抵当権と賃借権(395条の明渡猶予・387条の同意の登記による対抗)ていとうけんとちんしゃくけん
抵当権と賃借権とは、同じ不動産の上で対抗要件の先後によって優劣が決まる二つの権利のことです。抵当権設定登記に後れる賃借権は競売で効力を失いますが、抵当権者全員の同意の登記があれば対抗でき(387条)、建物の賃借人には買受けから6か月の引渡しの猶予があります(395条)。
抵当権の付いたマンションを借りて住んでいたところ、大家さんが借金を返せず競売になったとします。抵当権の登記の方が先なら、賃借人は買った人に借家権を主張できず、出て行かなければなりません。とはいえ、明日すぐ出て行けというのは酷なので、民法は建物の賃借人に6か月の引越し期間を与えています。また、銀行がこの賃貸借は残してよいと考えるなら、全員で同意して登記をすれば、競売の後も賃貸借を続けられる仕組みも用意しています。

抵当権設定登記の後に対抗要件を備えた賃借権は、登記をしていても競売による売却で効力を失い、買受人に対抗できません
抵当権と賃借権の優劣は対抗要件の先後で決まります。競売による売却で抵当権は消滅し、消滅する抵当権を持つ者に対抗できない権利の取得は売却で効力を失います(民事執行法59条1項・2項)。抵当権設定登記の後に賃貸借を結んで賃借権の登記をしても、買受人からの引渡請求を拒めません。賃借権を時効取得した場合も同じで、判例は、賃借権の対抗要件を備えないうちに抵当権設定登記がされたときは、その後に時効取得に必要な期間用益を続けても、競売で買い受けた者に時効取得した賃借権を対抗できないとしています(最判平成23年1月21日)。なお、平成15年の改正前は、抵当権に後れる短期の賃貸借も保護されていました(旧395条)が、この制度は廃止され、いまは次の二つの仕組みに置き換わっています。
387条で抵当権者に対抗するには、賃貸借の登記、先に登記した抵当権者全員の同意、その同意の登記の三つがそろう必要があります
387条1項は、登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができると定めています。同意だけでは足りず同意の登記が要ります。抵当権設定登記の後に登記をした土地の賃借権について、「Bが本件賃借権を本件抵当権に優先させる旨の同意をし,その同意の登記があるときは,Cは,抵当権の実行としての競売により甲土地を買い受けた者に対し,本件賃借権を対抗することができる」という肢(R2 問13 ウ)は正しいです。また、対象は「登記をした賃貸借」なので、建物の引渡しで対抗要件を備えただけの建物賃貸借は、同意と同意の登記があってもこの規定で対抗することはできません。抵当権者が同意をするには、転抵当権者など同意で不利益を受ける者の承諾が必要です(387条2項)。

抵当権者に対抗できない建物の賃借人も、競売手続の開始前から使用していれば、買受けの時から6か月は建物の引渡しを猶予されますが、使用の対価は支払わなければなりません
395条1項は、抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者で、競売手続の開始前から使用又は収益をする者などは、その建物の競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しないと定めています。「抵当権の設定の登記後に締結された賃貸借により競売手続の開始前から抵当権の目的である建物の使用収益をする賃借人は,当該抵当権が実行されて当該建物が競落された場合は,買受人に対し,当該建物を直ちに引き渡さなければならない」という肢(R3 問13 ア)は誤りです。猶予の対象は建物に限られ、土地には適用されないので、抵当権に後れる土地の賃借人について「本件抵当権が実行されて甲土地が競売されたときであっても,その競売における買受人の買受けの時から 6 か月を経過するまでは,Cは,甲土地を買受人に明け渡すことを要しない」という肢(R2 問13 オ)は誤りです。猶予は賃借権を認めるものではないので、猶予の期間の使用の対価は買受人に支払う必要があります。395条2項は、買受人が相当の期間を定めて1か月分以上の対価の支払を催告し、その期間内に支払がないときは猶予が受けられなくなると定めています。
- 抵当権設定登記より前に対抗要件を備えた賃借権買受人に対抗できます
- 抵当権設定登記の後に登記した賃借権売却で効力を失い、買受人に対抗できません(民事執行法59条2項)
- 387条の同意の登記登記をした賃貸借であること、先に登記した抵当権者全員の同意、同意の登記の三つが要ります
- 395条の明渡猶予建物に限られ、競売手続の開始前からの使用などが要件で、買受けの時から6か月です
- 猶予の期間の対価買受人に支払います。1か月分以上の催告に応じなければ猶予を失います(395条2項)
民法 第387条(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)
登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。
抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。
民法 第395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。
試験ではこう問われる
- 抵当権設定登記の後に登記した賃借権は、競売による売却で効力を失い、買受人の引渡請求を拒めない(民事執行法59条2項)
- 賃借権の対抗要件を備えないうちに抵当権設定登記がされれば、その後に賃借権を時効取得しても買受人に対抗できない(最判平成23年1月21日)
- 登記をした賃借権は、先に登記した抵当権者全員の同意とその同意の登記があれば、競売の買受人に対抗できる(387条1項。R2 問13 ウ ○)
- 387条の対象は登記をした賃貸借で、建物の引渡しで対抗要件を備えただけの賃貸借は含まれない
- 同意の登記をした賃借権の賃料を減額する変更の登記では、先順位抵当権者は登記上の利害関係を有する第三者に当たる(R8 午後 問19 ア ○)
- 抵当権者に対抗できない建物の賃借人でも、競売手続の開始前から使用していれば、買受けの時から6か月は引渡しを猶予される(395条1項。R3 問13 ア ×)
- 明渡猶予は建物に限られ、土地の賃借人には適用されない(R2 問13 オ ×)
- 猶予の期間の使用の対価は支払う必要があり、1か月分以上の催告に応じなければ猶予を失う(395条2項)

