強盗利得罪(2項強盗)ごうとうりとくざい
強盗利得罪とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を用いて、財産上不法の利益を得、又は他人に得させる罪です(236条2項)。代金や債務の支払を暴行・脅迫によって免れる場合が典型で、被害者の処分行為は必要ありません。
タクシーで目的地に着いた客が、料金を請求されたとたんに運転手へナイフを突き付けて逃げた場合、客は物を何も奪っていません。それでも、暴力で料金の支払を免れたのですから、物を奪うのと同じように処罰する必要があります。そこで236条2項は、暴行・脅迫を用いて「財産上不法の利益」を得た場合も強盗としています。物と違って利益は目に見えないので、いつ利益を得たといえるのかが問題になります。

強盗利得罪は、暴行・脅迫を用いて、代金の支払を免れるなどの財産上の利益を得る罪です
236条2項の罪は、1項と同じく相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を用いて、財産上不法の利益を得、又は他人に得させることで成立します。代金や料金の支払を免れること、債務の返済を免れること、役務の提供を受けることが利益の典型です。飲食後に代金を請求された者が、店長の首に登山ナイフを突き付けてひるませ、逃走して行方をくらませた場合には、強盗利得罪が成立します。タクシーに乗車するや運転手の首に出刃包丁を突き付けて行き先を告げ、意に反して走行させたうえ料金を支払わずに逃走した場合も同じです。有償の運送という役務を暴行・脅迫によって提供させ、料金の支払も免れているからです。これに対し、利益は暴行・脅迫の相手方から直接移転したものでなければなりません。依頼を受けて腕時計を強取し、その報酬を依頼者から受け取っても、報酬について強盗利得罪は成立しません。報酬は依頼者が任意に支払ったもので、暴行・脅迫によって被害者から移転した利益ではないからです。居場所の情報を聞き出して後に返済を受けた事例にも強盗利得罪は成立しません。
被害者の処分行為は必要なく、事実上請求を受けない状態になれば利益を得たといえます
詐欺罪や恐喝罪の2項は、相手方の処分行為によって利益が移転することを要件とします。これに対し、強盗は相手方の反抗を抑圧して奪う罪なので、相手方が意思に基づいて処分することは予定されていません。最判昭和32年9月13日は、236条2項の罪が成立するには、相手方の反抗を抑圧すべき暴行・脅迫の手段を用いて財産上不法の利益を得ることで足り、必ずしも相手方の意思による処分行為を強制することを要しないとして、処分行為を必要とした大審院判例を変更しました。債務の返済を免れる目的で債権者を殺害しようとした事案で、強盗殺人未遂罪の成立を認めています。したがって、「Aは,Bから金銭を借りていたが,その支払を免れようと考え,Bに対し,その反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫を加え,Bの反抗を抑圧し,事実上債務の弁済請求ができない状態に陥らせた。この場合,Aには,強盗利得罪は成立しない」という肢(R3 問25 ウ)は誤りです。運賃を請求されたタクシーの乗客がナイフを突き付けて「殺すぞ。」と脅し、運転手が恐怖で動けないうちに逃走して支払を免れた場合も、強盗罪が成立します。運転手が支払を免除すると言っていなくても、事実上請求できない状態になっているからです。

処分行為が要らないぶん、利益の移転は具体的で確実なものでなければなりません
処分行為が不要だとすると、債権者に暴行を加えただけで広く2項強盗が成立しかねません。そこで、財物の占有が移転したのと同じ程度に、利益が具体的かつ確実に移転したといえることが必要と解されています。債権者を殺害する場合であれば、殺害によって債権者の側で債権を行使することが事実上不可能又は著しく困難になることが必要です。債権の存在を示す証拠があり、相続人が容易に請求できる場合には、支払を一時的に免れただけで利益を得たとはいえないことがあります。東京高判平成21年11月16日は、キャッシュカードを窃取した者が被害者を包丁で脅して暗証番号を聞き出した事案で、カードと暗証番号を併せ持つことにより、現金自動預払機を通じて迅速かつ確実に払戻しを受けられる地位を得たとして、2項強盗の成立を認めました。反対に、東京高判平成元年2月27日は、被相続人を殺害して相続人の地位を得ることが問題になった事案で、2項強盗の成立を否定しています。相続による財産の承継は、被害者による任意の処分を考える余地がないものだからです。
財物をだまし取った後に、返還や代金の支払を免れるために暴行を加えれば、2項強盗が成立します
先に詐欺罪や窃盗罪で財物を取得していても、その後に返還請求や代金請求を免れるために暴行・脅迫を加えれば、別に2項強盗が成立します。最決昭和61年11月18日は、覚醒剤を受け取って逃走した後に相手を拳銃で撃った事案で、発射行為は覚醒剤の返還ないし代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るためのものであるとして2項強盗による強盗殺人未遂罪を認め、先行する取得行為が窃盗罪又は詐欺罪のいずれに当たるにせよ、その罪と強盗殺人未遂罪の包括一罪として重い後者の刑で処断すべきであるとしました。代金を支払う意思も能力もないのに酒食を注文して飲食した後、代金の支払を免れるために店長に反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を加えて逃走した場合も、強盗既遂罪が成立します。免れる債務が不法なものであっても結論は同じで、覚醒剤の代金支払債務を免れるために密売人を殺害した事例や、覚醒剤の返還を免れるために相手を殺害した事例には、強盗殺人罪が成立します。「Aは,Bから麻薬購入資金として現金を預かっていたが,その返還を免れようと考え,Bに対し,その反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫を加え,Bの反抗を抑圧し,その返還を免れた。この場合,Bは当該現金に関する法律上の請求権を有しなかったのであるから,Aには,強盗利得罪は成立しない」という肢(R3 問25 イ)は誤りです。
刑法 第236条第2項前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
試験ではこう問われる
- 飲食代金やタクシー料金の支払を、ナイフを突き付けるなどして免れれば強盗利得罪が成立する
- 利益は暴行・脅迫の相手方から移転したものでなければならない。強盗の依頼者から受け取った報酬について強盗利得罪は成立しない
- 被害者の処分行為は要らない(最判昭和32年9月13日)。借金の支払を免れるため暴行・脅迫で事実上弁済請求ができない状態に陥らせれば、強盗利得罪が成立する(R3 問25 ウ ×)
- 処分行為が要らないぶん、利益の移転は具体的で確実であることが必要である。相続による財産の取得を目的とする殺害には2項強盗は成立しない(東京高判平成元年2月27日)
- 財物を詐取した後に返還や代金支払を免れるため殺害すれば、詐欺罪と強盗殺人罪の包括一罪になる(最決昭和61年11月18日)
- 麻薬購入資金のように法律上の請求権がない債務を免れる場合も、強盗利得罪が成立する(R3 問25 イ ×)

