抵当権の消滅(396条・397条・混同・消除主義・目的物の滅失)ていとうけんのしょうめつ
抵当権の消滅とは、被担保債権の弁済などによる付従性での消滅のほか、目的物の滅失、競売による売却、混同、第三者による抵当不動産の時効取得(397条)、代価弁済・抵当権消滅請求によって抵当権がなくなることです。債務者と抵当権設定者に対しては、抵当権は被担保債権と同時でなければ時効で消滅しません(396条)。
借金を返し終えれば抵当権はもう要らないので消えます。抵当権は債権を担保するためにあるので、債権と運命をともにするのが原則です。ほかにも、家が燃えてなくなったとき、競売で売れたとき、抵当権者自身がその土地を買ったときなど、抵当権が消える場面はいくつもあります。ただ、借金を返していない債務者が、時間がたったからといって抵当権だけを消すことは許されず、民法はその点を特別に定めています。

債務者と抵当権設定者に対しては、抵当権は被担保債権と同時でなければ時効で消滅しません
396条は、抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しないと定めています。被担保債権が残っているのに、自ら抵当権を設定した者との関係で抵当権だけが時効で消えるのは不当だからです。「抵当権を実行することができる時から民法第166条第 2 項の消滅時効期間が経過したときは、抵当権設定者は、抵当権者に対し、時効による抵当権の消滅を主張することができる」という肢(R7 問15 エ)は誤りです。反対に、債務者・設定者以外の第三取得者との関係では、抵当権だけの時効消滅も認められます(大判昭和15年11月26日)。被担保債権の時効について、抵当権の登記が残っているだけでは債務の承認(152条)にはならないので、被担保債権の消滅時効は進行します。
抵当不動産を時効取得して抵当権が消えるのは債務者・設定者以外の者で、抵当権の存在を知っていても善意無過失の占有は妨げられません
397条は、債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅すると定めています。責任を負う債務者や設定者が時効取得を理由に抵当権を免れるのは不合理なので、債務者が抵当不動産を時効取得しても抵当権は消滅しません。162条2項の善意無過失は自分に所有権があると信じることを指すので、抵当権の存在を知っていても善意無過失の占有に当たります(最判昭和43年12月24日)。取得時効が完成した後、登記をしないうちに原所有者が第三者に抵当権を設定して登記した場合、占有者がその後さらに時効取得に必要な期間占有を続ければ、抵当権の存在を容認していたなど特段の事情がない限り、時効取得により抵当権は消滅します(最判平成24年3月16日)。「AがB所有の甲土地を占有し、取得時効が完成した後、BがCに対し甲土地につき抵当権の設定をしてその旨の登記をした場合において、Aがその抵当権の設定の事実を知らずにその登記後引き続き時効取得に必要な期間甲土地を占有し、その期間経過後に取得時効を援用したときは、Aは、Cに対し、抵当権の消滅を主張することができる」という肢(R5 問7 オ)は正しく、特段の事情の留保を付けた「Aが当該抵当権の存在を容認していたなどの特段の事情がない限り、Aは、甲土地の取得時効を援用し、Cに対し、当該抵当権の消滅を主張することができる」という肢(R7 問8 オ)も正しいです。

