特別裁判所の禁止と終審裁判の禁止(76条2項)とくべつさいばんしょのきんし
特別裁判所の禁止と終審裁判の禁止とは、通常裁判所の系列から独立した裁判機関を設けることができず(76条2項前段)、行政機関が終審として裁判を行うこともできない(同項後段)という原則です。司法権を最高裁判所を頂点とする一つの系列に統一し、法の適用の統一と裁判を受ける権利の保障を図る趣旨で、前審としてなら行政機関が裁断することも許されます。
学校で、ある部の生徒だけを裁く別の委員会があって、その決定に誰も異議を申し立てられないなら、公平な扱いは期待できません。明治憲法の時代には、行政事件を扱う行政裁判所や軍人を裁く軍法会議が通常の裁判所とは別にあり、通常の裁判所の手が届きませんでした。日本国憲法はこうした特別裁判所を禁じ、すべての裁判を最高裁判所を頂点とする一つの系列にまとめました。行政機関が先に判断するのはよいが、最後に決めるのは必ず裁判所だという仕組みです。

特別裁判所とは、通常裁判所の系列から独立した裁判機関をいいます
禁止の対象を定義から確認します。76条2項前段の「特別裁判所」とは、特別の事件について裁判するために、通常の裁判所の系列から独立して設けられる裁判機関をいいます。扱う事件が特殊であることそのものが禁止の理由ではありません。禁止されるのは、系列の外に独立した裁判機関を作ることです。法律で、通常裁判所の系列に属する下級裁判所として行政事件や労働事件を専門に扱う裁判所を設けても、違憲にはなりません。最高裁への上訴の道が開かれていれば、法の解釈の統一は保たれますから、専門的な裁判所を設けても76条2項前段には触れません。最大判昭和31年5月30日(特別裁判所)も、この理解に沿った判断をしています。明治憲法下では行政事件が行政裁判所の管轄とされ、通常裁判所の司法権が民事と刑事に限られていました。日本国憲法がこれを改めたことの帰結が、この禁止規定です。
- 禁止される特別裁判所明治憲法下の行政裁判所、軍法会議、皇室裁判所のように、通常裁判所の系列の外に置かれる裁判機関
- 禁止されない裁判所家庭裁判所、知的財産高等裁判所のように、最高裁判所を頂点とする系列に属する専門的な下級裁判所
- 憲法上の例外裁判官弾劾裁判所(64条)、議員の資格争訟の裁判(55条)
- 前審としての裁断行政機関が審査請求に対する裁決などを行うことは許される(76条2項後段の反対解釈)

弾劾裁判所は、憲法自身が認めた例外です
裁判官弾劾裁判所は、国会に設けられ、その裁判に対して最高裁に上訴することはできません。定義に当てはめれば特別裁判所にほかなりませんが、憲法64条が自ら設置を定めています。「国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける」という肢(R4 問3 エ)は正しく、弾劾裁判所は特別裁判所の禁止の憲法上の例外です。議員の資格争訟の裁判(55条)も同じく憲法上の例外です。「国会議員の資格に関する争訟については,憲法上,その議員が属する議院が裁判をする旨の規定があることから,裁判所の審判権は及ばない」という肢(R2 問3 オ)は正しいです。明文で認められた例外であるからこそ、その範囲を広げて読むことはできません。法律で新たに、判断が終局的となる裁判機関を系列の外に設けることは許されません。弾劾裁判所の裁判に最高裁への上訴の道を設けることもできないのは、この例外が憲法自身の選択だからです。
行政機関が前審として裁断することは許されます
76条2項後段が禁じているのは、行政機関が終審として裁判を行うことです。「行政機関が裁判所の前審として裁判を行う制度は、特別裁判所の設置を禁止する憲法に違反する」という肢(R6 問3 ウ)は誤りです。人事院の公平審査のように、行政機関が一次的な判断を行い、不服のある者が裁判所に出訴できる仕組みであれば、司法権は裁判所に留保されています。裁判所法3条2項も、行政機関が前審として審判することを妨げないと定めています。むしろ、専門的な事項について行政機関が先に判断することには、審理の効率という利点もあります。行政不服審査法に基づく裁決や、各種の行政審判も同じ位置づけです。前審であるかどうかは、名称ではなく、裁判所への出訴の道が開かれているかどうかで決まります。

事実認定に無条件で拘束されるとすることは許されません
前審としての裁断が許されるとしても、裁判所の審理が形だけのものになってはいけません。行政機関が前審として裁決をすることは許されても、裁決をした行政機関が適法に認定した事実が裁判所を無条件に拘束するという法律の規定を設けることは許されません。行政機関の認定した事実に裁判所が無条件に拘束されるとすれば、実質的に終審の裁判を行政機関に委ねたのと変わりません。他方で、実質的証拠の有無を裁判所が判断できる仕組みであれば、実質的証拠法則は合憲と解されています。電波法99条がその例です。専門的な機関が集めた証拠の評価を尊重しつつ、裁判所が最終的な統制を及ぼす余地を残すという設計です。行政機関の事実認定に裁判所がどこまで拘束されるかは、裁判所に判断の余地が残っているかで決まります。

裁判を受ける権利と、表裏の関係にあります
特別裁判所の禁止と終審裁判の禁止は、32条が保障する裁判を受ける権利と表裏の関係にあります。裁判を受ける権利は、法律の定める裁判所で裁判を受けることを保障するものであり、系列の外の機関に裁かれないことを含みます。この二つの条文を組み合わせると、新しい紛争処理機関を設ける法律の合憲性を論じる枠組みができます。すなわち、その機関の判断が終局的なものかどうか、裁判所への出訴の道が開かれているかどうか、出訴した場合に裁判所が実質的な審理をできるかどうか、という三つの問いです。いずれかが欠ければ、裁判を受ける権利の保障が形だけのものになります。
日本国憲法 第76条第2項特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
試験ではこう問われる
- 特別裁判所とは、特別の事件について裁判するために通常裁判所の系列から独立して設けられる裁判機関をいい、その設置は禁止される(76条2項前段)
- 最高裁判所を頂点とする系列に属する専門の下級裁判所は、特別裁判所に当たらない
- 弾劾裁判所(64条1項。R4 問3 エ ○)と議員の資格争訟の裁判(55条。R2 問3 オ ○)は、憲法自身が認めた例外である
- 行政機関は終審として裁判できないが、前審として裁判することはできる(76条2項後段。R6 問3 ウ ×)
- 行政機関の認定した事実に裁判所を無条件に拘束させることは許されないが、実質的証拠の有無を裁判所が判断できる実質的証拠法則は合憲と解されている

