相隣関係(隣地使用・竹木の枝と根・境界標・水・境界線付近の建築・継続的給付の設備)そうりんかんけい
相隣関係とは、隣り合う土地の所有者どうしが、隣地の使用、竹木の枝と根、水の流れ、境界標と囲障、境界線付近の建築、電気・ガス・水道の設備の設置について、互いの所有権を調整し合う関係です(209条〜238条)。
家が隣とぴったり接していると、外壁を直すには隣の庭に足場を組むしかなく、隣の木の枝が伸びてくれば日当たりも悪くなります。土地はつながっているので、自分の土地だから何をしてもよい、隣の土地には一歩も入らせない、という考え方では暮らしが成り立ちません。民法は、隣り合う土地の所有者どうしが少しずつ譲り合うための決まりを置いています。令和3年の改正で、隣地の使用、越境した枝の切取り、電気・水道の設備の設置の決まりが大きく変わりました。

隣地使用は令和3年改正で権利になり、目的と範囲が限られ、住家に立ち入るには居住者の承諾が要り、損害を与えれば償金を払います
土地の所有者は、境界やその付近での障壁・建物その他の工作物の築造・収去・修繕、境界標の調査や境界に関する測量、越境した枝の切取りのため、必要な範囲内で隣地を使用することができます(209条1項)。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ立ち入ることはできません(同項ただし書)。「土地の所有者が境界付近における障壁の修繕をするために隣地を使用する必要がある場合であっても、隣地上の住家については、その居住者の承諾を得なければ、立ち入ることはできない」という肢(R6 問8 オ)は正しいです。住家以外の隣地の使用そのものには隣地の所有者や隣地使用者の承諾は要らないので、「土地の所有者は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者の承諾を得なければ、境界標の調査をするため必要な範囲内であっても、当該隣地を使用することができない」という肢(R8 問9 エ)は誤りです。使用の日時・場所・方法は隣地の所有者と隣地使用者のために損害が最も少ないものを選び、あらかじめ目的・日時・場所・方法を通知します(209条2項・3項)。隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求できます(209条4項)。改正前の209条は「隣地の使用を請求することができる」と定めていましたが、現在は請求ではなく使用する権利と定められています。住家への立入りに承諾が要ることと償金の結論は変わりません。
越境した竹木の枝は竹木の所有者に切除させるのが原則で、自ら切り取れるのは催告しても切除しないとき・所有者や所在がわからないとき・急迫の事情があるときに限られ、根は自ら切り取れます
土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に枝を切除させることができます(233条1項)。竹木は所有者の財産なので、まずは所有者に切らせるのが筋だからです。令和3年改正で、竹木の所有者に切除するよう催告したのに相当の期間内に切除しないとき、竹木の所有者を知ることができず又はその所在を知ることができないとき、急迫の事情があるときは、土地の所有者が自ら枝を切り取れるようになりました(233条3項)。「土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越える場合において、急迫の事情があるときは、その枝を切り取ることができる」という肢(R8 問9 ア)は正しいです。反対に、これらの事情がないのに無条件に自ら切除できるわけではありません。竹木が共有なら各共有者が枝を切り取れます(233条2項)。根が境界線を越えるときは、土地の所有者がその根を切り取れます(233条4項)。

電気・ガス・水道などの継続的給付を受けるため他の土地に設備を設置でき、他人の設備や工作物を使う者は利益を受ける割合で費用を負担します
令和3年改正で、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気・ガス・水道水の供給その他の継続的給付を受けることができないときは、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人の設備を使用できるようになりました(213条の2第1項)。他の土地の所有者の承諾は要らないので、「土地の所有者は、他の土地に設備を設置しなければ電気の供給を受けることができない場合であっても、当該他の土地の所有者の承諾を得なければ、当該設備を設置することはできない」という肢(R6 問8 エ)は誤りです。場所と方法は損害が最も少ないものを選び、あらかじめ通知し、設置した土地の損害には償金を払います(213条の2第2項・3項・5項)。他人の設備を使用する者は、利益を受ける割合に応じて設置・改築・修繕・維持の費用を負担します(213条の2第7項)。水についても、土地の所有者は、所有地の水を通過させるため高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用でき(221条1項)、その所有者の同意は要りません。「土地の所有者は、その所有地の水を通過させるに当たり、低地の所有者の承諾を得なければ、当該低地の所有者が設けた工作物を使用することはできない」という肢(R6 問8 イ)は誤りです。他人の工作物を使用する者は、利益を受ける割合に応じて工作物の設置及び保存の費用を分担します(221条2項)。

