少額訴訟しょうがくそしょう
少額訴訟とは、簡易裁判所で、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払請求について、原告の選択により、原則として1回の期日で審理を終えて直ちに判決をする特別の手続です(368条以下)。同じ簡易裁判所で同じ年に利用できる回数は、最高裁判所規則で10回までとされています。
敷金の返還や少額の貸し借りのように、争う金額が小さいのに通常の裁判で数か月もかかるのでは、費用と手間の方が大きくなってしまいます。そこで、60万円以下のお金の請求について、1回の期日で双方の話を聞き、その日のうちに判決を出す少額訴訟が用意されています。早く終わらせる代わりに、その場ですぐ調べられる証拠しか使えず、反訴もできません。業者が取立てに使い続けないよう、同じ簡易裁判所で1年に使える回数にも上限があります。

少額訴訟は簡易裁判所で訴額60万円以下の金銭請求について原告が選べる手続で、同じ簡易裁判所で年10回までに限られます
簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができます(368条1項本文)。「求めることができる」とあるとおり原告の選択で、60万円以下でも通常の手続で訴えてかまいません。同じ簡易裁判所で同じ年に最高裁判所規則で定める回数を超えて求めることはできず(368条1項ただし書)、規則はその回数を10回としています(民事訴訟規則223条)。一般市民のための制度が貸金業者などの取立てに使われ続けないための歯止めです。少額訴訟を求める旨の申述は訴えの提起の際にし、その年の利用回数を届け出なければならず(368条2項・3項)、虚偽の届出は10万円以下の過料の対象です(381条1項)。
少額訴訟では反訴ができず、最初の期日で審理を終えるのが原則で、証拠調べは即時に取り調べられる証拠に限られます
少額訴訟においては、反訴を提起することができません(369条)。同じ交通事故に基づく損害賠償でも同じです。特別の事情がある場合を除き、最初にすべき口頭弁論の期日で審理を完了しなければならず(370条1項)、当事者はその期日前か期日に全ての攻撃防御方法を出さなければなりません(370条2項)。そのため、証拠調べは即時に取り調べることができる証拠に限られます(371条)。この制限は少額訴訟だけのもので、簡易裁判所の通常の手続にはありません。証人は宣誓させないで尋問でき(372条1項)、尋問の順序は裁判官が相当と認める順序により(372条2項)、裁判所は相当と認めれば電話会議の方法で証人を尋問できます(372条3項)。「証人の尋問は、宣誓をさせないですることができる」という肢(R6 午後 問5 ウ)と、「裁判所は、相当と認めるときは、裁判所及び当事者双方と証人とが音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、証人を尋問することができる」という肢(R6 午後 問5 エ)は、どちらも正しいです。
被告は、最初の期日で弁論をするまで、又はその期日が終わるまで、通常の手続への移行を申述できます
被告は、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができますが、最初にすべき口頭弁論の期日で弁論をし、又はその期日が終了した後はできません(373条1項)。少額訴訟による審判に同意するかどうかを、本案の弁論を始める前に被告に選ばせる趣旨です。「被告は、最初にすべき口頭弁論の期日において弁論をした後であっても、口頭弁論の終結に至るまで、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができる」という肢(R6 午後 問5 イ)は誤りです。裁判所は、回数の制限に違反したとき、届出を命じても届出がないとき、公示送達によらなければ被告を最初の期日に呼び出せないとき、少額訴訟によるのが相当でないと認めるときは、通常の手続により審理する旨の決定をしなければならず(373条3項)、この決定には不服を申し立てられません(373条4項)。公示送達の被告には一回の期日で防御の機会を与えられないからです。「公示送達によらなければ被告に対する最初にすべき口頭弁論の期日の呼出しをすることができないときは、裁判所は、訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない」という肢(R6 午後 問5 ア)は正しいです。

請求を認容する判決では、3年以内の支払猶予や分割払と遅延損害金の免除を定められますが、元本の免除はできません
判決の言渡しは、相当でないと認める場合を除き口頭弁論の終結後直ちにし、電子判決書に基づかないですることができます(374条)。裁判所は、請求を認容する判決をする場合に、被告の資力その他の事情を考慮して特に必要があると認めるときは、判決の言渡しの日から3年を超えない範囲内で、支払の時期の定め若しくは分割払の定めをし、又はこれとあわせて、その定めに従って支払えば訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定めをすることができます(375条1項)。分割払を定めるときは期限の利益の喪失の定めが必要で(375条2項)、これらの定めに関する裁判には不服を申し立てられません(375条3項)。原告が50万円の支払を求める場合に、毎月10万円ずつ5回の分割払を命じ、期限の利益を失わずに支払えば訴え提起後の遅延損害金を免除する判決ができます。免除できるのは遅延損害金だけで、元本の一部を免除する定めはできません。認容判決には職権で仮執行宣言を付けなければなりません(376条1項)。この判決による強制執行には執行文が要らないので(民事執行法25条ただし書)、「仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決により、これに表示された当事者に対し、又はその者のために強制執行をするには、執行文の付与を受けることを要しない」という肢(R4 午後 問7 イ)は正しいです。処分権主義との関係は、処分権主義と申立事項・判決事項の語で扱います。
少額訴訟の終局判決には控訴できず、同じ裁判所への異議の後にされた判決にも控訴できません
少額訴訟の終局判決に対しては、控訴をすることができません(377条)。不服がある当事者は、電子判決書又は判決に代わる電子調書の送達を受けた日から2週間の不変期間内に、その判決をした裁判所に異議を申し立てられます(378条1項)。「少額訴訟の終局判決に対しては、控訴をすることができる」という肢(R6 午後 問5 オ)は誤りです。適法な異議があると、訴訟は口頭弁論の終結前の程度に戻り、通常の手続で審理しますが(379条1項)、反訴の禁止などの規定は異議後も準用されます(379条2項)。異議後の終局判決にも控訴はできず(380条1項)、憲法違反を理由とする特別上告ができるだけです(380条2項・327条)。小さな事件を何審も争わせないためです。
民事訴訟法 第368条第1項簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が六十万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。ただし、同一の簡易裁判所において同一の年に最高裁判所規則で定める回数を超えてこれを求めることができない。
民事訴訟法 第373条第1項被告は、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができる。ただし、被告が最初にすべき口頭弁論の期日において弁論をし、又はその期日が終了した後は、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 公示送達でしか被告を最初の期日に呼び出せないときは、通常の手続に移す決定をしなければならない(373条3項3号。R6 午後 問5 ア ○)
- 被告の通常移行の申述は、最初の期日で弁論をするか期日が終わるまでに限られる(373条1項。R6 午後 問5 イ ×)
- 証人は宣誓させないで尋問でき、電話会議の方法でも尋問できる(372条1項・3項。R6 午後 問5 ウ ○、R6 午後 問5 エ ○)
- 終局判決には控訴できず、異議後の判決にも控訴できない(377条・380条。R6 午後 問5 オ ×)
- 仮執行宣言付きの少額訴訟の判決による強制執行には執行文が要らない(民事執行法25条ただし書。R4 午後 問7 イ ○)
- 訴額60万円以下の金銭請求で原告が選択し、同一簡裁で同一年の回数に制限があり、反訴はできず、証拠調べは即時に取り調べられる証拠に限る(368条・369条・371条)
- 認容判決で3年以内の支払猶予・分割払と訴え提起後の遅延損害金の免除を定められるが、元本の免除はできない(375条)

