占有の帰属(上下主従・封緘物・共同占有)せんゆうのきぞく
占有の帰属とは、一つの財物に複数の人が関わっているときに、刑法上の占有が誰にあるかという問題です。占有が他人にあれば窃盗罪、行為者自身にあれば横領罪が問題になります。
コンビニの店員が商品を持ち帰った場合、商品を手に取れる立場にいたのは店員自身です。それでも成立するのは横領罪ではなく窃盗罪です。店の商品を支配しているのは店主であり、店員はその手足として扱っているにすぎないと評価されるからです。一つの物に複数の人が関わるとき、刑法上の占有が誰にあるかによって、他人の占有を奪う窃盗罪になるか、自己の占有する物を領得する横領罪になるかが決まります。

上下主従の関係があるときは上位者に占有があり、下位者が持ち出せば窃盗罪になります
店主と店員、雇主と雇人のように、物の保管に上下主従の関係がある場合、占有は上位者に属し、下位者は占有補助者にすぎないのが原則です。判例は、商店内の商品は雇主の占有に属し、雇人がこれを持ち出せば窃盗罪が成立するとしています。レジ係のアルバイトが、店長の短時間の外出中に商品棚からたばこを自分のバッグに入れて持ち出した事例では、窃盗罪が成立します。レジ係のアルバイトが担当するレジ内の売上金を持ち出した場合も、業務上横領罪ではありません。レジ内の売上金の占有は店長にあり、持ち出しは店長の占有を侵害する窃盗罪になります。旅館が貸与した浴衣を着たまま外出を装って立ち去った宿泊客に窃盗罪が成立するのも、浴衣の占有が旅館にあるからです。「Aは、旅館に宿泊した際、宿泊者が宿泊中に使用するために客室内に備え置かれた浴衣を着て外出し、そのまま立ち去った。この場合、Aに窃盗罪ではなく横領罪が成立する」という肢(R8 問26 イ)は誤りです。もっとも、下位者であっても、店の管理を任された支配人のように、上位者との間に高度の信頼関係があって財物の処分について一定の権限を委ねられている場合には、下位者に占有が認められ、領得すれば業務上横領罪になります。
封をした物や施錠した物を預かった場合、中身の占有は委託者に残ります
封筒に封をし、あるいはかばんに鍵を掛けて預けた場合、委託者は中身を自由に出し入れさせない意思を示しています。そこで判例は、封緘された物の全体については受託者が占有を取得するが、内容物については委託者の占有がなお及んでいると解しています。受託者が封を開いて中身を取り出せば、委託者の占有を侵害する窃盗罪が成立します。封をした現金入りの封筒を届けるよう頼まれた者が、途中で封を開いて一部を抜き取った場合には、抜き取った現金について窃盗罪が成立します。鍵の掛かった手提げ金庫を預かった者が金庫を破壊して中の宝石を取り出した事例でも窃盗罪が成立します。施錠されていたスーツケースを預かり、勝手に開錠して衣類を取り出した場合も同じです。衣類の占有は委託者にあるので、成立するのは横領罪ではなく窃盗罪です。封緘物を開封せずに全体ごと領得した場合は、全体の占有が受託者にあるので横領罪になります。この見解に対しては、中身だけ取れば十年以下の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)の窃盗罪、全体を取れば五年以下の拘禁刑の単純横領罪となって均衡を欠くという批判が向けられています。

短時間の見張りを頼まれただけでは、占有は預けた人に残ります
物を預かったといえるかどうかも、事実上の支配が誰にあるかで判断します。東京高判昭和59年10月30日は、新聞専売所の従業員が、同僚から約30分の買物の間、上蓋の止め金がかけられた集金かばんを預かってほしいと頼まれ、その間に中の現金を抜き取った事案を扱いました。判決は、預かりの趣旨は同僚が自由に出入りする場所で看視するものにすぎず、施錠はされていなくても在中物を取り出すことは許されていなかったとして、現金の占有はなお被害者にあったとし、窃盗罪の成立を認めました。鍵が掛かっていたかどうかだけで決まるのではなく、預けた時間の長さ、場所、中身に触れることが許されていたかから、支配が受託者に移ったかを判断していることが分かります。
対等な者が共同で占有する物を一人が持ち出せば、他の共同占有者の占有を侵害する窃盗罪になります
数人が対等の立場で物を共同して占有している場合、各人の占有はそれぞれ保護されます。共同占有者の一人が、他の共同占有者の同意なくその物を自分だけの占有に移せば、他の者の占有を侵害することになり、窃盗罪が成立します。「Aは、同居人のBと共有し、共同して占有していたテレビを、Bに無断で持ち出し、質に入れた。この場合、Aには窃盗罪は成立しない」という肢(R4 問26 オ)は誤りです。テレビにはBの占有も及んでいるので、窃盗罪が成立します。自分にも占有があるからといって、他人の占有を侵害していないことにはなりません。
- 店員・雇人が店の商品や売上金を持ち出す占有は店主にある。窃盗罪
- 管理を任され処分の権限を委ねられた者が領得するその者に占有がある。業務上横領罪
- 封緘物・施錠物の中身を抜き取る中身の占有は委託者にある。窃盗罪
- 封緘物を開封せず全体ごと領得する全体の占有は受託者にある。横領罪
- 共同占有者の一人が単独の占有に移す他の共同占有者の占有を侵害する。窃盗罪
刑法 第235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法 第252条第1項自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。
試験ではこう問われる
- 店員・雇人は占有補助者で、商品や売上金の占有は店主にある。持ち出せば窃盗罪が成立する
- 宿泊客が客室内に備え置かれた浴衣を着たまま立ち去れば、横領罪ではなく窃盗罪が成立する(R8 問26 イ ×)
- 封緘物は全体が受託者の占有、中身が委託者の占有に属する。封を開いて中身を抜き取れば窃盗罪が成立する
- 施錠されたスーツケースを預かった者が開錠して衣類を取り出せば、横領罪ではなく窃盗罪が成立する
- 短時間の看視を頼まれただけの集金かばんの中身は、預けた人の占有に属する(東京高判昭和59年10月30日)
- 同居人と共有し共同占有していたテレビを無断で持ち出して質に入れれば、窃盗罪が成立する(R4 問26 オ ×)

