委任者の義務(648条〜650条・報酬・費用・代弁済・損害賠償)いにんしゃのぎむ
委任者の義務とは、委任者が受任者に対して負う報酬・費用・損害についての義務です。報酬は特約がある場合に限られ後払いが原則ですが(648条)、費用の前払(649条)、必要な費用と利息の償還・代弁済・担保の供与(650条1項・2項)、受任者が過失なく受けた損害の賠償(650条3項)は、特約がなくても負います。
委任はもともと無償が原則なので、頼まれた人が報酬を受け取れるのは、報酬の約束をしたときだけです。そのかわり、頼んだ人は、仕事にかかる費用を前もって渡し、立て替えてもらった費用は利息を付けて返し、仕事のせいで頼まれた人が落ち度なく損をしたらその損を償います。他人のために働く人に経済的な負担を残さないための仕組みです。

受任者は特約がなければ報酬を請求できず、報酬は事務を履行した後に請求するのが原則です
受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができません(648条1項)。報酬を受けるべき場合でも、委任事務を履行した後でなければ請求できません(同条2項本文)。報酬は後払いなので、有償委任でも報酬の支払と事務の処理は同時履行の関係に立ちません。ただし、この後払いの定めは特約で変えられ、前払の特約があれば事務の履行前に報酬を請求できます。事務の履行で得られる成果に対して報酬を支払う約束で、成果が引渡しを要するときは、報酬は成果の引渡しと同時に支払います(648条の2第1項)。
履行の中途で終わったときは、受任者が自ら解除した場合も含めて、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できます
受任者は、委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき、又は委任が履行の中途で終了したときは、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できます(648条3項)。2号は終了の原因を問わないので、受任者の責めに帰することができない事由による中途終了も、受任者が651条で解除した場合も含みます。受任者が自ら解除したときも、既にした履行の割合に応じた報酬は請求できます。委任者の責めに帰すべき事由で履行できなくなったときは、536条2項により報酬全額を請求できます。成果に対する報酬の委任には、請負の634条が準用されます(648条の2第2項)。
委任者は費用を前払いし、受任者が支出した必要な費用は支出の日以後の利息を付けて償還します
委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければなりません(649条)。前払請求権は報酬の有無と関係がないので、「委任事務を処理するについて費用を要する場合には、報酬を支払う旨の合意がないときであっても、委任者は、受任者の請求により、その費用の前払をしなければならない」という肢(R8 問19 ウ)は正しいです。受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求できます(650条1項)。「受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用の償還を請求することができるが、支出の日以後におけるその利息の償還を請求することはできない」という肢(R5 問19 イ)は誤りです。償還は支出のつど請求でき、委任の終了を待つ必要はありません。必要かどうかは支出の時に善良な管理者の注意をもって判断するので、後から見て不要だった費用も償還を請求できます。
必要な債務は委任者に代わりに弁済させることができ、受任者が過失なく受けた損害は委任者の過失を問わず賠償されます
受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求でき、その債務が弁済期にないときは、相当の担保を供させることができます(650条2項)。判例は、この代弁済請求権は受任者の負担した債務を免れさせることを求める権利で、金銭の支払を求める権利ではないので、委任者がこれを受働債権として相殺することはできないとしました(最判昭和47年12月22日)。「受任者が第三者との間で委任事務を処理するのに必要と認められる金銭債務を負った場合において、受任者が委任者に対して自己に代わってその弁済をすることを請求したときは、委任者は、受任者に対して他の売買契約に基づき代金支払債権を有していても、受任者による当該請求に係る権利を受働債権とし、受任者に対する当該代金支払債権を自働債権として、相殺することができない」という肢(R5 問19 ウ)は正しいです。受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求できます(650条3項)。委任者の過失を要件にしない無過失責任なので、損害の発生が委任者の責めに帰すべき事由によるときに限られるわけではありません。費用償還を契約や制度ごとに並べた一覧は費用償還の一覧の語にあります。

- 報酬(648条1項・2項)特約がなければ請求できません。報酬は後払い
- 割合的報酬(648条3項)委任者の責めに帰することができない事由による不能・中途終了で、既にした履行の割合に応じて
- 成果報酬(648条の2)成果の引渡しと同時。634条を準用
- 費用の前払(649条)受任者の請求により前払
- 費用の償還(650条1項)必要と認められる費用と支出の日以後の利息
- 代弁済・担保(650条2項)必要な債務を代わりに弁済させ、弁済期前なら担保を供させます
- 損害の賠償(650条3項)受任者が過失なく受けた損害。委任者の無過失責任
民法 第648条第3項受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
二 委任が履行の中途で終了したとき。
民法 第649条(受任者による費用の前払請求)
委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。
民法 第650条第1項受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
民法 第650条第3項受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
試験ではこう問われる
- 受任者は、特約がなければ報酬を請求できず、報酬は事務を履行した後に請求するのが原則である(648条1項・2項)
- 委任が中途で終了したときは、受任者が自ら解除した場合も含めて、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる(648条3項)
- 報酬の合意がなくても、委任者は受任者の請求により費用を前払いしなければならない(649条。R8 問19 ウ ○)
- 受任者は、必要な費用とともに支出の日以後の利息の償還を請求できる(650条1項。R5 問19 イ ×)
- 代弁済請求権を受働債権として、委任者が相殺することはできない(650条2項、最判昭和47年12月22日。R5 問19 ウ ○)
- 受任者が過失なく受けた損害は、委任者の帰責事由を問わず賠償を請求できる(650条3項)