抵当権者が抵当不動産の所有権を取得しても、後順位抵当権者がいれば第一順位の抵当権は混同で消えませんが、第二順位の抵当権者が取得すれば消えます
179条1項は、同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は消滅するとし、ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときはこの限りでないと定めています。第一順位の抵当権者が土地を買い受けたとき、土地に第二順位の抵当権があれば、第一順位の抵当権を残さないと後順位の者が繰り上がって不当に得をするので、第一順位の抵当権は消滅しません。反対に、第二順位の抵当権者が土地を譲り受け又は相続しても、自分より劣後する者がいないので、その抵当権を残す意味はなく、混同で消滅します。「Aが、A所有の甲土地にBのために第一順位の抵当権を、Cのために第二順位の抵当権をそれぞれ設定し、その旨の登記をした場合において、Aが甲土地をCに売却したときは、第二順位の抵当権は、後順位の抵当権が設定されていない限り、混同によって消滅する」という肢(R8 問7 オ)は正しいです。債権者が債務者を単独で相続したときは、被担保債権が債権の混同(520条)で消えるので、付従性により抵当権も消滅します。後順位の抵当権があっても同じで、「Aの所有する甲土地に、Aに対する債権を被担保債権とするBの抵当権が設定され、その旨の登記がされた後に、甲土地にCの抵当権が設定され、その旨の登記がされた場合において、BがAを単独で相続したときは、Bの抵当権は消滅する」という肢(R4 問9 ウ)は正しいです。混同で消えた抵当権の登記を抹消するときは、抵当権者が登記義務者の立場にもなるので、「混同を原因として当該抵当権の設定の登記の抹消を申請するときは、申請人は、抵当権の設定の登記の際に通知された登記識別情報を提供しなければならない」という肢(R8 午後 問22 オ)は正しいです。
競売で売却されれば順位を問わず全部の抵当権が消え、目的物が滅失すれば故意でも消えますが、一部の弁済や担保の提供では消えません
不動産の上に存する抵当権は、売却により消滅します(民事執行法59条1項。担保不動産競売にも188条で準用されます)。これを消除主義といいます。第一順位の抵当権の実行で第一順位の抵当権者だけが配当を受けても第二順位の抵当権は消滅し、第二順位の抵当権の実行でも第一順位の抵当権は消滅します。一般債権者の申立てによる強制競売で売却されたときも抵当権は消滅し、差押えの登記前に登記された抵当権者は売却代金から配当を受けます(民事執行法87条1項4号)。そのため、「一般債権者が抵当不動産を差し押さえたときは,抵当権者は,第三者異議の訴えにより,その強制執行の不許を求めることができる」という肢(R3 問13 イ)は誤りです。目的物が滅失すれば抵当権は消え、設定者が故意に建物を焼失させたときも同じです(物上代位や抵当権侵害の問題は残ります)。抵当権には留置権の不可分性の規定(296条)が準用され(372条)、被担保債権の全部の弁済を受けるまで目的物の全部について権利を行使できるので、物上保証人が抵当不動産の価格に相当する額を弁済しても消滅しません。留置権の担保の供与による消滅請求(301条)は準用されていないので、設定者が相当の担保を供して抵当権の消滅を請求することはできません。地上権を抵当権の目的とした地上権者は、地上権を放棄しても抵当権者に対抗できません(398条)。
- 被担保債権の弁済・混同付従性により抵当権も消滅します
- 抵当権だけの時効消滅債務者・設定者に対してはできません(396条)。第三取得者に対してはできます
- 抵当不動産の時効取得債務者・設定者以外の者の時効取得で消滅します(397条)
- 抵当権者による所有権の取得後順位抵当権者がいる第一順位は消えず、第二順位は消えます(179条1項)
- 競売による売却順位を問わず全部の抵当権が消えます(民事執行法59条1項)
- 目的物の滅失故意によるものでも消えます
- 一部の弁済・担保の提供消えません(372条・296条。301条は準用されません)

民法 第396条(抵当権の消滅時効)
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
民法 第397条(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
民法 第179条第1項同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 債務者・設定者に対しては、抵当権は被担保債権と同時でなければ時効で消滅しない(396条。R7 問15 エ ×)が、第三取得者に対しては抵当権だけの時効消滅も認められる(大判昭和15年11月26日)
- 債務者・設定者が抵当不動産を時効取得しても抵当権は消えず(397条)、抵当権の存在を知っていても善意無過失の占有は妨げられない(最判昭和43年12月24日)
- 時効完成後に設定された抵当権は、占有者がさらに時効取得に必要な期間占有すれば、容認していたなど特段の事情がない限り消滅する(最判平成24年3月16日。R5 問7 オ ○、R7 問8 オ ○)
- 第二順位の抵当権者が所有権を取得すれば、後順位の抵当権がない限り混同で消える(179条1項。R8 問7 オ ○)が、後順位抵当権者がいる第一順位の抵当権は消えない
- 債権者が債務者を単独で相続すれば、被担保債権が混同で消え、抵当権も消滅する(R4 問9 ウ ○)
- 混同を原因とする抵当権の設定の登記の抹消では、抵当権の設定の登記の際に通知された登記識別情報を提供する(R8 午後 問22 オ ○)
- 競売による売却で、順位を問わず全部の抵当権が消滅し(民事執行法59条1項)、抵当権者は一般債権者の差押えに第三者異議の訴えをすることはできない(R3 問13 イ ×)
- 物上保証人が抵当不動産の価格相当額を弁済しても、被担保債権の全部の弁済がなければ抵当権は消えず、設定者は相当の担保を供して消滅を請求することもできない

