抵当権の効力の及ぶ範囲(370条・371条・付加一体物・従物・従たる権利・果実・分離物)ていとうけんのこうりょくのおよぶはんい
抵当権の効力の及ぶ範囲とは、抵当権が抵当不動産のほかにどの物・権利・果実に及ぶかの問題です。抵当権は、抵当地の上の建物を除き、抵当不動産に付加して一体となっている物に及び(370条)、被担保債権の不履行の後に生じた果実にも及びます(371条)。
庭付きの家に抵当権を付けたとき、競売で売れるのは建物だけでなく、壁紙や庭木、庭の石灯籠まで含めた一まとまりの価値です。借地の上の家なら、敷地を使う権利がなければ家の価値はほとんどありません。抵当権は不動産の交換価値をつかむ権利なので、その価値を支えている物や権利にまで効力が及びます。他方で、土地と建物は別の不動産ですし、賃借人が持ち込んだ家具のような他人の物まで巻き込むことはできません。

抵当権は抵当不動産に付加して一体となっている物に及びますが、土地の抵当権は地上の建物には及ばず、特約でも及ぼせません
370条本文は、抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶと定めています。壁紙のように建物に付合した物や、土地に植えられた立木は付加一体物です。土地に抵当権を設定した後に植えた立木にも、付加の時期を問わず抵当権の効力が及びます(大判大正14年10月26日)。建物に持ち込んで保管しているだけの宝石は、建物と一体になっていないので付加一体物に当たりません。土地と建物は別個の不動産なので、土地の抵当権は地上の建物に及びません。370条ただし書が許す設定行為の別段の定めは付加一体物に効力を及ぼさない定めであって、建物に土地の抵当権を及ぼす定めはできません。建物にも担保を取りたいなら、建物にも抵当権を設定することになります。
抵当権設定時に存在した従物にも効力が及びますが、他人の所有物は従物にならず、抵当権も及びません
物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物を附属させたとき、その附属させた物を従物といい、従物は主物の処分に従います(87条)。判例は、宅地に設定された抵当権の効力は、設定当時に宅地に備え付けられていた石灯籠や取り外しのできる庭石などの従物にも及ぶとしています(最判昭和44年3月28日)。ガソリンスタンドの店舗用建物に設定された抵当権も、設定当時に存在した地下タンクなどの従物に及び、競売で建物を取得した者は地下タンクの所有権も取得します(最判平成2年4月19日)。従物であるには主物と同じ所有者に属することが必要なので(大判昭和10年2月20日)、賃借人が建物に持ち込んだ畳や取り外しのできるエアコンには、建物の抵当権は及びません。従物の意義は主物と従物の語で扱います。

借地上の建物の抵当権は敷地の賃借権にも及びますが、競売の買受人は賃貸人の承諾か裁判所の許可がなければ賃借権を賃貸人に対抗できません
判例は、建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、建物所有権に付随し、これと一体となって一つの財産的価値を形成しているから、建物に抵当権が設定されたときは、敷地の賃借権も原則として抵当権の効力の及ぶ目的物に含まれるとしています(最判昭和40年5月4日)。賃貸人の承諾の有無で決まるのではないので、「土地の賃借人が当該土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、その抵当権の効力は、当該土地の賃貸人の承諾がない限り、当該土地の賃借権に及ばない」という肢(R6 問13 イ)は誤りです。借地上の建物を譲渡担保に供した場合も同じ考え方がとられ、「土地の賃借人が、借地上に所有する建物に譲渡担保権を設定した場合には、その建物のみを担保の目的に供したことが明らかであるなど特別の事情がない限り、譲渡担保権の効力は、その土地の賃借権にも及ぶ」という肢(R8 問15 ウ)は正しいです。もっとも、賃借権の譲渡には賃貸人の承諾が要る(612条1項)ので、競売で建物と賃借権を取得した買受人も、賃貸人の承諾又はこれに代わる裁判所の許可(借地借家法20条)がなければ、賃借権を賃貸人に対抗できません。抵当権の効力が賃借権に及んでいるので、土地の賃貸人と賃借人が賃貸借を合意解除しても、判例は398条を類推して、合意解除を抵当権者に対抗できないとしています(大判大正14年7月18日)。建物の抵当権の設定後に敷地の地上権を放棄した場合も、同じ趣旨で放棄を抵当権者と競売の買受人に対抗できません。
