親権の内容と利益相反行為(820条〜832条)しんけんのないようとりえきそうはんこうい
親権の内容とは、親権を行う者が子の利益のために持つ監護教育の権利義務(820条〜823条)と財産管理・代表の権限(824条〜832条)のことで、利益相反行為とは、親権を行う父又は母とその子との利益、又は親権に服する数人の子相互の利益が相反する行為をいい、親権者は子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならず(826条)、親権者が自らした行為は無権代理になります。
親は未成年の子の世話や教育をし、子の財産を管理して、子に代わって契約をします。ただ、親と子の利益がぶつかる取引まで親に任せると、子が損をするおそれがあります。そこで、親が自分の借金のために子の家を担保に入れるような利益相反行為は、家庭裁判所が選んだ特別代理人が子を代理します。どの行為がこれに当たるかは、親の内心ではなく行為の外形で決めます。取引の相手が親の心の中まで知ることはできず、取引の安全を守る必要があるからです。

親権を行う者は子の利益のために監護教育をし、子は親権者の許可なく職業を営めず、財産管理は自己のためにするのと同一の注意で足ります
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負います(820条)。監護教育では子の人格を尊重し、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならず(821条)、懲戒権の規定は令和4年の改正で削除されました。子は親権を行う者の許可を得なければ職業を営むことができません(823条1項)。親権を行う者は子の財産を管理し、財産に関する法律行為について子を代表しますが、子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には本人の同意が要ります(824条)。財産の管理は自己のためにするのと同一の注意をもって行えば足り(827条)、善良な管理者の注意までは求められません。無償で子に財産を与える第三者が、親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは、その財産はその父又は母の管理に属しません(830条1項)。
- 820条子の利益のための監護教育の権利義務
- 821条人格の尊重、体罰等の禁止(懲戒権は削除)
- 823条職業を営むには親権者の許可
- 824条財産管理と代表。子の行為を目的とする債務には本人の同意
- 825条共同名義の行為は他方の意思に反しても有効。相手方が悪意なら別
- 827条自己のためにするのと同一の注意
- 830条無償で与えた第三者が管理させない意思を表示した財産は管理しない
父母の一方が共同名義でした行為は、他方の意思に反しても、相手方が悪意でなければ有効です
父母が共同して親権を行う場合に、父母の一方が共同の名義で子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられません(825条本文)。ただし相手方が悪意であったときは別です(同条ただし書)。「父母が共同して親権を行う場合に,父母の一方が,他方の意思に反して,父母共同の名義で子に代わってした法律行為は,この事情を相手方が知っていたときは,効力を生じない。」という肢(R3 問21 ウ)は正しいです。
利益相反行為に当たるかは、親権者の動機や意図ではなく、行為自体を外形的・客観的にみて判断します
親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権者は子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならず(826条1項)、数人の子の一人と他の子との利益が相反する行為も同じです(同条2項)。判例は、利益相反行為に当たるかは、親権者が子を代理してした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきで、親権者の動機や意図によって判定すべきでないとしています(最判昭和42年4月18日)。親権者が子の名義で金銭を借り受け、子の不動産に抵当権を設定する行為は、借入金を親権者自身の用途に充てる意図であっても、外形上は子の債務の担保なので利益相反行為に当たりません(最判昭和37年10月2日)。反対に、親権者自身の借入れの担保として子の不動産に抵当権を設定する行為は利益相反行為に当たり、親権者がした設定は無権代理になります。子の不動産を第三者の債務の担保に供する行為は利益相反行為に当たらず(最判昭和35年7月15日)、親権の濫用の問題として扱われるので(最判平成4年12月10日、代理権の濫用の語を参照)、「親権を行う母が,第三者の債務の担保として,子を代理して,その子が所有する不動産に抵当権を設定する行為は,特別代理人の選任を要する利益相反行為に当たる。」という肢(R3 問21 イ)は誤りです。親が代表取締役をする会社の債務を子に保証させる行為も、外形上は第三者の債務の保証なので利益相反行為になりません。
