訴訟物と訴訟物論(旧訴訟物理論・新訴訟物理論・1個の訴訟物の範囲)そしょうぶつとそしょうぶつろん
訴訟物とは、原告が訴えによって主張し、裁判所が判決で判断する対象となる権利や法律関係をいいます。訴訟物論は、どこまでを一個の訴訟物とみるかをめぐる議論で、判例・実務は実体法上の請求権ごとに訴訟物を数える旧訴訟物理論に立ち、学説では一回の給付を求める法的地位を一個の訴訟物とする新訴訟物理論が有力です。
建物を貸した相手が出て行かないとき、家主は「自分の建物だから返せ」とも「賃貸借が終わったから返せ」とも言えます。この二つが一つの訴えなのか二つの訴えなのかで、前の裁判で負けた後にもう一度訴えられるか、同時に別の裁判を起こせるかが変わります。裁判所が判断する対象としての権利主張を訴訟物といい、その数え方をめぐる議論が訴訟物論です。判例と実務は、実体法上の請求権ごとに訴訟物を数える考え方を採っています。

訴訟物は裁判所が審判する対象で、請求の趣旨と原因によって特定されます
訴訟物は、原告が訴えで主張し、裁判所が判決で判断する権利や法律関係のことです。訴訟物が決まると、裁判所が判決できる範囲(246条)、重複起訴になるか(142条)、請求の併合や訴えの変更に当たるか(136条・143条)、既判力がどこまで及ぶか(114条1項)が決まるので、訴訟物は民事訴訟のいろいろな論点の出発点になります。訴状では請求の趣旨と請求の原因で訴訟物を特定します(134条2項2号)。たとえば売買代金の請求なら、「平成11年1月5日にAB間で締結された甲絵画を代金200万円で売る旨の売買契約に基づくAのBに対する代金200万円の支払請求権」のように、権利の主体・内容・発生原因で特定できます。これに対し、所有権のような物権は、同じ物について同じ人の所有権は一つしかないので、所有権確認の訴えでは取得原因を書かなくても訴訟物は特定されます。訴状の記載との関係は「訴状の必要的記載事項と請求の特定」で扱います。
判例と実務は、実体法上の請求権ごとに訴訟物を数える旧訴訟物理論に立っています
建物の明渡しを、所有権に基づく返還請求権と賃貸借契約の終了に基づく返還請求権のどちらでも求められる場合、旧訴訟物理論(実体法説)は、実体法上の請求権ごとに訴訟物が別になると考えます。判例と実務はこの立場です。そうすると、所有権に基づく請求で負けても賃貸借の終了に基づいて改めて訴えられ、一方の訴訟中に他方で訴えても重複起訴にならず、両方を一つの訴えで求めれば請求の併合、一方から他方に切り替えれば訴えの変更になります。これに対し新訴訟物理論(訴訟法説)は、建物の返還は1回されれば足りるので、訴訟物は実体法上の根拠を超えた「給付を求める法的地位」一つであり、所有権や賃貸借の終了は訴訟物を理由づける法的観点にすぎないと考えます。学説では有力ですが、実務は採っていません。新訴訟物理論は、敗訴した原告が根拠を変えて同じ明渡しを求め直せるのは常識に反すると批判し、旧訴訟物理論の側は、蒸し返しは信義則などで個別に封じられると応じています。このほか、複数の請求権を実体法上一つの請求権に組み直す新実体法説もあります。
- 旧訴訟物理論実体法上の請求権ごとに訴訟物を数えます。判例・実務の立場です
- 新訴訟物理論一回の給付を求める法的地位を一つの訴訟物とし、実体法上の根拠は法的観点にすぎないとします
- 新実体法説競合する請求権を実体法上一つの請求権に組み直し、それを訴訟物とします

旧訴訟物理論でも、同じ請求権の発生原因や終了原因をいくつ主張しても訴訟物は一つです
旧訴訟物理論のもとでも、一つの請求権を理由づける事実を複数主張するだけなら、訴訟物は増えません。賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求では、終了原因として賃料不払による解除と用法違反による解除を主張しても、契約の終了に基づく返還請求権は一つで、個々の終了原因は攻撃方法にすぎません。所有権確認の訴えで取得原因を売買から取得時効に変えるのも攻撃方法の変更で、訴えの変更には当たりません。訴えの変更に当たる場合でも、請求の基礎に変更がなければ相手方の同意なしにできるので(143条1項)、「相手方が本案について口頭弁論をした後は、相手方の同意を得なければ、訴えの追加的変更をすることができない」という肢(R6 午後 問2 エ)は誤りです。他方、実体法上別の権利であれば、金額が同じでも訴訟物は別です。貸金債権と利息債権は別の権利なので、両方を請求すれば訴訟物は複数です。主位的に貸金の返還、予備的に保証債務の履行を求める場合も、消費貸借に基づく請求権と保証契約に基づく請求権は別なので、給付義務が1個に見えても訴訟物は2個です。
同じ事故による同じ身体の傷害の損害賠償は、費目を分けて主張しても訴訟物は一つです
判例は、同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは、原因事実と被侵害利益を共通にするので、その賠償請求権は一個であり、両方をあわせて請求しても訴訟物は一個だとしました(最判昭和48年4月5日)。治療費・逸失利益・慰謝料は一つの損害賠償請求権の中の損害の費目にすぎません。訴訟物が一つなので、処分権主義で裁判所が縛られるのは請求の総額であって、費目ごとの主張額ではありません。治療費50万円・慰謝料200万円の合計250万円を請求したところ、治療費60万円・慰謝料100万円と認定された場合、裁判所は総額の範囲内で160万円の支払を命じられます。同じ判決は、一部請求と過失相殺について外側説を採っており、この点は「一部請求」で扱います。
民事訴訟法 第134条第2項訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び原因
最判昭和48年4月5日同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは、原因事実及び被侵害利益を共通にするものであるから、その賠償の請求権は一個であり
試験ではこう問われる
- 訴訟物は請求の趣旨と請求の原因で特定し、判例・実務は実体法上の請求権ごとに訴訟物を数える旧訴訟物理論に立つ
- 賃貸借終了に基づく返還請求で終了原因を二つ主張しても訴訟物は1個である
- 所有権確認の訴えで取得原因を売買から時効取得に変えるのは攻撃方法の変更で、訴えの変更に当たらない
- 訴えの変更は請求の基礎に変更がない限り口頭弁論の終結までできる(143条1項)。被告が本案について弁論した後も相手方の同意は要らない(R6 午後 問2 エ ×)
- 貸金債権と利息債権を請求すれば訴訟物は複数で、主位的に貸金、予備的に保証債務の履行を求めれば給付の額が同じでも訴訟物は2個である
- 同一事故による同一の身体傷害の損害賠償は、費目を分けても訴訟物は1個である(最判昭和48年4月5日)。費目ごとの主張額を超えて認定しても、請求の総額の範囲内なら処分権主義に反しない

