既判力の基準時(時的限界)きはんりょくのきじゅんじ
既判力の基準時とは、確定判決がどの時点の権利関係を確定したかを示す時点で、事実審の口頭弁論の終結時をいいます。基準時より前に存在した事由は後訴で主張できなくなり(遮断効)、基準時より後に生じた事由は後訴や請求異議の訴えで主張できます。
権利関係は時間とともに変わります。貸したお金は返されれば消えますし、土地の持ち主も売買で入れ替わります。そのため判決がある権利を確定したといっても、いつの時点の権利なのかを決めておかなければなりません。当事者が事実を主張し証拠を出せるのは事実審の口頭弁論が終わるまでなので、判決はその時点の権利関係を確定したものと扱います。それより前の事情は前の訴訟で出すべきだったものとして封じられ、後の事情は自由に主張できます。

既判力の基準時は事実審の口頭弁論の終結時で、判決の言渡しや確定の時ではありません
当事者は事実審の口頭弁論の終結まで事実と証拠を提出でき、判決はそれまでの資料に基づいてされます。そのため確定判決の既判力は、事実審の口頭弁論の終結時の権利関係について生じます。これを既判力の基準時(標準時)といいます。電子判決書に口頭弁論の終結の日を記録させる(252条1項4号)のも、基準時を明らかにするためです。民事執行法35条2項が、確定判決についての請求異議の事由を「口頭弁論の終結後に生じたものに限る」と定めているのは、この基準時を前提にしています。控訴審が事実審として口頭弁論を開けば、基準時は控訴審の口頭弁論の終結時です。上告審は事実審ではないので基準時になりません。
基準時より後に生じた事由は既判力に遮断されず、口頭弁論の終結後判決確定前の弁済も請求異議の事由になります
基準時より後に生じた事由は前の訴訟で主張できなかったので、後訴で主張できます。口頭弁論が3月16日に終結し、4月20日に判決が言い渡され、5月9日に確定した場合に、5月1日にした弁済は基準時後の事由です。判決の確定前であっても関係がないので、請求異議の訴えで主張できます。所有権確認でXが勝訴した後、Yが基準時後にXから所有権を取得したと主張して自分の所有権の確認を求めることも、基準時後の事由なので既判力に反しません。前訴で棄却された所有権に基づく引渡請求を、判決確定後の代金不払による売買契約の解除を理由に再び求める場合も、解除の原因が基準時後に生じているので既判力に反しません。

基準時より前に存在した事由は、前の訴訟で知らなかったとしても、後訴で主張して確定した判断を争うことはできません
基準時より前に存在した事由は、前の訴訟で主張する機会があったので、後訴で主張して確定した判断を争うことは許されません。これを既判力の遮断効(失権効)といい、当事者がその事由を知っていたか、主張しなかったことに過失があったかは問いません。所有権確認で敗訴したXが、前訴の口頭弁論の終結前に所有者Zから相続で取得していたと主張して再び所有権確認を求めることは、基準時前の取得原因を持ち出すものなので遮断されます。前訴の口頭弁論の終結前に時効期間が経過していた貸金債務について、判決確定後に消滅時効を援用して債務不存在確認を求めることも、判例は許さないとしています(大判昭和14年3月29日)。援用の意思表示は後でも、時効の基礎となる事実は基準時前にそろっていたからです。取消権・相殺権・建物買取請求権のように基準時後に行使できる形成権が遮断されるかは、権利ごとに判例の結論が分かれるので「基準時前の形成権と遮断効」で扱います。
- 基準時後の弁済・免除遮断されません。請求異議の事由になります(民事執行法35条2項)
- 基準時後の所有権の取得遮断されません
- 基準時後の債務不履行による解除遮断されません
- 基準時前の相続による取得遮断されます
- 基準時前に時効期間が経過した消滅時効の援用遮断されます(大判昭和14年3月29日)
- 基準時後の事情の変更で認容額が不相当になった場合「基準時後の事情変更」で扱います
民事執行法35条2項確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
試験ではこう問われる
- 既判力の基準時は事実審の口頭弁論の終結時であり、判決の言渡しや確定の時ではない(民事執行法35条2項参照)
- これに対し、裁判所の管轄は訴えの提起の時を標準として定める(15条。R5 午後 問1 イ ×)
- 建物所有権確認の敗訴者が、基準時前に建物を第三者に譲渡していたと後訴で主張して所有者でないと争うことは許されない(H29 午後 問4 ア ×・出題当時)
- 口頭弁論の終結後判決確定前の弁済は基準時後の事由で、請求異議の事由になる
- 基準時後の所有権の取得や債務不履行による解除は既判力に遮断されない
- 基準時前の相続による取得や、基準時前に時効期間が経過した債務の時効の援用は遮断される(大判昭和14年3月29日)