自然に流れてくる水は妨げられず、雨水を直接隣地に注ぐ工作物は設けられず、天災で低地の水流がふさがれば高地の所有者が自己の費用で工事できます
土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはなりません(214条)。一方で、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならず(218条)、やむを得ない事由があっても例外はありません。「土地の所有者は,直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根を設けてはならない」という肢(R2 問9 オ)は正しいです。水流が天災その他避けることのできない事変により低地において閉塞したときは、高地の所有者は、自己の費用で、水流の障害を除去するため必要な工事をすることができます(215条)。他の土地に設けられた排水などの工作物の破壊又は閉塞で自己の土地に損害が及ぶときは、その土地の所有者に修繕や障害の除去をさせることができます(216条)。水流地の所有者は、対岸の土地が他人の所有でも堰を対岸に付着させて設けることができますが、生じた損害には償金を払います(222条1項)。「水流地の所有者は、他人が所有する対岸の土地に付着させて堰を設けたときは、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない」という肢(R6 問8 ウ)は正しいです。
境界標は共同の費用で設けられ、設置と保存の費用は等しい割合で、測量の費用は土地の広狭に応じて負担し、境界線上の境界標は共有と推定されます
土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で境界標を設けることができます(223条)。「土地の所有者は,隣地の所有者と共同の費用で,境界標を設けることができる」という肢(R2 問9 ア)は正しいです。境界標の設置及び保存の費用は相隣者が等しい割合で負担し、測量の費用だけは土地の広狭に応じて分担します(224条)。「境界線を明らかにするための測量の費用は、相隣者が土地の広狭に応じて分担する」という肢(R8 問9 オ)は正しいです。境界線上に設けた境界標・囲障・障壁・溝・堀は相隣者の共有と推定されます(229条)。「境界線上に設けられた囲障は,相隣者の共有に属するものと推定される」という肢(R2 問9 イ)は正しいです。所有者の違う2棟の建物の間に空地があるときは、各所有者は他の所有者と共同の費用で境界に囲障を設けることができます(225条1項)。当事者間に協議が調わないときも、囲障は板塀又は竹垣その他これらに類する材料で高さ2メートルのものとして設けることができる(225条2項)ので、「設置する囲障の材料と高さについての協議が調わなかったときは、当該一方の所有者は、その境界に囲障を設けることができない」という肢(R8 問9 ウ)は誤りです。
建物は境界線から50センチメートル以上離して建て、違反しても建築の着手から1年を過ぎるか完成した後は損害賠償しか請求できません
建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければなりません(234条1項)。これに違反して建築しようとする者があるときは、隣地の所有者は建築を中止させ、又は変更させることができます(234条2項本文)。ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又は建物が完成した後は、損害賠償の請求しかできません(234条2項ただし書)。できあがった建物を壊させるのは損失が大きいからです。「隣地の所有者は、建築の着手時からの期間にかかわらず、建物が完成するまでの間は、その建築を中止させ、又は変更させることができる」という肢(R8 問9 イ)は誤りです。境界線から1メートル未満の距離で他人の宅地を見通せる窓や縁側には目隠しを付け(235条)、井戸などを掘るときも境界線から一定の距離を保ちます(237条)。これらと異なる慣習があればそれに従います(236条)。
- 隣地の使用(209条)改正前は「使用を請求できる」→現在は「使用できる」。住家は居住者の承諾が必要・償金
- 竹木の枝(233条)改正前は所有者に切除させるだけ→現在は催告後不切除・所有者や所在不明・急迫なら自ら切り取れる。根は従来どおり自ら切り取れる
- 継続的給付の設備(213条の2・213条の3)改正で新設。他の土地への設備設置・他人の設備の使用。分割で生じた土地は他の分割者の土地のみ
- 費用の割合境界標の設置・保存=等分、測量=広狭に応じる、囲障=共同の費用で等分、他人の排水工作物=利益の割合で設置と保存の費用
民法 第209条第1項土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り
民法 第233条第1項土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
民法 第233条第3項第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
民法 第224条(境界標の設置及び保存の費用)
境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。
民法 第234条第2項前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。
試験ではこう問われる
- 境界標の調査など209条1項の目的なら隣地の所有者や隣地使用者の承諾なく隣地を使用できるが、住家への立入りには居住者の承諾が要る(209条1項。R8 問9 エ ×・R6 問8 オ ○・R2 問9 ウ ×)
- 越境した枝は竹木の所有者に切除させるのが原則で、催告後に切除しないとき・所有者や所在が不明なとき・急迫の事情があるときは自ら切り取れる(233条1項・3項。R8 問9 ア ○)
- 他の土地に設備を設置しなければ電気の供給を受けられないときは、その土地の所有者の承諾なく必要な範囲で設置できる(213条の2第1項。R6 問8 エ ×)
- 所有地の水を通過させるため、低地の所有者が設けた工作物を承諾なく使用でき、利益の割合で設置と保存の費用を分担する(221条。R6 問8 イ ×)
- 直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根は設けられない(218条。R2 問9 オ ○)。対岸に付着させて堰を設けた水流地の所有者は損害に償金を払う(222条1項。R6 問8 ウ ○)
- 境界標は共同の費用で設け、測量の費用は土地の広狭に応じて分担し、境界線上の囲障は共有と推定される(223条・224条・229条。R2 問9 ア ○・R8 問9 オ ○・R2 問9 イ ○)。囲障は協議が調わなくても設けられる(225条2項。R8 問9 ウ ×)
- 50センチメートル規定に違反する建築も、着手から1年を経過するか完成した後は中止・変更を求められず、損害賠償だけになる(234条2項。R8 問9 イ ×)

