住居侵入罪の保護法益と「侵入」じゅうきょしんにゅうざいのほごほうえきとしんにゅう
侵入とは、住居権者又は管理権者の意思に反して住居等に立ち入ることです。住居侵入罪(130条前段)は、住居等にだれを立ち入らせるかを決める自由を保護法益とすると解されています。
自分の家にだれを入れ、だれを入れないかは、住んでいる人が決めることです。宅配業者を装った強盗を「どうぞ」と招き入れてしまったとしても、強盗だと知っていれば入れなかったはずです。住居侵入罪は、この「だれを立ち入らせるかを決める自由」を守る罪なので、静かに入ったか乱暴に入ったかではなく、住居権者や管理権者の意思に反する立入りかどうかで成否が決まります。

判例は、侵入を管理権者の意思に反する立入りと捉えています
住居侵入罪の保護法益については、住居等への立入りを認めるかどうかを決める自由と捉える住居権説と、住居等の事実上の平穏と捉える平穏説が対立しています。住居権説からは、侵入は住居権者・管理権者の意思に反する立入りを意味します。平穏説からは、侵入は住居等の平穏を害する態様での立入りを意味します。判例は、「侵入」とは他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうとしています(最判昭和58年4月8日)。同じ判例は、管理権者があらかじめ立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合でも、建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入りを管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、侵入に当たるとしています。
- 住居権説保護法益は、住居等にだれを立ち入らせるかを決める自由です。侵入は住居権者・管理権者の意思に反する立入りをいいます。平穏な態様でも意思に反すれば侵入になります
- 平穏説保護法益は、住居等の事実上の平穏です。侵入は平穏を害する態様での立入りをいいます。この説に対しては、平穏の内容が明確でないという批判が向けられます
目的を隠して得た承諾は、真意に基づく承諾ではありません
強盗の意図を隠して「こんばんは。」と挨拶し、家人が「おはいり」と答えたのに応じて住居に入った場合について、判例は、外見上家人の承諾があったように見えても、真実においてはその承諾を欠くとして、住居侵入罪の成立を認めました(最大判昭和24年7月22日)。強盗の意図を隠して挨拶し、「おはいり。」と答えられて立ち入った事例の「この場合、Aに住居侵入罪は成立しない」という肢(R8 問24 オ)は誤りです。強盗が目的だと知っていれば家人は承諾しなかったのですから、その承諾は真意に基づくものではなく、立入りは住居権者の意思に反します。また、「Aは、実父と共に居住していた実家から家出した後、Bと共謀の上、強盗の目的で、Bと共に深夜に実家に立ち入った。この場合、BのみならずAにも住居侵入罪が成立する」という肢(R8 問24 ウ)は正しいです。実家であっても、強盗の目的での立入りを父親が容認することはないからです。

一般に開放された場所でも、違法な目的での立入りは侵入になります
銀行の出張所のように、客の立入りが一般に許されている場所でも、管理権者が許しているのは通常の利用のための立入りです。判例は、現金自動預払機の利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、行員が常駐しない銀行支店出張所に営業中に立ち入った事案で、そのような立入りが管理権者である銀行支店長の意思に反することは明らかであるから、立入りの外観が一般の利用客のそれと特に異なるものでなくても、建造物侵入罪が成立するとしました(最決平成19年7月2日)。「Aは、現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、現金自動預払機が設置された銀行の出張所に、その営業時間中、一般の利用客と異なるものでない外観で立ち入った。この場合、Aに建造物侵入罪は成立しない」という肢(R8 問24 イ)は誤りです。
同意に基づく立入りは、構成要件に該当しません
侵入が意思に反する立入りを意味する以上、住居権者の真意に基づく同意があれば、そもそも侵入に当たりません。同意は違法性を阻却するのではなく、構成要件該当性を失わせます。このことは共犯の成否にも影響します。甲が乙にAの家屋に侵入するよう唆したところ、乙がAの承諾を得て平穏にその家屋に立ち入った場合、共犯が成立するには正犯の行為が構成要件に該当し違法性を具備することを要するとする見解からは、甲に住居侵入罪の教唆犯は成立しないという結論になります。正犯である乙の行為が侵入に当たらず、構成要件に該当しないからです。承諾がないのに、あると誤信して立ち入った場合は、意思に反する立入りであることの認識を欠くので、故意がなく住居侵入罪は成立しません。
侵入した者が退去しなくても、不退去罪は別に成立しません
不退去罪(130条後段)は、適法に、又は過失で立ち入った者が、退去の要求を受けたのに退去しなかった場合に成立します。判例は、建造物侵入罪は建造物に侵入した場合に成立し、退去するまで継続する犯罪であるから、同罪が成立する以上、退去しない場合でも不退去罪は成立しないとしています(最決昭和31年8月22日)。住居権者の意思に反して住居に立ち入り、退去を求められたのに数日間滞留した場合も、住居侵入罪だけが成立し、不退去罪は成立しません。なお、住居侵入等の罪は未遂も処罰されます(132条)。住居侵入罪と、侵入した先で犯した窃盗罪・強盗罪・殺人罪などは、牽連犯になります。

刑法 第130条(住居侵入等)
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。
最判昭和58年4月8日刑法130条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきである
試験ではこう問われる
- 侵入とは管理権者の意思に反する立入りをいい、平穏を害することは要件でない(最判昭和58年4月8日)
- ビラを配布するためにマンションの共用部分に立ち入る行為が管理組合の意思に反し、行為者もそれを認識していれば、ビラの配布が表現の自由として保障されることを理由に住居侵入罪の成立が否定されることはない(R8 問24 ア ×)
- 強盗の意図を隠して挨拶し、家人の「おはいり。」という返事に応じて立ち入れば、住居侵入罪が成立する(最大判昭和24年7月22日。R8 問24 オ ×)
- 実家から家出した者が、強盗の目的で共犯者と深夜に実家に立ち入れば、その者にも住居侵入罪が成立する(R8 問24 ウ ○)
- 暗証番号等を盗撮する目的で銀行の出張所に立ち入れば、外観が一般の利用客と異ならなくても建造物侵入罪が成立する(最決平成19年7月2日。R8 問24 イ ×)
- 部外者の立入りが禁止され、外から内部をのぞき見ることができない警察署の中庭を囲む高さ約2.4mの塀によじ上って塀の上に立てば、建造物侵入罪が成立する(R8 問24 エ ○)
- 住居権者の真意に基づく同意があれば侵入に当たらない。侵入した者が退去しなくても、不退去罪は別に成立しない(最決昭和31年8月22日)