抵当権は、被担保債権について不履行があった後に生じた果実に及びます
抵当権は設定者に目的物の使用収益を任せる担保なので、原則として果実には及びません。しかし371条は、抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶと定めています。果実には賃料のような法定果実も含まれます。賃料への物上代位も不履行の後でなければできず、「建物の抵当権者による当該建物の賃料請求権に対する物上代位権の行使は,被担保債権について債務不履行がなくても,することができる」という肢(R3 問13 ウ)は誤りです。もっとも、抵当権者が果実から回収するには物上代位や担保不動産収益執行の手続をとる必要があり、それまでは所有者が果実を収取しても不当利得にはなりません。賃料への物上代位は抵当権に基づく物上代位の語で扱います。
建物が崩壊して動産になれば抵当権は消滅し、2棟が合体すれば持分の上に存続し、付加一体物が分離して搬出されれば第三者に対抗できなくなります
抵当建物が天災で崩壊して木材になると、不動産としての性質を失うので、判例は抵当権が消滅するとしています(大判大正5年6月28日)。互いに主従の関係にない甲・乙2棟の建物が工事で1棟の丙建物になった場合、判例は、甲・乙を目的とする抵当権は消滅せず、丙建物のうち甲建物又は乙建物の価格の割合に応じた持分を目的として存続するとしています(最判平成6年1月25日)。「抵当権が設定されている甲建物と抵当権が設定されていない乙建物がその間の隔壁を除去する工事により一棟の建物となった場合において、甲建物と乙建物が互いに主従の関係になかったときは、甲建物に設定されていた抵当権は消滅する」という肢(R6 問13 ア)は誤りです。山林の立木が伐採されるなど付加一体物が分離した場合も、抵当権の効力は分離物に及びますが、登記で公示されているのは不動産の上の物なので、分離物が搬出されると、その譲受人などの177条の第三者には効力を対抗できないと考えられています。設定者自身が搬出した場合には、判例は工場抵当の事案で、抵当権者は元の場所への返還を求められるとしています。
民法 第370条(抵当権の効力の及ぶ範囲)
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第四百二十四条第三項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。
民法 第371条抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
試験ではこう問われる
- 抵当権は付加一体物に及び、設定後に植えた立木にも及ぶが、建物に持ち込んだだけの宝石には及ばない(370条)
- 土地の抵当権は地上の建物に及ばず、設定行為の別段の定めでも及ぼせない(370条)
- 設定時に存在した従物(石灯籠・庭石・地下タンク)に及ぶが、賃借人所有の畳・エアコンは従物でなく、抵当権は及ばない
- 借地上建物の抵当権は、賃貸人の承諾がなくても敷地の賃借権に及び(最判昭和40年5月4日。R6 問13 イ ×)、借地上建物の譲渡担保権も特別の事情がない限り土地の賃借権に及ぶ(R8 問15 ウ ○)
- 買受人は賃貸人の承諾又は裁判所の許可がなければ賃借権を賃貸人に対抗できず、借地契約の合意解除や地上権の放棄は398条の類推で抵当権者に対抗できない
- 抵当権は被担保債権の不履行の後に生じた果実に及び、不履行がなければ賃料に物上代位できない(371条。R3 問13 ウ ×)
- 付加一体物に効力を及ぼさない別段の定めは、抵当権の登記にも不動産質権の登記にも登記事項になる(不動産登記法88条1項4号・95条1項7号。R4 午後 問23 ア ×)
- 建物が崩壊して動産になれば抵当権は消滅するが、主従のない2棟が合体したときは価格割合の持分の上に存続する(最判平成6年1月25日。R6 問13 ア ×)

