区別も、不法領得の意思があるかを判断する手がかりと位置づけられます。
横領罪と背任罪の両方に当たるときは、横領罪だけが成立します
事務処理者が自己の占有する本人の物を領得した場合、任務に背いて本人に損害を加えてもいるので、形の上では背任罪の要件も満たします。この場合は、法定刑の重い横領罪だけが成立し、背任罪は成立しません。単純横領罪は5年以下の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)、業務上横領罪は10年以下の拘禁刑であるのに対し、背任罪は5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。両罪は同じ信任関係違反を処罰するものなので、二重に評価しないという考え方です。反対に、専ら本人のためにした処分であって不法領得の意思が認められない場合は横領罪が成立せず、図利加害目的も欠けるので背任罪も成立しません。
刑法 第252条第1項自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。
刑法 第247条(背任)
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
試験ではこう問われる
- 横領罪と背任罪の両方に当たる場合は、横領罪だけが成立する
- 自己の名義または計算で処分すれば横領罪、本人の名義かつ計算で処分すれば背任罪になる(大判昭和9年7月19日)
- 二重抵当では不動産は設定者自身の物なので横領罪は成立せず、背任罪が成立する(R7 問26 ア ×)
- 不動産の二重売買や、売却済みの不動産への抵当権設定登記は、買主の所有権を侵害するので横領罪になる(H29 問26 イ ○・出題当時)
- 自己所有の不動産に根抵当権を設定した後、その登記がないのを奇貨として別の者に根抵当権を設定し登記しても、横領罪は成立しない(H29 問26 オ ×・出題当時)
- 質権者から保管を委託された質物を、無断で所有者に返還した場合は、横領罪ではなく背任罪になる
- 権限の逸脱を横領、権限の濫用を背任とする見解、物の領得を横領、利益の侵害を背任とする見解がある

