推定の及ばない子・親子関係不存在確認と生殖補助医療すいていのおよばないこしんしかんけいふそんざいかくにんとせいしょくほじょいりょう
推定の及ばない子とは、772条の要件を形式的には満たすものの、妻が夫の子を懐胎することが外観上明白に不可能な時期に懐胎したため嫡出推定が及ばない子のことで、その父子関係は、嫡出否認の訴えではなく、確認の利益がある限り誰でもいつでも提起できる親子関係不存在確認の訴えで争います。
妻が産んだ子は夫の子と推定されますが、夫が刑務所に入っていた間に妊娠したように、夫の子であるはずがないことが外から見て明らかな場合まで推定を押し付けるのは不合理です。判例はこうした子を「推定の及ばない子」とし、期間の限られた嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認の訴えで争えるとしています。ただし、DNA鑑定で血のつながりがないと分かっただけでは推定は外れません。家庭の外からは見えない事情で、子の身分が後から揺らぐのを防ぐためです。

夫婦の性交渉がありえないことが外観上明白な時期に懐胎した子には嫡出推定が及ばず、親子関係不存在確認の訴えと血縁上の父への認知の訴えができます
判例は、離婚の届出に先立ち長期間事実上の離婚をして夫婦の実態が失われていた間に懐胎した子は、婚姻の解消から300日以内に生まれても772条の推定を受けず、嫡出否認を待つまでもなく血縁上の父に対して認知の請求ができるとしています(最判昭和44年5月29日)。その後の判例も、夫婦間の性交渉がありえないことが外観上明白な場合に推定が及ばないとしており(最判平成10年8月31日、最判平成12年3月14日)、夫が服役していた間の懐胎はその例です(外観説)。推定が及ばない子の父子関係は、嫡出否認の訴えではなく親子関係不存在確認の訴えで争い、その子は血縁上の父に対して認知の訴えを提起できます。反対に、推定が及んでいる子は、嫡出否認で推定が破られない限り他の男性の子とできないので、子の側から血縁上の父に認知の訴えを提起することはできません。
- 事実上の離婚で夫婦の実態がない間の懐胎(最判昭和44年5月29日)推定が及ばない。血縁上の父に認知の訴えができる
- 夫の服役中の懐胎(最判平成10年8月31日など)推定が及ばない。親子関係不存在確認で争える
- DNA鑑定で血縁がないことが明らか(最判平成26年7月17日)推定は排除されない
- 性別変更した夫の妻が懐胎(最決平成25年12月10日)夫の子と推定される
- 妻以外の女性が産んだ子を嫡出子として届出そもそも推定を受けない。親子関係不存在確認による

科学的証拠で生物学上の父子関係がないと明らかでも、夫婦の実態が失われていなければ嫡出推定は排除されません
判例は、夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、夫婦がすでに離婚して別居し、子が親権者の妻の下で監護されているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、嫡出推定が及ばなくなるとはいえず、親子関係不存在確認の訴えで父子関係の存否を争うことはできないとしています(最判平成26年7月17日)。現在は子にも嫡出否認の訴えの否認権があり(774条1項)、その手段で争うことになります。また判例は、性別の取扱いの変更の審判を受けて男性となった夫の妻が婚姻中に懐胎した子も、772条により夫の子と推定されるとしています(最決平成25年12月10日)。
妻以外の女性が産んだ子は嫡出推定を受けず、母子関係は分娩の事実で当然に生じます
772条の推定は妻が懐胎した子を前提とするので、夫が婚姻外でもうけた子や妻以外の女性が産んだ子を夫婦の嫡出子として届け出ても、その子は推定を受けません。夫が父子関係を争うには、嫡出否認の訴えではなく親子関係不存在確認の訴えによります。判例は、母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知をまたず、分娩の事実により当然発生するとしています(最判昭和37年4月27日)。母子関係は、母の認知によって生じるのではありません。母子関係の存否は第三者も確認の利益があれば親子関係存否確認の訴えで争え、母子の一方が死亡していても、生存している者だけを相手方として提起すれば足ります(最判昭和56年10月1日)。
生殖補助医療では懐胎し出産した女性が母で、夫の死亡後に保存精子で懐胎した子との法律上の父子関係は認められません
判例は、民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず、その子を懐胎・出産していない女性との間には、卵子を提供した場合でも母子関係を認められないとしています(最決平成19年3月23日)。また判例は、民法の実親子の法制は死亡した父と死後に懐胎された子との親子関係を想定しておらず、立法がない以上、死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の形成は認められないとして、死後認知の請求を否定しました(最判平成18年9月4日)。夫が生前に保存精子の使用に同意していても、死後認知によって夫と子との間に法律上の父子関係が認められることはありません。
最判昭和37年4月27日母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知を俟たず、分娩の事実により当然発生する
民法 第772条第1項妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
試験ではこう問われる
- 夫婦間の性交渉がありえないことが外観上明白な時期の懐胎(事実上の離婚・服役中)は推定が及ばない(最判昭和44年5月29日・最判平成10年8月31日)
- 推定の及ばない子は親子関係不存在確認で争い、血縁上の父に認知の訴えができる。推定が及んでいる子は、否認されない限り他の男性に認知の訴えはできない
- 科学的証拠で血縁がないことが明らかでも推定は排除されず、現在は子も嫡出否認の訴えで争う(最判平成26年7月17日・774条1項)
- 性別変更した夫の妻が懐胎した子も夫の子と推定される(最決平成25年12月10日)
- 妻以外の女性が産んだ子を嫡出子として届け出ても推定は受けず、父子関係は親子関係不存在確認で争う
- 母子関係は分娩の事実で生じ、母の認知は要らない。生殖補助医療でも懐胎し出産した女性が母となる(最判昭和37年4月27日・最決平成19年3月23日)
- 死後懐胎子と死亡した父との法律上の父子関係は認められない(最判平成18年9月4日)

