不法原因給付と財産犯ふほうげんいんきゅうふとざいさんはん
不法原因給付と財産犯とは、賄賂の資金や違法な取引の代金のように、不法な原因のために交付された財物・利益について、給付者が民法上その返還を請求できない場合(民法708条)にも、詐欺罪・恐喝罪・横領罪などの財産犯が成立するかという問題です。判例は、いずれの場面でも財産犯の成立を認めています。
「一緒に偽札を作ろう。機材を買う金を出してくれ」とうそを言って現金を受け取った場合、お金を出した人も違法なことに加担するつもりでした。民法は、不法な原因のために給付をした者は返還を請求できないと定めています(708条)。それなら、取り返せないお金をだまし取っても罪にならないのかが問題になります。判例は、だます行為や着服する行為が財産の秩序を乱すことに変わりはないとして、財産犯の成立を認めています。

不法な目的で交付させた場合でも、欺いて交付させれば詐欺罪が成立します
最判昭和25年7月4日(不法原因給付と詐欺罪)は、統制法規に違反する闇取引の代金を装って綿糸をだまし取った事案で、欺罔手段によって相手方の財物に対する支配権を侵害した以上、相手方が民法上返還や損害賠償を請求できない場合であっても、詐欺罪の成立は妨げられないとしました。交付した財物そのものは、交付する前には適法に被害者の手元にあった財産であり、欺く行為がなければ交付されなかったからです。覚醒剤を購入すると偽って買付資金名下に現金の交付を受けた場合も、相手方に返還請求権がないことを理由に詐欺罪が否定されることはなく、詐欺既遂罪が成立します。恐喝罪についても同じで、不法な原因に基づく給付を脅し取った場合にも恐喝罪が成立します。強盗利得罪についても、「Aは,Bから麻薬購入資金として現金を預かっていたが,その返還を免れようと考え,Bに対し,その反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫を加え,Bの反抗を抑圧し,その返還を免れた。この場合,Bは当該現金に関する法律上の請求権を有しなかったのであるから,Aには,強盗利得罪は成立しない」という肢(R3 問25 イ)は誤りです。
詐欺賭博で負わせた債務が私法上無効であっても、2項詐欺罪が成立します
不正な細工をしたトランプや花札で相手を負けさせ、賭け金の支払債務を負担させる詐欺賭博は、勝敗が偶然に左右されないので賭博罪ではなく詐欺罪の問題になります。賭博による債務は公序良俗に反して無効ですが(民法90条)、そのことを理由に詐欺罪の成立が否定されるわけではありません。最決昭和43年10月24日は、債務の負担が私法上有効であるか否かは詐欺罪の成立に影響がないとして、2項詐欺罪の成立を認めた原判断を是認しました。無効な債務であっても、事実上支払を求められる立場に置かれること自体が財産上の不利益だからです。不正な細工をしたトランプで乙を負けさせ100万円の支払債務を負担させた事例でも、乙に対する詐欺罪が成立します。
不法な目的で預かった金銭を着服した場合も、判例は横領罪の成立を認めています
最判昭和23年6月5日(不法原因給付にかかる物件の横領)は、贈賄の資金として預かった金銭を費消した事案で、横領罪の目的物は「犯人の占有する他人の物」であれば足り、給付者が民法上その返還を請求できることを要件としないとして、横領罪の成立を認めました。この見解に対しては、受託者が民法708条に基づいて返還請求を拒む行為にも横領罪が成立することになりかねないという批判が向けられます。また、不法原因給付の目的物の所有権は、給付者が返還を請求できないことの反射的効果として受給者に帰属するという立場を前提にすると、「他人の物」を領得したわけではないのに横領罪を認めることになるという批判も向けられます。他方、この見解は、返還請求権がなくても委託に背いて領得する行為を処罰するのですから、委託信任関係の破壊という点を考慮しています。この見解は、使途を定めて委託された金銭の所有権は受託者に移転しないとする立場とも矛盾しません。民法708条の「給付」に「委託」は含まれないとする立場を前提にしなければならないわけでもありません。
- 判例の見解横領罪の目的物は犯人の占有する他人の物であれば足り、民法上返還を請求できることを要しない。横領罪が成立する
- 横領罪を否定する見解給付者は返還を請求できず、その反射的効果として所有権は受給者に帰属する。「他人の物」に当たらないので横領罪は成立しない
- 給付と寄託を区別する見解民法708条の「給付」は終局的な利益を与えるものに限られる。不法な目的で預けただけの場合は不法原因給付に当たらず、所有権は委託者に残るので横領罪が成立する

盗品の売却を頼まれた者が売却代金を着服した場合も、横領罪が成立します
窃盗犯人から盗品の売却を依頼された者が、売却代金を着服した場合について、最判昭和36年10月10日は、窃盗犯人が代金の返還を請求できないとしても、被告人は自己以外の者のためにこれを占有しているのであるから、着服した以上横領の罪責を免れないとしました。委託者が窃盗犯人であっても、受託者との間の委託信任関係は刑法上保護に値するとされています。なお、この場合、盗品の売却をあっせんした点については盗品等有償処分あっせん罪も成立します。
違法な取引の代金の支払を免れる行為についても、2項犯罪の成否が問題になります
覚醒剤の代金や売春の対価のように、公序良俗に反して民法上請求できない代金の支払を、欺いたり暴行を加えたりして免れた場合に、財産上不法の利益を得たといえるかが問題になります。最決昭和61年11月18日は、覚醒剤の取引を装って覚醒剤を受け取った後、相手を殺害しようとした事案で、覚醒剤の返還ないし代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るためにされたものとして、2項強盗による強盗殺人未遂罪の成立を認めました。民法上保護されない利益であっても、事実上の財産的利益として刑法上の保護の対象になるという理解に立っています。欺いて売春の対価の支払を免れた場合の2項詐欺罪については、下級審の裁判例が成立を認めるものと否定するものに分かれています。
民法708条不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
刑法 第252条第1項自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。
試験ではこう問われる
- 不法な目的で交付させた場合でも、欺いて財物の支配権を侵害した以上、詐欺罪が成立する(最判昭和25年7月4日)
- 覚醒剤を購入すると偽って買付資金の交付を受ければ、相手方に返還請求権がなくても詐欺既遂罪が成立する
- 麻薬購入資金として預かった現金の返還を暴行・脅迫で免れれば、相手方に法律上の請求権がなくても強盗利得罪が成立する(R3 問25 イ ×)
- 詐欺賭博で債務を負担させた場合、債務が公序良俗に反して無効でも2項詐欺罪が成立する(最決昭和43年10月24日)
- 不法な目的で預かった金銭を領得すれば横領罪が成立する。横領罪の目的物は給付者が民法上返還を請求できるものであることを要しない(最判昭和23年6月5日)
- この見解には、受託者が民法708条に基づいて返還請求を拒む行為にも横領罪が成立しかねないとの批判がある
- 窃盗犯人から盗品の売却を依頼された者が売却代金を着服すれば横領罪が成立する(最判昭和36年10月10日)

