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観念的競合(「1個の行為」の意義)かんねんてききょうごう

刑法 第8章 罪数・刑罰の適用

観念的競合とは、1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合です。数個の罪が成立しますが、刑を科すうえでは1罪として扱われ、その最も重い刑により処断されます(刑法54条1項前段)。

石を1回投げて、建物の窓ガラスを割り、中にいた人にもけがをさせたとします。器物損壊罪と傷害罪の2つの罪が成立しますが、投げたのは1回だけです。行為が1個なら、罪を犯すという意思決定も1回しかしていません。そこで刑法は、2つの罪を別々に処罰して刑を足し合わせるのではなく、重い方の刑で1回だけ処断することにしています。これが観念的競合で、決め手は行為が1個といえるかどうかです。

建物の前の路上の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で画面右に立つ。左で男性(札「甲」)が石を1個投げる動作をしており、石の軌跡が1本、建物の窓ガラス(ひびが入っている)を通って室内の男性の肩に当たっている。軌跡の線は深紅で、札「行為は1個

「1個の行為」かどうかは、構成要件を離れた自然的観察のもとで判断されます

判例は、「1個の行為」とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価を受ける場合をいうとしています(最大判昭和49年5月29日)。どの罪の構成要件に当たるかという法律の目で切り分けるのではなく、行為者の動きを事実として見て、社会通念上1個といえるかで決めます。2つの罪の実行行為が重要な部分で重なり合っていれば1個の行為といえます。不作為でも同じで、ひき逃げをした運転者が救護義務と報告義務のどちらも果たさずに立ち去った場合、2つの義務違反の不作為は社会的見解上1個の動態であり、観念的競合になるとされています(最大判昭和51年9月22日)。

酒酔い運転と無免許運転は観念的競合ですが、酒酔い運転と運転中の人身事故は併合罪です

酒に酔った状態で自動車を無免許で運転した場合、酒酔い運転の罪と無免許運転の罪が成立し、両罪は観念的競合となります。無免許であることも酒に酔っていることも運転者の属性にすぎず、その状態で自動車を運転することは、社会的見解上1個の車両運転行為だからです。これに対し、同じ判例は、酒酔い運転の罪と、その運転中に人身事故を起こした業務上過失致死罪とは併合罪になるとしました。運転は時間的な継続と場所的な移動を伴う行為であり、事故は運転中の一時点一場所での出来事なので、両者は社会的見解上別個のものと評価されます。業務上過失致死罪は、現在は過失運転致死罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)に当たります。事故どうしの関係も行為の個数で決まります。1回の追突で2人を死傷させた場合、過失運転致死罪と過失運転致傷罪が併合罪となるのではありません。1回の追突という1個の行為から2人の死傷が生じているので、観念的競合になります。逆に、脇見運転による衝突の後、逃走しようとしてUターンした際に別の衝突を起こした場合は、観念的競合にはなりません。脇見運転による衝突と、逃走しようとしたUターンの際の衝突は別個の行為なので、併合罪になります。

教室の場面。先生が教壇に立ち、黒板に道路を表す長い横線が引かれ、線の上に自動車の絵。横線全体に沿って2本の帯「酒酔い運転」「無免許運転」が重なって描かれ、2本の帯を深紅の括弧がまとめて札「同じ運転行為=1個の行為」。横線の途中の1点に小さな

1個の行為で複数の被害者や複数の法益を侵害したときは、観念的競合になります

触れる罪名は、異なる罪名でも同じ罪名でもかまいません。眼鏡の上から顔面を殴った場合に、傷害罪と器物損壊罪が併合罪となるのではありません。眼鏡の上から顔面を殴るという1個の行為が傷害罪と器物損壊罪に触れるので、観念的競合です。3名を面前で同時に恐喝した場合も、3個の恐喝罪が併合罪となるのではありません。3名を面前で同時に恐喝する行為は1個なので、3個の恐喝罪は観念的競合になります。恐喝の手段である暴行で傷害を負わせた場合も、恐喝罪と傷害罪が併合罪となるのではありません。恐喝の手段である暴行が同時に傷害罪に当たるので、両罪は観念的競合です。公務員に暴行を加えて傷害を負わせた場合、公務執行妨害罪と傷害罪は観念的競合となります。道路にロープを張って通行人を負傷させた場合、往来妨害罪と傷害罪は牽連犯ではありません。ロープを張るという1個の行為が往来妨害罪と傷害罪に触れるので、牽連犯ではなく観念的競合になります。「公務員であるAは,その職務に関し,Bが窃取した自動車であることを知りながら,Bからこれを賄賂として無償で収受した。この場合において,Aには,収賄罪と盗品等無償譲受け罪が成立し,両罪は観念的競合の関係に立つ」という肢(R3 問26 エ)は正しいです。1個の収受行為が収賄罪と盗品等無償譲受け罪に触れるからです。

