損害賠償の方法・賠償額の予定・過失相殺(417条〜422条)そんがいばいしょうのほうほうばいしょうがくのよていかしつそうさい
損害賠償の方法とは、債務不履行による損害をどのような形で賠償するかのことで、別段の意思表示がなければ金銭で定めます(417条)。賠償額の予定とは、当事者が債務不履行の場合の損害賠償の額をあらかじめ約束しておくことで、履行の請求や解除権の行使を妨げず、違約金は賠償額の予定と推定されます(420条)。
工事の請負契約に「完成が1日遅れるごとに10万円を支払う」と書いておけば、遅れたときに損害の額を一つずつ証明しなくて済みます。このように賠償の額を前もって決めておくのが賠償額の予定で、違約金という名前で書かれることもよくあります。民法は、賠償はお金で払うのが原則としつつ、当事者が別の方法を決めることも認めています。また、損害の発生に債権者の落ち度があれば賠償を減らし、賠償の結果として債権者が二重に得をしないように調整する仕組みも置いています。

損害賠償は別段の意思表示がなければ金銭で定めますが、当事者が合意すれば金銭以外の方法によることもできます
417条は、損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定めると定めています。金銭は損害の種類を問わず評価の物差しになり、支払も簡単だからです。ただし「別段の意思表示がないときは」とあるとおり、当事者が原状回復や代物の給付など金銭以外の方法を合意すれば、その合意は有効です。当事者間で別段の合意がされたときは、金銭の支払以外の方法によることもできます。当事者が金銭でないものを損害の賠償に充てると予定した場合にも、賠償額の予定の規定が準用されます(421条)。
当事者は賠償額を予定でき、裁判所が額を増減できないという改正前の規定は削られ、予定があっても債権者に過失があれば過失相殺で減額されます
420条1項は、当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができると定めています。損害の発生や額の立証の手間と争いを省くための合意です。改正前の同項後段には「裁判所は、その額を増減することができない」という文言がありましたが、実務では過大な予定を公序良俗違反などで制限していたので、改正で削られました。判例は、損害賠償の額を予定した場合でも、債務不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は損害賠償の責任及びその額を定めるにつき債権者の過失を考慮すべきであるとして、予定額を減額した原審の判断を是認しています(最判平成6年4月21日)。賠償額の予定があっても、過失相殺による減額はされ得ます。
賠償額の予定は履行の請求や解除権の行使を妨げず、違約金は違約罰ではなく賠償額の予定と推定されます
420条2項は、賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げないと定めています。予定額を払えば債務から解放されるという約束ではなく、債権者はなお履行を求めることも、債務不履行を理由に解除することもできます。履行に代わる損害賠償の額を予定していて債務者から予定額の支払の申出があっても、債権者は解除権を行使できます。同条3項は、違約金は、賠償額の予定と推定すると定めています。違約金には、損害の賠償に充てる賠償額の予定と、実損害の賠償とは別に制裁として払わせる違約罰がありますが、当事者の意思が明らかでないのに違約罰とすると債務者の負担が重すぎるからです。

債務不履行の過失相殺では、債権者に過失があれば裁判所は必ずそれを考慮し、損害賠償の責任自体を否定することもできます
418条は、債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定めると定めています。条文が「責任及びその額」としているので、債権者の過失が大きければ責任そのものを否定することもでき、「定める」としているので、債権者の過失があれば考慮しなければなりません。これに対し、不法行為の過失相殺(722条2項)は「損害賠償の額を定めることができる」と書かれ、額の減額にとどまり、考慮するかどうかも裁判所の裁量です。金銭債務の不履行にも418条は適用されます。
債権者が目的物の価額の全部の賠償を受けると債務者はその物や権利に当然に代位し、生命保険金は損益相殺として損害額から控除されません
422条は、債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位すると定めています(賠償者代位)。債権者が全額の賠償を受けながら物も手元に残せば二重に得をするからで、意思表示は要りません。また、損害を受けた者がその原因と同じ事実によって利益も得た場合には、その利益を損害額から差し引くことがあります(損益相殺)。しかし判例は、生命保険金はすでに払い込んだ保険料の対価の性質を持ち、事故とは関係なく支払われるべきものなので、損害賠償額から控除すべきではないとしています(最判昭和39年9月25日)。医師の過失による医療事故で死亡した被保険者の相続人が債務不履行で賠償を請求した場合も同じで、保険金額は損害額から控除されません。
民法 第417条(損害賠償の方法)
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
民法 第418条(過失相殺)
債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
民法 第420条第1項当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
民法 第420条第2項賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
民法 第420条第3項違約金は、賠償額の予定と推定する。
試験ではこう問われる
- 損害賠償は別段の意思表示がなければ金銭で定め、合意があれば金銭以外の方法でもよい(417条)
- 賠償額の予定があっても、債権者に過失があれば過失相殺で減額される(最判平成6年4月21日)
- 賠償額の予定は履行の請求や解除権の行使を妨げず、予定額の支払の申出があっても解除できる(420条2項)
- 違約金は賠償額の予定と推定され、違約罰と推定されるのではない(420条3項)
- 債務不履行の過失相殺は、債権者の過失があれば考慮しなければならず、責任自体を否定することもできる(418条。不法行為は額の減額で裁量)
- 価額全部の賠償を受ければ債務者は意思表示なしに当然に代位する(422条)
- 生命保険金は損益相殺として損害賠償額から控除されない(最判昭和39年9月25日)

