地上権と土地賃借権の比較ちじょうけんととちちんしゃくけんのひかく
地上権とは他人の土地を工作物又は竹木の所有のために使用する物権で、土地賃借権とは賃貸借契約に基づいて土地を使用収益する債権です。同じように土地を使う権利でも、物権か債権かで登記請求権・譲渡・修繕・担保の扱いが分かれます。
他人の土地に家を建てるとき、地主と結ぶ契約が地上権の設定なのか土地の賃貸借なのかで、使う側の立場は大きく変わります。地上権は土地を直接支配する物権なので、地主の協力がなくても権利を売ったり担保にしたりできます。賃借権は地主に「使わせてください」と求める債権なので、地主との信頼関係に縛られる代わりに、地主に修繕を求めることができます。どちらも建物の所有が目的なら、借地借家法が同じように保護します。

地上権者は設定者に登記を請求できますが、土地賃借人は特約がなければ賃借権の登記を請求できません
地上権は不動産に関する物権なので、登記が対抗要件になり(177条)、物権を取得した地上権者は設定者に対して設定登記を請求できます。土地賃借権も登記をすれば第三者に対抗できます(605条)が、605条は登記をした場合の効力を定めたもので、賃貸人に登記に協力する義務を負わせるものではありません。判例は、特約がない限り、賃借人は賃貸人に賃借権の登記を請求できないとしています(大判大正10年7月11日)。この登記の難しさを補うのが、借地借家法の建物の登記による対抗力です。
土地所有者は地上権者のために土地を整える義務を負いませんが、賃貸人は使用及び収益に必要な修繕をする義務を負います
地上権者は自分で土地を支配して使うので、土地所有者は地上権者の使用を妨げない義務を負うだけで、土地を使用に適する状態にする義務は負いません。賃貸人は、賃借人に目的物を使用収益させる債務を負い、その内容として、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負います(606条1項本文)。賃借人の責めに帰すべき事由で修繕が必要になったときは、賃貸人は修繕義務を負いません(同項ただし書)。「賃貸人は,賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となったときでも,賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」という肢(R3 問19 ウ)は誤りです。

地上権は土地所有者の承諾なく譲渡・賃貸できますが、賃借権の譲渡・転貸には賃貸人の承諾か裁判所の許可が要ります
地上権には譲渡や賃貸に土地所有者の承諾を要する規定がなく、地上権者は自由に地上権を譲渡し、土地を賃貸できます。賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができません(612条1項)。そのため、敷地権が賃借権である区分建物を売るときは、賃借権の譲渡を許す旨の定めが登記されていなければ、賃貸人の承諾を証する情報を提供します。「敷地権が賃借権である敷地権付き区分建物について売買を原因とする所有権の移転の登記を申請する場合には、当該賃借権の設定の登記に賃借権の譲渡を許す旨の定めがないときであっても、当該賃貸借の賃貸人の承諾を証する情報の提供を要しない」という肢(R7 午後 問23 ア)は誤りです。土地の賃借権が借地権に当たるときは、賃貸人が承諾しなくても、裁判所が承諾に代わる許可を与える制度があります(借地借家法19条)。無断譲渡・転貸と解除の制限は、無断譲渡・転貸と信頼関係破壊の法理の語で扱います。
抵当権の目的になるのは地上権だけですが、時効取得はどちらもできます
369条2項は、地上権及び永小作権も抵当権の目的とすることができると定めています。賃借権を抵当権の目的とする規定はありません。「地上権は、抵当権の目的とすることができない」という肢(R4 問10 エ)は誤りです。所有権以外の財産権も、自己のためにする意思をもって平穏かつ公然と行使すれば、20年又は10年で時効取得できます(163条)。判例は、地上権を時効取得の対象とし(最判昭和46年11月26日)、土地賃借権についても、土地の継続的な用益という外形的事実があり、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときは時効取得を認めています(最判昭和43年10月8日、最判昭和62年6月5日)。地上権についても、「地上権の取得時効が成立するためには、土地の継続的な使用という外形的事実が存在することのほかに、その使用が地上権行使の意思に基づくものであることが客観的に表現されていることを要する」という肢(R4 問10 イ)は正しいです。賃借権の時効取得の要件は、所有権以外の財産権の取得時効の語で扱います。
建物所有目的ならどちらも借地権として登記された建物で対抗でき、有益費の償還の選択権はどちらも土地所有者の側にあります
借地借家法は、建物の所有を目的とする地上権と土地の賃借権をまとめて借地権とし(同法2条1号)、借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは第三者に対抗できるとしています(同法10条1項)。建物の登記は借地権者自身の名義でなければならず、同居の長男名義の登記では対抗できません(最大判昭和41年4月27日)。有益費については、賃借人が支出したとき、賃貸人は賃貸借の終了の時に196条2項に従って償還し(608条2項)、支出した金額と増価額のどちらを償還するかは回復者である賃貸人が選びます。地上権者には費用償還の規定がありませんが、196条2項によっても選択権は土地所有者の側にあります。
- 権利の性質地上権は物権、土地賃借権は債権です
- 登記請求権地上権者は有します。土地賃借人は特約がなければ有しません
- 土地を使用に適する状態にする義務土地所有者は負いません。賃貸人は修繕義務を負います(606条1項)
- 譲渡・賃貸(転貸)地上権は承諾不要です。賃借権は賃貸人の承諾(612条1項)か裁判所の許可(借地借家法19条)が要ります
- 抵当権の目的地上権はなります(369条2項)。賃借権はなりません
- 時効取得どちらもできます(163条)
- 建物所有目的の対抗力どちらも借地権として、登記された建物の所有で対抗できます(借地借家法10条1項)
- 存続期間地上権は約定に制限がありません。賃貸借は50年を超えられません(604条1項)が、借地権は借地借家法が定めます

民法 第265条(地上権の内容)
地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。
民法 第606条第1項賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
民法 第612条第1項賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
民法 第369条第2項地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
試験ではこう問われる
- 地上権者は設定登記を請求できるが、土地賃借人は特約がない限り賃借権の登記を請求できない(大判大正10年7月11日)
- 土地所有者は地上権者に土地を使用に適する状態にする義務を負わず、賃貸人も賃借人の責めに帰すべき事由で必要になった修繕の義務は負わない(606条1項ただし書。R3 問19 ウ ×)
- 地上権は承諾なく譲渡できる(R4 問10 オ ×)が、賃借権の譲渡には賃貸人の承諾が要り、敷地権が賃借権の区分建物の所有権の移転の登記では、譲渡を許す旨の定めの登記が無ければ賃貸人の承諾を証する情報が要る(612条1項。R7 午後 問23 ア ×)
- 抵当権の目的になるのは地上権で、賃借権はならない(369条2項。R4 問10 エ ×)
- 地上権も土地賃借権も時効取得でき、地上権の時効取得には使用が地上権行使の意思に基づくことが客観的に表現されていることを要する(163条。R4 問10 イ ○)
- 地上権は存続期間を「永久」とする設定の登記もできる(R2 午後 問20 イ ×)が、賃貸借の存続期間は50年を超えることができず、畑の賃借権の存続期間を70年とする登記は申請できない(604条1項。R2 午後 問20 オ ×)
- 建物所有目的の地上権と土地賃借権は、どちらも登記された建物の所有で第三者に対抗できる(借地借家法10条1項)

