横領罪の「占有」と委託信任関係おうりょうざいのせんゆうといたくしんにんかんけい
横領罪の「占有」とは、物に対する事実上の支配に加えて、登記名義や預金名義のような法律上の支配を含む、濫用のおそれのある支配力をいいます。委託信任関係とは、所有者などから物の保管を任された関係をいい、横領罪の占有はこの関係に基づくものでなければなりません。
友人から預かったカメラを勝手に売ってしまうのが横領です。カメラは最初から自分の手元にあるので、他人の占有を奪う窃盗とは違い、任された信頼を裏切る点に罪の中心があります。そうすると、横領罪でいう「占有」は、手に持っているかどうかよりも、その物を処分できる立場にあるかどうかが大事になります。土地の登記名義を持っている人や、預金を引き出せる立場の人も、処分できる立場にあるので、占有があると扱われます。

横領罪の占有は、事実上の支配に加えて法律上の支配を含みます
窃盗罪の占有は、奪われる対象として物に対する事実上の支配をいいます。これに対し、横領罪の占有は、委託者との信頼関係の基礎となるものなので、濫用のおそれのある支配力であれば足り、法律上の支配も含まれます(大判大正4年4月9日)。株式会社の代表取締役にも、会社の所有物について横領罪の占有が認められます。取締役は業務上、会社の財産を事実上および法律上支配し得る地位にあります。不動産については、登記名義人が法律上の支配を有します。売却して引き渡した家屋であっても、登記名義が残っている売主は、その家屋を占有しています。最判昭和30年12月26日は、所有権移転登記が未了の間は、売主がなおその不動産を占有しているとしています。引渡しを済ませていても、登記名義が残っていれば第三者に処分できるからです。預金についても、預金名義人など払戻権限を持つ者は、預金された金銭を占有していると扱われます。
不動産は横領罪の客体になりますが、電気は客体になりません
横領罪の「物」は財物、つまり有体物を意味しますが、窃盗罪と違って不動産も含まれます。占有に法律上の支配が含まれるので、登記名義を通じて不動産を占有することができるからです。不動産の二重売買や、委託された不動産への無断の抵当権設定に横領罪が成立するのは、このためです。他方、横領の罪の章は、電気を財物とみなす245条を準用していません。出張所の所長が会社の承諾を得ずにコンセントから私用の電気を使った事例では、電気は横領罪の客体にならないので、業務上横領罪は成立しません。
占有は委託信任関係に基づくものでなければならず、そうでなければ遺失物等横領罪にとどまります
252条の横領罪が成立するには、占有が所有者などからの委託に基づいていることが必要です。偶然に自分の支配下に入った物を領得しても、委託信任関係を裏切ったとはいえないので、254条の遺失物等横領罪が成立するにとどまります。不在中の自宅に誤って配達された他人あての贈答品を食べてしまった場合も、横領罪は成立せず、遺失物等横領罪にとどまります。大判大正6年10月15日は、誤って配達された郵便物の占有は委託信任関係に基づかないとしています。委託信任関係は、委任や寄託の契約に限らず、売買・賃貸借などの契約や、事務管理、後見などからも生じます。契約が取り消されたり解除されたりした後も、原状回復として返還するまでの占有は委託信任関係に基づくものと扱われます。未成年を理由に売買契約が取り消され、契約が初めから無効であったものとみなされる場合も、返還するまでの占有は委託信任関係に基づくものと扱われ、無断で処分すれば横領罪が成立し得ます。
占有が他人にもある場合は、横領罪ではなく窃盗罪が成立します
行為者が物を手にしていても、刑法上の占有が他人にある場合や他人と共同である場合は、その占有を侵害するので窃盗罪になります。「Aは、同居人のBと共有し、共同して占有していたテレビを、Bに無断で持ち出し、質に入れた。この場合、Aには窃盗罪は成立しない」という肢(R4 問26 オ)は誤りです。最判昭和25年6月6日は、共同占有者の占有を奪って自己単独の占有に移す行為は窃盗に当たるとしました。上下の関係がある場合は、占有は上位者にあり、下位者は占有を補助しているにすぎません。レジ係のアルバイトがレジ内の売上金を持ち出した場合も、売上金の占有は店長にあるので窃盗罪が成立します。施錠された容器や封をした包みを預かった場合、容器全体の占有は受託者にありますが、中身の占有は委託者に残ります(最決昭和32年4月25日)。施錠されたスーツケースを預かった者が開錠して衣類を取り出した場合も、窃盗罪です。宿泊客が客室備付けのドライヤーを持ち帰った事例でも、ホテルは客に管理を委託しておらず占有はホテルにあるので、横領罪ではなく窃盗罪が成立します。「Aは、旅館に宿泊した際、宿泊者が宿泊中に使用するために客室内に備え置かれた浴衣を着て外出し、そのまま立ち去った。この場合、Aに窃盗罪ではなく横領罪が成立する」という肢(R8 問26 イ)も誤りです。
- 共同で保管している現金共同占有。1人が無断で全部を持ち出せば窃盗罪(最判昭和25年6月6日)
- レジ係のアルバイトとレジ内の売上金占有は店長にある。持ち出せば窃盗罪
- 施錠されたスーツケースの中身中身の占有は委託者にある。開錠して取り出せば窃盗罪
- 客室備付けのドライヤー占有はホテルにある。持ち帰れば窃盗罪
- 誤って配達された他人あての荷物委託信任関係がない。領得すれば遺失物等横領罪

業務上横領罪の「業務」は、委託を受けて他人の物を占有・保管する事務に限られます
253条の業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領した場合に、刑を10年以下の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)に加重しています。ここでいう「業務」は、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われる事務のうち、委託を受けて他人の物を占有・保管することを内容とするものをいいます。業務上過失致死傷罪の「業務」と違い、物の保管を内容としない事務は含まれません。会社の経理担当者、集金業務に従事する従業員、後見人などの占有がこれに当たります。
刑法 第252条第1項自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。
刑法 第253条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。
試験ではこう問われる
- 横領罪の「占有」は、事実上の支配のほか法律上の支配を含む(大判大正4年4月9日)
- 不動産は横領罪の客体となる。引渡し後も登記名義が残っている売主は、その不動産を占有している(最判昭和30年12月26日)
- 誤って配達された他人あての物を領得しても、横領罪は成立せず、遺失物等横領罪にとどまる(H29 問26 ウ ○・出題当時)
- 同居人と共同占有するテレビを無断で質入れすれば、横領罪ではなく窃盗罪が成立する(最判昭和25年6月6日。R4 問26 オ ×)
- 旅館の浴衣を着たまま立ち去った宿泊客には、横領罪ではなく窃盗罪が成立する(R8 問26 イ ×)
- 業務上横領罪の「業務」は、委託を受けて他人の物を占有・保管する事務に限られる。後見人の占有もこれに当たる
- 電気は横領罪の客体にならない(245条の準用がない)

