不可罰的事後行為(共罰的事後行為)ふかばつてきじごこうい
不可罰的事後行為とは、ある罪が成立した後の行為が、その罪で既に評価されている違法状態に通常含まれ、新たな法益侵害を伴わないために、別罪を構成しない場合です。先行する罪と共に処罰されているという意味で、共罰的事後行為とも呼ばれます。
バッグを盗んだ人が、売り先が見つからずにそのバッグを燃やしたとします。他人の物を壊しているので器物損壊罪にも当たるように見えますが、成立するのは窃盗罪だけです。持ち主からバッグを奪ったという違法は窃盗罪で既に評価されていて、盗んだ物を壊すことはその延長にすぎないからです。これに対し、盗んだ後の行為が別の人の財産を新たに侵害するときは、窃盗罪では評価し切れないので、別の罪が成立します。

盗んだ物を損壊したり売却したりしても、窃盗罪のほかに別罪は成立しません
窃盗罪は、盗んだ後も違法な状態が続くことを予定した状態犯です。盗んだ物を使う、壊す、売るといった行為は、窃盗罪が成立した後の違法状態に通常含まれ、同じ被害者の同じ財物について新たな法益侵害を生じさせません。盗んだ物を損壊しても、窃盗罪と器物損壊罪が成立して併合罪になるのではありません。バッグや絵画を損壊する行為は窃盗罪で評価し尽くされているので、成立するのは窃盗罪だけです。売却も同じで、自動車を盗んで売却した場合に牽連犯になるのではありません。窃盗犯人が自分で盗んだ自動車を売却する行為は別罪を構成せず、牽連犯にも併合罪にもならずに窃盗罪だけが成立します。盗品等に関する罪は、本犯である窃盗犯人以外の者が盗品に関与する行為を処罰する規定なので、窃盗犯人自身には成立しません。「Aは,B所有の腕時計を窃取したが,その後,犯行の発覚を恐れ,当該腕時計を自宅で保管していた。この場合において,Aには,窃盗罪に加えて盗品等保管罪が成立する」という肢(R3 問26 ア)は誤りです。
別罪を構成しないのは、事後の行為が先行する罪と共に処罰されているからです
事後の行為が別罪にならないのは、処罰に値しないからではありません。事後の行為の違法が、先行する重い罪の中で一緒に評価され、共に処罰されているからです。そのため、共罰的事後行為という呼び方が使われます。別罪にならないといえるには、事後の行為が先行する罪に伴う違法状態に通常含まれることと、新たな法益侵害を伴わないことの2つが必要です。この2つを満たさない行為、たとえば盗んだ物を自分の物と偽って事情を知らない人に売り、代金を受け取る行為は、買主という別の被害者の財産を侵害するので、詐欺罪が別に成立します。
- 別罪を構成しない行為盗んだ物の損壊・売却・使用(窃盗罪だけが成立する)
- 別罪を構成する行為盗んだキャッシュカードによる現金自動預払機からの現金の引出し(窃盗罪)、盗んだ預金通帳による窓口での払戻し(詐欺罪)、盗んだクレジットカードによる商品の購入(詐欺罪)。先行する窃盗罪とは併合罪になる
盗んだキャッシュカードや預金通帳で現金を引き出す行為は、新たな法益侵害として別罪になります
キャッシュカードや預金通帳を盗む行為の被害者は、その持ち主です。これに対し、カードや通帳を使って引き出す現金は銀行が占有しているので、引出しは銀行の財産を新たに侵害します。「Aは、預金残高100万円であるB名義の銀行口座のキャッシュカードをBから盗み、同カードを現金自動預払機に挿入して100万円を引き出した。この場合、Aにキャッシュカードの窃取について窃盗罪が成立し、これとは別に100万円の引出しについて窃盗罪が成立する」という肢(R8 問26 オ)は正しいです。カードの窃取と、現金自動預払機からの現金の窃取は、別個の法益侵害だからです。盗んだ預金通帳を使って窓口の係員を欺き払戻しを受けた場合には、窃盗罪と詐欺罪が成立し、両罪は併合罪となります。判例は、窃取した通帳を使って窓口の係員を欺き払戻しを受ける行為は、更に新たな法益を侵害する行為であり、盗品の単なる事後処分と同視できないとしています(最判昭和25年2月24日)。

盗んだカードの使用と先行する窃盗・詐欺は、牽連犯ではなく併合罪になります
カードを盗んだりだまし取ったりするのは、後で使うためです。しかし、牽連犯になるには、2つの罪が罪質上通例として手段と結果の関係にあることが必要で、行為者がそのつもりだったというだけでは足りません。クレジットカードを盗んでそのカードで詐欺を試みた場合、窃盗罪と詐欺未遂罪は牽連犯にはなりません。クレジットカードの窃盗と、そのカードを使った詐欺は、通例として手段と結果の関係にあるとはいえないので、両罪は併合罪になります。判例は、カードをだまし取った詐欺罪と、そのカードで現金自動預払機から現金を引き出した窃盗罪とを併合罪とした判断を是認しています(最決平成14年2月8日)。
横領した物を更に処分した場合、後の行為にも横領罪が成立します
委託を受けて占有する他人の不動産に無断で抵当権を設定し、その後に同じ不動産を無断で売却した場合が、横領後の横領と呼ばれる問題です。かつての判例は、後の売却を不可罰的事後行為としていました。しかし、判例は変更され、先行する抵当権設定が横領罪に当たる場合でも、後の売却について横領罪の成立は妨げられないとされています(最大判平成15年4月23日)。抵当権を設定してその旨の登記をした時点で業務上横領罪が成立していても、その後に土地を売却して登記を完了した行為について、業務上横領罪の成立は妨げられません。先行する抵当権設定行為にも、横領罪が成立します。抵当権を設定しても所有権は委託者に残っており、売却はその所有権を新たに侵害するからです。
刑法 第235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法 第261条(器物損壊等)
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
試験ではこう問われる
- 窃盗犯人が盗んだ腕時計を自宅で保管しても、盗品等保管罪は成立しない(R3 問26 ア ×)
- 盗んだキャッシュカードで現金自動預払機から現金を引き出せば、カードの窃盗とは別に窃盗罪が成立する(R8 問26 オ ○)
- 盗んだ時計を壊して捨てても、窃盗罪と器物損壊罪の牽連犯にはならず、窃盗罪だけが成立する(H26 問25 オ ×・出題当時)
- 盗んだ通帳で窓口の係員を欺いて払戻しを受ければ詐欺罪が成立し、窃盗罪と併合罪になる(最判昭和25年2月24日)
- 委託された不動産に抵当権を設定した後に売却した場合、後の売却にも横領罪が成立する(最大判平成15年4月23日)

