抵当権の処分(376条・377条・転抵当・抵当権の譲渡と放棄・順位の譲渡と放棄・順位の変更)ていとうけんのしょぶん
抵当権の処分とは、抵当権者が、抵当権を他の債権の担保とすること(転抵当)と、同一の債務者に対する他の債権者の利益のために抵当権又はその順位を譲渡し又は放棄することです(376条1項)。各抵当権者の合意で順位そのものを入れ替える順位の変更(374条)とは区別されます。
第一順位の抵当権を持つ銀行が、その抵当権を自分の借金の担保に回したり、ほかの債権者に優先順位を譲ってあげたりすることがあります。抵当権者は、つかんでいる優先弁済の枠を一種の財産として動かせるわけです。ただし、動かしたことを知らない債務者が元の抵当権者に返済してしまうと、枠を譲り受けた人が困ります。そこで民法は、債務者への通知か債務者の承諾を対抗要件にし、債権譲渡と同じように扱っています。

抵当権の処分は、処分者と受益者の契約で効力を生じ、主たる債務者への通知又はその承諾があれば、保証人や抵当権設定者にも対抗できます
376条1項は、抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができると定めています。処分は処分者と受益者の契約で効力を生じ、債務者の承諾は要りません。377条1項は、467条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができないと定めています。通知の相手は主たる債務者だけでよく、それで保証人や抵当権設定者にも対抗できます。
主たる債務者が通知を受け又は承諾した後は、受益者の承諾を得ないでした弁済を受益者に対抗できません
377条2項は、主たる債務者が通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができないと定めています。転抵当では、原抵当権者が債務者から勝手に弁済を受けて原抵当権が消えると、転抵当権者の担保が失われるからです。物上保証人の土地の抵当権を転抵当に供した事例で、主たる債務者に通知していれば、物上保証人に通知せず承諾も得ていなくても、物上保証人は転抵当権者の同意なくした弁済を転抵当権者に対抗できません。処分の受益者が複数いるときは、受益者の順位は抵当権の登記にした付記の前後で決まります(376条2項)。付記で決まった転抵当権どうしの順位も変えることができ、「甲土地について、乙区 1 番でAを抵当権者とする抵当権の設定の登記がされ、乙区1 番付記 1 号でBを転抵当権者とする転抵当権の設定の登記がされ、乙区 1 番付記2 号でCを転抵当権者とする転抵当権の設定の登記がされている場合には、B及びCは、Bの転抵当権の順位及びCの転抵当権の順位を同順位とする変更の登記をすることができる」という肢(R7 午後 問24 イ)は正しいです。順位の譲渡を受けた者が登記をしないうちに、処分者が抵当権を別の者に譲渡して登記をしたときは、177条により登記を備えた者が優先し、その者が順位の譲受人に対抗できます。

