憲法の最高法規性と尊重擁護義務けんぽうのさいこうほうきせいとそんちょうようごぎむ
憲法の最高法規性とは、憲法が国法秩序において最も強い効力を持ち、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為が効力を持たないことをいいます(98条1項)。この形式的な効力の優位のほかに、基本的人権を保障する内容から導かれる実質的最高法規性があり、99条は公務員に憲法を尊重し擁護する義務を課しています。
会社では、定款に反する社内規則を作っても効力がありません。国でいえば、その定款に当たるのが憲法です。国会が作った法律でも、内閣が出した命令でも、憲法に反する部分は効力を持ちません。ただ、憲法が一番上に立つ理由は、改正手続が重くて形式上の順位が高いからだけではありません。人が生まれながらに持つ権利を国家権力から守るという中身を備えているからこそ、ほかの法とは質の違う法として扱われます。だから大臣や議員や裁判官には、この憲法を守る義務が課されています。

形式的最高法規性と実質的最高法規性は別の根拠から導かれます
98条1項は、憲法が国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は効力を有しないと定めます。憲法が硬性憲法として国法秩序で最も強い形式的効力を持つことを形式的最高法規性といいます。もっとも、硬性憲法であれば法律に優位するのは制度の仕組みから出てくることで、それだけでは憲法がほかの法規範と本質的にどこで違うのかを説明できません。これに対し、憲法の最高法規性は憲法規範の内容が他の法規範とは質的に異なることから導かれるという捉え方を、実質的最高法規性といいます。97条が基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」と位置付けているのは、この実質的最高法規性を根拠付けるものと見ることができます。したがって、最高法規性は形式的効力の順位だけの問題ではなく、憲法がいかなる基本価値を体現しているかと結び付いています。第10章に置かれた99条も、形式的優位性の実質的根拠を示す規定ではありません。99条は憲法保障の仕組みの一つであって、憲法がなぜ重んじられるべきかという理由を示す規定ではないからです。

98条1項の「国務に関するその他の行為」には立法・行政・司法の行為が入ります
98条1項が無効とするのは法律や命令に限られず、国務に関するその他の行為も含みます。もっとも、行為が憲法に反することと、その行為をした公務員が国家賠償法上違法と評価されることとは別です。判例は、立法内容の違憲性と国会議員の立法行為の違法性を区別したうえで、立法行為が国家賠償法上違法となるかどうかを審理判断しています(最判昭和60年11月21日)。「国会議員の立法行為が違法の評価を受けるか否かについて裁判所が審理判断することは許されない」という肢(R2 問3 エ)は誤りです。また、内閣は73条1号により法律を誠実に執行する義務を負いますから、違憲と解する法律が成立した場合でも、その執行を停止することはできません。国会が制定した法律には合憲の推定が働き、違憲の判断は裁判所が行いますから、内閣が自らの判断で執行を止めることはできません。

99条は公務員に義務を課すもので、国民は列挙されていません
99条は、天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員が憲法を尊重し擁護する義務を負うと定めます。列挙されているのは公権力を担う側であり、国民は入っていません。憲法が国家権力を制限する法である以上、義務の名あて人は公務員に限られます。義務の法的性格は倫理的・政治的なものと解され、違反に直接の法的制裁が結び付くわけではありません。裁判官については、98条1項と76条3項と99条から、事件に適用すべき法令が憲法に反すると判断すればその適用を排除する職責を負うと説明され、最高裁判所に限らず下級裁判所の裁判官も違憲審査の権限を有します。「違憲審査権は、最高裁判所のみならず下級裁判所も有する」という肢(R5 問2 オ)は正しいです(最大判昭和25年2月1日)。詳しくは憲法尊重擁護義務で扱います。
違憲審査をどの機関に委ねるかは最高法規性から当然には導かれません
最高法規性は、憲法に反する国家行為が効力を持たないという効力の序列を意味するにとどまり、その無効を誰がどの手続で確定するかまでは決めていません。合憲性の最終判断を議会に委ねる制度も、憲法の形式的優位性と矛盾するとはいえず、現に違憲審査を議会や憲法裁判所に委ねる国があります。同じ理由で、抽象的違憲審査制と付随的違憲審査制のどちらを採るかも、最高法規性だけからは決まりません。どちらを採るかは、司法機関と他の機関との間の権限の配分という制度設計の問題だからです。憲法改正規定と違憲審査制は、いずれも憲法の保障の方法として位置付けられますが、前者は憲法の連続性を維持するための手続、後者は合憲性統制の途という違いがあります。

条約と憲法の優劣は、98条2項と81条の読み方で分かれます
98条2項は、日本国が締結した条約及び確立された国際法規を誠実に遵守することを要求します。ここから条約が憲法に優位するという条約優位説が主張され、81条の違憲審査の対象に「条約」の文言がないことも、その根拠に挙げられます。通説は、96条の厳格な改正手続を経ずに条約で憲法を変更できるのは不合理であること、98条2項は条約の国内法的効力を定めたにすぎないことから、憲法優位説を採ります。憲法優位説からは、条約も違憲審査の対象になりえます。「条約は、国家間の合意であるという性質に照らし、裁判所による違憲審査権の対象とならない」という肢(R5 問2 ウ)は誤りです。
抵抗権や国家緊急権は、最高法規性と論理的に矛盾しません
抵抗権を認める見解も、憲法が最高法規であることと矛盾しません。抵抗権は、憲法の基本価値が公権力によって根底から破壊された場合に国民がこれを回復する最後の手段と説明され、むしろ実質的最高法規性を支える観念です。また、最高法規である憲法の中に国家緊急権を明文で規定することもありえます。緊急時に立憲的秩序を一時停止する権限を憲法自身が定める例は各国にあり、その場合の発動は憲法が定めた要件と手続に従う憲法の内側の作用になります。日本国憲法が明文を置いていないことと、置き得ないこととは別の問題です。
日本国憲法 第98条第1項この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
試験ではこう問われる
- 憲法の条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為は効力を有しない(98条1項)
- 違憲審査権は最高裁判所だけでなく下級裁判所も有する(最大判昭和25年2月1日。R5 問2 オ ○)
- 条約は国家間の合意であるという性質から違憲審査権の対象外となるわけではない(R5 問2 ウ ×)
- 最高裁判所がある法律を違憲無効と判断しても、その法律が直ちに効力を失うわけではない(R5 問2 イ ×)
- 国会議員の立法行為が国家賠償法上違法となるかは、裁判所が審理判断する(最判昭和60年11月21日。R2 問3 エ ×)
- 憲法尊重擁護義務を負うのは天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員で、国民は含まれない(99条)