- 子の名義で借り入れ、子の不動産に抵当権設定(最判昭和37年10月2日)親の用途に充てる意図があっても当たらない
- 親自身の債務のために子の不動産に抵当権設定当たる
- 第三者の債務のために子の不動産を担保に(最判昭和35年7月15日)当たらない。代理権の濫用の問題
- 親が代表取締役をする会社の債務を子に保証させる当たらない
- 数人の子を代理して遺産分割協議(最判昭和49年7月22日)衡平を欠く意図がなく親が何も取得しなくても当たる
- 自ら相続放棄した後、又は同時に子全員を代理して放棄(最判昭和53年2月24日)当たらない

数人の子を代理する遺産分割協議は外形上利害が対立するので利益相反行為に当たりますが、自らの相続放棄と同時の子全員の相続放棄は当たりません
判例は、826条2項の利益相反行為とは行為の客観的性質上数人の子ら相互間に利害の対立を生ずるおそれのあるものをいい、親権者が共同相続人である数人の子を代理して遺産分割の協議をすることは、親権者に衡平を欠く意図がなく、代理行為の結果数人の子の間に利害の対立が現実化されていなくても利益相反行為に当たるとしています(最判昭和49年7月22日)。親権者が取得する財産のない遺産分割であっても、数人の子を代理して協議をすれば利益相反行為に当たります。他方、判例は、共同相続人の一人が他の共同相続人を後見している場合に、後見人がまず自らの相続の放棄をした後に、又は自らの放棄と同時に、被後見人全員を代理して相続の放棄をしたときは、その行為の客観的性質からみて利益相反行為にならないとしており(最判昭和53年2月24日)、親権者にも同じことがいえます。親権者が自ら相続の放棄をすると同時にその子全員を代理して相続の放棄をすることは利益相反行為に当たらず、その放棄は有効です。
一方の親権者とだけ利益が相反するときは特別代理人と他方の親権者が共同で代理し、特別代理人を選任せずにした行為は無権代理で子が成年後に追認できます
判例は、父母の一方とだけ子の利益が相反するときは、利益相反の関係にある親権者は特別代理人の選任を求め、特別代理人と利益相反の関係にない親権者とが共同して代理行為をすべきであるとしています(最判昭和35年2月25日)。利益相反の関係にない親権者が単独で代理するのではありません。親権者が特別代理人を選任せずに利益相反行為をしたときは無権代理行為になり(最判昭和46年4月20日)、子は成年に達した後に追認できます(大判昭和11年8月7日)。後見人にも826条が準用されますが、後見監督人があるときは後見監督人が被後見人を代表するので特別代理人は要らず(860条・851条4号)、「成年後見監督人は、成年後見人と成年被後見人との利益が相反する行為については、成年被後見人のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。」という肢(R4 問21 オ)は誤りです。保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については、保佐人は臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(876条の2第3項)。
民法 第826条第1項親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
民法 第826条第2項親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
民法 第827条(財産の管理における注意義務)
親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない。
民法 第860条(利益相反行為)
第八百二十六条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 財産管理は自己のためにするのと同一の注意で足り、子が職業を営むには親権者の許可が要る(827条・823条1項)
- 父母の一方が他方の意思に反して共同名義でした行為は、相手方が悪意なら効力を生じない(825条。R3 問21 ウ ○)
- 利益相反は行為の外形で判断し、子の名義の借入れと抵当権設定は親の用途に充てる意図でも当たらない(最判昭和42年4月18日・最判昭和37年10月2日)
- 第三者の債務の担保として子の不動産に抵当権を設定する行為は利益相反行為に当たらない(最判昭和35年7月15日。R3 問21 イ ×)
- 数人の子を代理する遺産分割協議は利益相反行為に当たり、自らの相続放棄と同時にする子全員の放棄は当たらない(最判昭和49年7月22日・最判昭和53年2月24日)
- 一方の親権者とだけ利益が相反するときは特別代理人と他方の親権者が共同で代理し、特別代理人なしの利益相反行為は無権代理になる(最判昭和35年2月25日)
- 後見監督人がいれば利益相反行為は後見監督人が代表し、特別代理人は要らない(860条・851条4号。R4 問21 オ ×)

