裁判員制度さいばんいんせいど
裁判員制度とは、一定の重大な刑事事件について、国民から選ばれた裁判員が裁判官とともに合議体を構成し、事実の認定、法令の適用および刑の量定を行う制度です。判例は、憲法が一般的に国民の司法参加を許容しているとして、この制度を合憲としました。
ある日、裁判所から裁判員候補者に選ばれたという通知が届き、殺人事件の裁判で裁判官3人と一緒に法廷に座って、有罪か無罪か、刑をどうするかを決めることになります。法律の専門家でない国民が刑事裁判に加わることは、司法権は裁判所に属すると定めた憲法に反しないのか、裁判官の独立を害しないのか、国民に義務を課すことは意に反する苦役ではないのかが争われました。最高裁判所は、憲法は国民の司法参加を一般的に許しており、適正な裁判のための原則が守られている限り制度の設計は立法に委ねられているとして、合憲と判断しました。

憲法は、一般的に国民の司法参加を許容しています
76条1項が司法権は裁判所に属するとし、80条1項が下級裁判所の裁判官の任命について定めていることから、裁判官でない者が裁判体を構成することは許されないのではないかが問われました。最大判平成23年11月16日(裁判員制度の合憲性)は、統治の基本原理、刑事裁判の諸原則、制定の経緯、関連規定の文理を総合して、憲法が国民の司法参加を一般的に許容していると判断しました。国民主権の理念のもとでは国民が司法権の行使に関与することが直ちに排斥されるわけではなく、憲法制定当時に陪審法が存在していたことからも制定過程で国民参加の制度を否定する趣旨はうかがわれず、31条・32条・37条1項などが「裁判所」の裁判を保障する文言も裁判体が裁判官のみで構成されることを当然の前提としているとは読めない、というのがその理由です。80条1項が下級裁判所の裁判官の任命について定めていることも、裁判体の構成員をすべて裁判官に限る趣旨とまでは読めません。陪審制や参審制を採る国が少なくないことを踏まえ、陪審制とするか参審制とするかを含めて制度の選択を立法政策に委ねたと理解するのが、この判断の枠組みです。
刑事裁判の基本的な担い手として裁判官が想定されていることとは両立します
判例は、国民の司法参加を許容するとしながら、憲法が刑事裁判の基本的な担い手として裁判官を想定していること自体は認めています。判例は、刑事裁判の諸原則が厳格に遵守されるには高度の法的専門性が要求されることや、裁判官の職権行使の独立と身分保障の規定が周到に設けられていることから、憲法は刑事裁判の基本的な担い手として裁判官を想定しているとしつつ、裁判員制度を合憲としました。したがって、合憲性の判断は、国民が参加しても適正な刑事裁判を行うための諸原則が確保されているかにかかります。裁判官が合議体に加わること、法令の解釈と訴訟手続に関する判断は裁判官のみが行うこと、被告人に不利な判断には裁判官1人以上の賛成を要することが、その確保の具体的な現れです。国民の参加を認めるかどうかという入口の問題と、参加させるとしてどう設計するかという出口の問題を分けて考えます。判例も、この二つを順に検討する構成をとっています。入口を認めたうえで出口の設計を吟味するという順序は、他の制度の合憲性を論じるときにも応用できます。
- 合議体の構成原則として裁判官3人と裁判員6人。裁判員が関与するのは事実認定、法令の適用、量刑
- 評決裁判官と裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数による。被告人に不利な判断には裁判官1人以上の賛成が必要
- 対象事件死刑または無期の懲役・禁錮に当たる罪の事件など、一定の重大な刑事事件
- 辞退一定の事由がある場合には辞退が認められ、旅費・日当が支給される
評決制度は、76条3項に反しません
裁判員が加わる評決では、裁判官が自らの意見と異なる結論に従わざるを得ない場合が生じます。これが裁判官の職権の独立(76条3項)に反しないかが問われました。判例は、評決制度のもとで裁判官が自らの意見と異なる結論に従わざるを得ない場合があっても、それは憲法に適合する法律に拘束される結果であるから、76条3項違反との評価を受ける余地はないとしました。合議体で多数決により結論が決まることは裁判官だけの合議でも同じであり、憲法が国民の司法参加を許容している以上、合議体の構成員に裁判員が加わることも同項の予定するところだ、という理解です。76条3項が保障しているのは、裁判官が外部の圧力を受けずに自らの判断を形成することであって、その判断が常に結論になることまでは保障していません。

裁判員の職務は、18条の「苦役」に当たりません
裁判員として職務に従事することが、意に反する苦役に当たらないかも争われました。判例は、裁判員の職務が司法権の行使に対する国民の参加という点で参政権と同様の権限を国民に付与するものであり、これを苦役ということは必ずしも適切ではないとしたうえで、辞退に関し柔軟な制度が設けられ、旅費・日当・宿泊料の支給という経済的措置が講じられていることも考慮して、苦役に当たらないとしました。18条の「苦役」は、本人の意思に反して強制される労役を指しますが、公共的な性質をもつ義務のすべてがこれに当たるわけではありません。

裁判を受ける権利や公平な裁判所の要請とも両立します
被告人の側からは、32条の裁判を受ける権利や37条1項の公平な裁判所による裁判を受ける権利との関係が問題になります。判例は、裁判員制度のもとでも、裁判体が公平性と中立性を確保できる制度的な仕組みを備えているとして、これらの条文に反しないとしました。裁判員には守秘義務と公平誠実な職務遂行の義務が課され、不公平な裁判をするおそれのある者は選任から除かれます。被告人が裁判員制度による裁判を辞退できないことも、憲法が国民の司法参加を許容している以上、憲法上の問題を生じないと解されています。公平な裁判所とは、構成において偏りのない裁判所を意味しますから、構成員が裁判官だけであることを要求するものではありません。
裁判員の負担への配慮が、制度の合憲性を支えます
裁判員の職務は国民に一定の負担を課すものですから、その負担を軽くする仕組みが制度の合憲性を支えています。辞退が認められる事由が法律と政令で定められ、旅費や日当が支給され、審理の期間も限られています。守秘義務の範囲が広すぎると表現の自由との緊張が生じますし、負担が過大になれば苦役に当たらないという結論も揺らぎます。制度の合憲性は、参加を求めることそのものではなく、参加のさせ方の設計にかかっている、という見方ができます。判例が諸原則の確保という言い方をしているのも、同じ発想によるものです。
最大判平成23年11月16日(裁判員制度の合憲性)憲法が一般的に国民の司法参加を許容しており、これを採用する場合には、上記のような諸原則が確保されている限り、その内容を立法政策に委ねていると解されるのであって、裁判員法は、国民の司法参加と適正な刑事裁判を実現するための諸原則とを調和させる努力の下に制定されたものと評価することができる。
試験ではこう問われる
- 憲法は国民の司法参加を一般的に許容しており、適正な刑事裁判の諸原則が確保されている限り、その制度設計は立法政策に委ねられる(最大判平成23年11月16日)
- 憲法は刑事裁判の基本的な担い手として裁判官を想定しているが、そのことは裁判員制度と両立する
- 評決で裁判官が自らの意見と異なる結論に従う場合があっても、憲法に適合する法律に拘束される結果であり、76条3項に反しない
- 裁判員の職務は参政権と同様の権限を付与するもので、辞退制度や経済的措置もあり、18条の「苦役」に当たらない
- 裁判員制度は、32条の裁判を受ける権利や37条1項の公平な裁判所の要請にも反しない