順位の変更は各抵当権者の合意と利害関係人の承諾で順位そのものを入れ替え、登記をしなければ効力を生じません
374条1項は、抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができ、利害関係を有する者があるときはその承諾を得なければならないと定め、2項は、順位の変更はその登記をしなければ、その効力を生じないと定めています。順位の変更は関係するすべての抵当権者の間で順位を絶対的に入れ替えるので、登記は対抗要件ではなく効力発生要件とされています。順位の変更の登記は、順位を変更する抵当権の登記名義人が共同して申請します(不動産登記法89条1項)。1番A・2番B・3番Cの抵当権のうちCを第1順位、Aを第3順位とする場合は、BもCに後れることになるので順位を変更する抵当権者に当たり、「A及びCのみを申請人として順位の変更の登記を申請することができる」とする肢(R8 午後 問14 ウ)は誤りです。合意の後に利害関係人の承諾を得た場合について、「令和 2 年 4 月1 日合意を登記原因及びその日付として当該抵当権の順位の変更の登記を申請することができる」とする肢(R2 午後 問21 オ)も誤りです。これに対し、376条の順位の譲渡は処分者と受益者の間でだけ働く処分で、登記を効力発生要件とする規定はありません。
譲渡・放棄は処分者と受益者の間でだけ配当を組み替え、譲渡では受益者が優先し、放棄では債権額に応じて按分します
抵当権の譲渡と放棄は無担保の債権者のため、順位の譲渡と順位の放棄は後順位の抵当権者のためにする処分です。どれも処分者と受益者の間で、両者が本来受けるはずの配当額の合計を組み替えるだけで、処分に関わらない抵当権者の配当は変わりません。譲渡では受益者が先に取り、残りがあれば処分者が取ります。放棄では両者が同順位として扱われ、合計額を債権額に応じて按分します。順位の変更では変更後の順位に従ってそのまま配当します。例えば、甲土地の競売で2500万円を配当するとき、第一順位B(500万円)、第二順位C(1000万円)、第三順位D(2000万円)、無担保の債権者E(2000万円)がいると、処分がなければBに500万円、Cに1000万円、Dに1000万円で、処分をすると下の表のようになります。処分の効力が当事者の間に限られるので、受益者の債権が消えれば処分の効果も失われ、「抵当権者が同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権を放棄した場合において、当該他の債権者の債権が弁済により消滅したときは、その抵当権は、放棄がなかったのと同じ状態に戻る」という肢(R7 問15 ア)は正しいです。順位の譲渡又は放棄を受けた根抵当権者が根抵当権を譲渡したときは、譲受人がその利益を受け(398条の15)、「抵当権の順位の譲渡を受けた根抵当権者が、その根抵当権の譲渡をした場合には、その譲受人は、抵当権の順位の譲渡の利益を受ける」という肢(R6 問15 ウ)は正しいです。
- BがEに抵当権を譲渡Eに500万円、Bに0円、Cに1000万円、Dに1000万円です
- BがEのために抵当権を放棄BとEで500万円を1対4で分け、Bに100万円、Eに400万円です
- BがDに順位を譲渡BとDの合計1500万円をDが先に取り、Dに1500万円、Bに0円、Cに1000万円です
- BがDのために順位を放棄BとDの合計1500万円を1対4で分け、Bに300万円、Dに1200万円、Cに1000万円です
- 順位の変更(D・C・Bの順)Dに2000万円、Cに500万円、Bに0円です

民法 第376条(抵当権の処分)
抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。
前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。
民法 第377条(抵当権の処分の対抗要件)
前条の場合には、第四百六十七条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。
民法 第374条(抵当権の順位の変更)
抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。
試験ではこう問われる
- 抵当権の処分は処分者と受益者の契約で効力を生じ、債務者の承諾は要らない(376条1項)
- 処分の対抗要件は主たる債務者への通知又はその承諾で、これで保証人・抵当権設定者にも対抗でき、その後に受益者の承諾なくした弁済は受益者に対抗できない(377条)
- 複数の受益者の順位は付記の前後によるが、付記1号・2号の転抵当権を同順位とする変更の登記はできる(376条2項。R7 午後 問24 イ ○)
- 順位の変更は登記をしなければ効力を生じず(374条2項)、順位を変更する抵当権の登記名義人の全員で申請するので、中間の順位の抵当権者も加わる(不動産登記法89条1項。R8 午後 問14 ウ ×)
- 利害関係人の承諾が合意より後に得られたときは、合意の日を順位の変更の登記原因の日付にできない(R2 午後 問21 オ ×)
- 順位の譲渡は登記が効力発生要件ではなく、順位の放棄では処分者と受益者が同順位として債権額に応じて按分する
- 抵当権の放棄は当事者の間でだけ働き、受益者の債権が弁済で消えれば放棄がなかった状態に戻る(R7 問15 ア ○)
- 順位の譲渡を受けた根抵当権が譲渡されれば、譲受人が順位の譲渡の利益を受ける(398条の15。R6 問15 ウ ○)