侵害された法益が1個であれば、そもそも1罪であって観念的競合にはなりません

観念的競合は、数個の罪が成立することを前提にしています。1個の行為から複数の結果が生じても、侵害された法益が実質的に1個であれば、成立する罪は1個です。1個の放火行為で複数の現住建造物を焼損しても、2個の現住建造物等放火罪が成立して観念的競合となるのではありません。放火罪は公共の安全を保護する罪であり、1個の放火行為で複数の現住建造物を焼損しても、生じた公共の危険が1個であれば、1個の現住建造物等放火罪が成立するにとどまります(大判大正2年3月7日)。これに対し、生命や身体は被害者ごとに独立した法益なので、1個の爆弾で2人を殺害すれば2個の殺人罪が成立し、観念的競合になります。

幇助犯の罪の個数は正犯の罪の数で決まり、1個の行為かどうかは幇助行為で判断します

判例は、幇助罪の個数は正犯の罪の個数に従って決まるが、幇助罪が数個成立する場合にそれが1個の行為によるものかどうかは、幇助行為それ自体について判断するとしています(最決昭和57年2月17日)。正犯が2人を殺害したので殺人幇助の罪は2個成立しますが、ナイフ1本を手渡すという幇助行為は1個なので、観念的競合になります。ドライバー1本を貸して正犯が2軒の住居に侵入した場合も、2個の住居侵入罪の従犯が成立し、観念的競合となります。模造拳銃1丁を貸し与えて正犯が2件の強盗をした場合も、2個の強盗幇助罪は併合罪にはなりません。模造拳銃1丁を貸し与える行為は1個だからです。

薄暗い路地の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で画面右に立つ。左で男性(札「甲:幇助」)が男性(札「乙:正犯」)に細長い包み(札「凶器1本」)を1回手渡している。手渡しの矢印は深紅で1本、札「幇助行為は1個」。乙の先に2枚の札「Xに対する

観念的競合は最も重い刑で処断され、併合罪のような加重はされません

観念的競合では、成立した数個の罪のうち最も重い刑により処断します。刑の上限も下限も重い方によります。併合罪のように長期を1.5倍にする加重はありません。最も重い罪の刑の長期にその2分の1を加えるのは併合罪の処理(47条)であり、1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合は、その最も重い刑により処断するだけです。

刑法 第54条第1項

一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

最大判昭和49年5月29日

一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう。

試験ではこう問われる

  1. 公務員が盗品と知りながら賄賂として無償で収受した場合、収賄罪と盗品等無償譲受け罪が成立し、観念的競合となる(R3 問26 エ ○)
  2. 「1個の行為」は、法的評価を離れた自然的観察のもとで、社会的見解上1個といえるかで判断する(最大判昭和49年5月29日)
  3. 1回の焼却行為で別々の所有者の物を損壊した場合、各器物損壊罪は観念的競合となる(H26 問25 エ ○・出題当時)
  4. 酒酔い運転と無免許運転は観念的競合、酒酔い運転と運転中の人身事故は併合罪となる
  5. 1個の行為で複数の被害者の生命・身体を侵害すれば観念的競合だが、1個の放火で複数の建造物を焼損しても公共の危険が1個なら1罪である
  6. 1個の幇助行為で正犯の複数の罪を幇助した場合、数個の幇助罪は観念的競合となる(最決昭和57年2月17日)
  7. 観念的競合は最も重い刑で処断し、併合罪のような長期の加重はしない(54条1項)

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