財産開示手続ざいさんかいじてつづき
財産開示手続とは、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者又は一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者の申立てにより、執行裁判所が債務者を財産開示期日に呼び出し、債務者に自己の財産について陳述させる手続です(197条〜199条)。配当等の手続で完全な弁済を得られなかったとき、又は知れている財産に対する強制執行等を実施しても完全な弁済を得られないことの疎明があったときに実施されます(197条1項・2項)。
財産開示手続は、債権者が債務者の財産を知らないために強制執行ができないとき、債務者本人に財産を明らかにさせる手続です。管轄は、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所です(196条)。

民事執行法 第197条第1項執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てにより、債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。
一 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二 知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
申立ての要件は、配当手続での不満足に限られず、知れている財産で足りないことの疎明でも満たされます
執行裁判所は、強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において申立人が金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき(197条1項1号)、又は知れている財産に対する強制執行を実施しても申立人が完全な弁済を得られないことの疎明があったとき(同項2号)に、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければなりません。「財産開示手続の申立てが認められるのは,強制執行又は担保権の実行における配当等の手続において,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったことを疎明した場合に限られます」という答えの肢(R2 午後 問7 オ)は誤りです。債務者が申立ての日前3年以内に財産開示期日で財産について陳述しているときは、一部の財産を開示しなかったときなどを除き、実施決定はできません(197条3項)。実施決定は確定しなければ効力を生じません(同条6項)。
一般の先取特権者は、債務名義がなくても申し立てられます
197条2項は、債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者も、配当等の手続での不満足又は知れている財産に対する担保権の実行で完全な弁済を得られないことの疎明があるときは、財産開示手続を申し立てられると定めています。雇用関係に基づく給料債権を持つ労働者(民法306条2号)などが、この債権者に当たります。2026年4月1日からは、子の監護の費用の先取特権(民法306条3号、民法308条の2)も認められたので、養育費などの債権者は、債務名義がなくてもこの先取特権を証する文書で申し立てられます。「債務者の財産について一般の先取特権を有する債権者であっても、その被担保債権について執行力のある債務名義の正本を有しない場合には、当該債務者について、財産開示手続を申し立てることができない」という肢(R6 午後 問7 ア)は誤りです。
民事執行法 第197条第2項執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者の申立てにより、当該債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。
一 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該先取特権の被担保債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二 知れている財産に対する担保権の実行を実施しても、申立人が前号の被担保債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
令和元年改正で、仮執行宣言付判決や執行証書でも申し立てられるようになりました
令和元年改正(令和2年4月1日施行)前の197条1項は、申立てができる債務名義から、仮執行の宣言を付した判決(22条2号)、仮執行の宣言を付した損害賠償命令・届出債権支払命令・支払督促(3号の2から4号まで)、執行証書(5号)、確定判決と同一の効力を有する支払督促を除いていました。仮執行の宣言を付した判決を有する金銭債権の債権者は財産開示手続を申し立てることができないとした令和元年の肢は、出題当時の規定では正しいとされています。改正後の197条1項は「執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者」と定めるだけなので、現行法では仮執行の宣言を付した判決でも申し立てることができ、この肢の結論は逆になります。
財産開示期日は非公開で、記録の閲覧は一定の債権者などに限られます
開示義務者(債務者又はその法定代理人・代表者)は、財産開示期日に出頭し、債務者の財産について陳述しなければなりません(199条1項)。財産開示期日における手続は公開しません(同条6項)。財産開示事件の記録中財産開示期日に関する部分の閲覧などを請求できるのは、申立人、債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者、債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者、債務者又は開示義務者に限られます(201条)。申立人以外の債権者でも、執行力のある債務名義の正本を有していれば閲覧できます。「財産開示手続の申立人以外の者であっても、債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者は、当該財産開示手続に係る事件の記録中財産開示期日に関する部分の閲覧をすることができる」という肢(R6 午後 問7 イ)は正しい記述です。申立人と、閲覧により情報を得た債権者は、その情報を債権をその本旨に従って行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはならず(202条)、違反すると30万円以下の過料に処せられます(214条1項)。

民事執行法 第201条第1項財産開示事件の記録中財産開示期日に関する部分についての第十七条の規定による請求は、次に掲げる者に限り、することができる。
一 申立人
二 債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者
三 債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者
四 債務者又は開示義務者
令和元年改正で、不出頭や虚偽陳述への制裁は過料から刑事罰になりました
執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日に正当な理由なく出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者と、宣誓した開示義務者で正当な理由なく陳述をせず、又は虚偽の陳述をしたものは、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処せられます(213条1項5号・6号)。令和元年改正前は、これらは30万円以下の過料にとどまっていました(改正前206条1項)。改正の施行時の刑は懲役で、2025年6月1日から拘禁刑に改められています。
民事執行法 第213条第1項第5号執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者
試験ではこう問われる
- 一般の先取特権者は、債務名義がなくても財産開示手続を申し立てられる(197条2項。R6 午後 問7 ア ×)
- 申立人以外でも、執行力のある債務名義の正本を有する債権者は、財産開示期日に関する部分を閲覧できる(201条2号。R6 午後 問7 イ ○)
- 申立ての要件は配当手続での不満足に限られず、知れている財産で完全な弁済を得られないことの疎明でもよい(197条1項2号。R2 午後 問7 オ ×)
- 改正前は仮執行の宣言を付した判決では申し立てられなかった(改正前197条1項。R1 午後 問7 オ ○・出題当時)。現行法では申し立てられる(197条1項)
- 財産開示期日への不出頭や虚偽陳述は、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に当たる(213条1項5号・6号)
この用語が問われた肢
債務者の財産について一般の先取特権を有する債権者であっても、その被担保債権について執行力のある債務名義の正本を有しない場合には、当該債務者について、財産開示手続を申し立てることができない。
財産開示手続の申立人以外の者であっても、債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者は、当該財産開示手続に係る事件の記録中財産開示期日に関する部分の閲覧をすることができる。
【問】最後に,民事執行法上,確定判決を有する金銭債権の債権者に財産開示手続の申立てが認められるのはどのような場合ですか。 財産開示手続の申立てが認められるのは,強制執行又は担保権の実行における配当等の手続において,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったことを疎明した場合に限られます。
解説と関連先例は肢別演習で読めます。

