不法原因給付(708条)ふほうげんいんきゅうふ
不法原因給付とは、公序良俗に反するなど不法な原因のためにされた給付のことで、給付をした者はその返還を請求できませんが、不法な原因が受益者についてのみあるときは返還を請求できます(708条)。
愛人関係を続けてもらうために家を贈った人が、関係が終わってから家を返せと求めることがあります。贈与は公序良俗に反して無効なので、本来なら返還を求められるはずです。しかし、自分から不法なことをした人に裁判所が手を貸して取り戻させるのは筋が通りません。民法は、不法な原因のために給付をした者は返還を請求できないとしました。汚れた手で法の助けを求めることは許さないという考え方で、所有権に基づく返還請求もできなくなります。

不法な原因のために給付をした者は返還を請求できませんが、不法な原因が受益者についてのみあるときや受益者の不法性が著しく大きいときは請求できます
708条本文は、不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができないと定め、同条ただし書は、不法な原因が受益者についてのみ存したときはこの限りでないとしています。不法な原因が受益者についてのみ存した場合には、給付者は返還を請求できます。判例は、給付者にも多少の不法があっても、受益者の不法に比べて甚だ微弱なものであるときは、90条も708条も適用されず、給付者は返還を請求できるとしています(最判昭和29年8月31日)。給付者に不法な原因があっても、受益者により大きい不法な原因があるときは返還請求が認められることがあり、消費貸借の貸主の側に少しでも不法があれば借主の側の不法の大きさを問わず返還を請求できなくなるわけではありません。
不法とは強行法規違反にとどまらず倫理・道徳に反する醜悪なことで、当事者がその不法性を認識していることは要りません
判例は、708条にいう不法の原因のための給付とは、その原因となる行為が強行法規に違反した不適法なものであるだけでなく、さらにその社会で要求される倫理、道徳を無視した醜悪なものであることを必要とし、当時の社会生活と社会感情に照らして真に倫理、道徳に反する醜悪なものかで判断するとしています(最判昭和37年3月8日)。そのため、強行法規に違反する給付がすべて不法原因給付になるわけではなく、強行法規に違反してされた給付でも返還を請求できることがあります。また、判例は、給付の原因が客観的に不法であれば、当事者が不法であることを知っていたかを問わないとしているので、当事者が給付の不法性を認識していることやその可能性があることは要りません。
給付とは相手方に終局的な利益を与えることで、未登記建物は引渡しで足りますが、既登記建物は移転登記まで要り、抵当権の設定だけでは給付になりません
708条の給付は、相手方に終局的な利益を与えるものでなければなりません。引渡しだけで給付を認めると、給付を受けた側が残りの移転登記を裁判で求めることができてしまい、裁判所が不法な給付の実現に手を貸すことになるからです。判例は、不倫関係の維持を目的として未登記の建物を贈与し引き渡した場合は、その引渡しで贈与者の債務の履行が完了したといえるので給付に当たるとし(最大判昭和45年10月21日)、既登記の建物では、占有の移転だけでは足りず、所有権移転登記手続がされていることを要するとしています(最判昭和46年10月28日)。未登記建物を引き渡した贈与者は、不当利得に基づく返還を請求できません。これに対し、既登記建物を引き渡したが移転登記がされていない場合は、まだ給付がないので、贈与者は受贈者に建物の明渡しを請求でき、受贈者はこれを拒むことができません。大麻栽培のために土地を贈与して引き渡したが登記名義が贈与者に残っている場合も、贈与者の引渡請求は認められます。また、公序良俗に反する貸金の交付が不法原因給付に当たる場合でも、抵当権の設定は終局的な給付ではないので、抵当権設定者は抵当権設定登記の抹消を求めることができます(最判昭和40年12月17日)。

返還を請求できない給付者は所有権に基づく返還請求もできず、その反射として所有権は受益者に帰属しますが、給付後の返還の合意は有効です
判例は、不法原因給付をした贈与者は、不当利得に基づく返還請求ができないだけでなく、目的物の所有権が自分にあることを理由に返還を請求することも許されず、その反射的効果として目的物の所有権は受贈者に帰属するとしています(最大判昭和45年10月21日)。所有権に基づく請求を認めると、708条が返還請求を封じた趣旨が失われるからです。動産の贈与と引渡しが不法原因給付に当たる場合、贈与者は所有権に基づく動産の返還請求もできません。土地を不法な原因で譲渡し移転登記をした場合も、譲渡人は、土地の所有権に基づいて所有権移転登記の抹消を請求することはできません。他方、708条は受益者に給付を保持させることを積極的に認める制度ではなく、給付者への返還を拒めるようにするだけなので、判例は、給付を受けた者が任意に返還することも、給付後に不法原因契約を合意の上解除して給付を返還する特約をすることも許されるとしています(最判昭和28年1月22日)。給付後にされた返還の合意は有効で、給付者はその合意に基づいて返還を請求できます。なお、不法行為の被害者が加害者から受けた不法原因給付の利益を損益相殺で賠償額から差し引くことも、708条の趣旨に反して許されないとされています。
不法原因給付の要件と効果
- 不法: 強行法規違反にとどまらず倫理・道徳に反する醜悪なもの(最判昭和37年3月8日)。当事者の認識は要らない
- 給付: 終局的な利益の付与。未登記建物は引渡し(最大判昭和45年10月21日)、既登記建物は移転登記まで(最判昭和46年10月28日)、抵当権の設定だけでは給付でない(最判昭和40年12月17日)
- ただし書: 不法な原因が受益者についてのみあるときは返還請求できる。給付者の不法が受益者に比べて甚だ微弱なときも同じ(最判昭和29年8月31日)
- 効果: 不当利得返還請求も所有権に基づく返還請求もできず、所有権は受益者に帰属する(最大判昭和45年10月21日)
- 給付後の返還の合意: 有効で、合意に基づき返還を請求できる(最判昭和28年1月22日)
民法 第708条(不法原因給付)
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 不法な原因のために給付した者は返還を請求できないが、不法な原因が受益者についてのみあるとき、給付者の不法が甚だ微弱なときは請求できる(708条・最判昭和29年8月31日)
- 強行法規違反の給付がすべて不法原因給付になるわけではなく、当事者が不法性を認識していることは要らない(最判昭和37年3月8日)
- 未登記建物は引渡しで給付になるが、既登記建物は所有権移転登記まで要り、登記がなければ贈与者は明渡しを請求できる(最大判昭和45年10月21日・最判昭和46年10月28日)
- 不法原因給付の貸金のための抵当権は、設定だけでは給付でなく、設定登記の抹消を請求できる(最判昭和40年12月17日)
- 返還を請求できないときは所有権に基づく返還請求や移転登記の抹消請求もできず、所有権は受益者に帰属する(最大判昭和45年10月21日)
- 給付後の返還の合意は有効で、合意に基づいて返還を請求できる(最判昭和28年1月22日)

