立憲的意味の憲法・硬性憲法りっけんてきいみのけんぽう・こうせいけんぽう
立憲的意味の憲法・硬性憲法とは、憲法を内容と改正手続という二つの物差しで分けたときの呼び名です。立憲的意味の憲法は国家権力を制限して国民の権利を保障するという思想に基づく近代以降の憲法で、国家の統治の基本を定めた固有の意味の憲法と対になり、硬性憲法は改正に法律の改正より加重された手続を要する憲法で、法律と同じ手続で改正できる軟性憲法と対になります。
学校で「憲法」といえば日本国憲法という一冊の法典を指しますが、法律の世界ではもっと広い使い方をします。国会法や公職選挙法のように国の仕組みの基本を決める法律も、内容から見れば憲法の仲間に入ります。逆に、権力を縛って国民の権利を守るという中身を備えたものだけを憲法と呼ぶ使い方もあります。どの意味で使っているかを分けておくのは、成文か不文か、近代以前か以後かといった別の物差しを混ぜると議論がかみ合わなくなるからです。

憲法という語は、内容による区別と存在形式による区別の二組で使い分けます
憲法という語は、二組の対で整理します。一つは内容による区別で、固有の意味の憲法と立憲的意味の憲法が対になります。もう一つは存在形式による区別で、形式的意味の憲法と実質的意味の憲法が対になります。二組は独立しており、固有の意味の憲法と立憲的意味の憲法の区別は憲法の内容に着目した区別で、憲法の存在形式とは無関係です。
- 固有の意味の憲法国家の統治の在り方を定めた基本法。国家であれば権力の組織や構造が定まっているから、全ての国家が持つ
- 立憲的意味の憲法権力を制限し権利を保障する思想に基づくもの。近代以降の憲法がこれに当たる
- 形式的意味の憲法憲法という名称を与えられた成文の法典。内容は問わない
- 実質的意味の憲法存在形式を問わず、内容的に憲法と観念されるもの。国会法や公職選挙法の規定も含む
固有の意味の憲法は全ての国家が持ち、そのうち権力制限の思想を備えたものが立憲的意味の憲法です
固有の意味の憲法は近代前の憲法というように時代で区切られるものではなく、国家であれば権力の組織や構造が定まっていると考えられる以上、全ての国家が持つものだからです。立憲的意味の憲法は、そのうち権力制限の思想に基づくものを特に取り出した呼び方で、区別の基準は内容であり、成文か不文かという存在形式とは無関係です。「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていない社会は、すべて憲法を持つものではない」という1789年フランス人権宣言16条の一節は、立憲的意味の憲法あるいは近代的意味の憲法の趣旨を示したものです。権利保障と権力分立という二つの要素を欠く社会には憲法がないと言い切れるのは、権力制限という内容を憲法の定義に組み込んだ場合だけだからです。

形式的意味の憲法は名称による区別で、内容を問いません
「憲法」が成文の憲法典を指す場合を形式的意味の憲法といい、その内容に人権保障の規定が含まれているかどうかを問いません。これに対し、法形式にかかわらず国家の組織や作用に関する基本的な規範を実質的意味の憲法といいます。この区別の意義は、本来憲法典に書かれるべきことが書かれず、逆に本来憲法の内容となるべきでないものが憲法典に書かれることがある点に注意を促すことにあります。実質的意味の憲法という概念からは、国会法や公職選挙法の一部の規定も憲法の法源としての意味を持ちます。国会法、内閣法、裁判所法、公職選挙法、皇室典範のように国家の組織や作用の基本を定める法律のほか、条約、議院規則、最高裁判所規則も実質的意味の憲法に属し、憲法の法源は憲法典に尽きません。
硬性憲法は改正手続の難易による区別で、内容とは切り離されます
憲法改正に法律の改正より困難な手続が要求される憲法を硬性憲法、法律の改正と同じ手続でよいものを軟性憲法といいます。日本国憲法は96条1項が各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議と国民投票を要求していますから、硬性憲法に当たります。改正手続を重くするのは、憲法によって作られた立法権が、根本法である憲法を法律と同じ手続で変えられるとするのは筋が通らないからです。もっとも、憲法の最高法規性は硬性憲法としての形式的効力だけに求められるものではありません。形式的最高法規性のほかに、基本的人権の保障という内容から導かれる実質的最高法規性があるからです。ドイツ連邦共和国基本法も、改正に加重手続を要する硬性憲法です。これまで繰り返し改正が成立してきたかどうかは、硬性か軟性かとは関係がありません。

法の支配は法治主義と異なり、法の内容を問います
法の支配は、人による支配を排斥し、権力を法で拘束することによって国民の権利と自由を保障することを目的とする原理です。法律による行政の原理を意味し、その法律自体の内容は問わないという考え方は、19世紀後半のドイツの形式的法治国家論の説明であって、法の支配とは異なります。法の支配にいう法は、議会が手続に従って制定したという形式だけでは足りず、その内容が合理的で人権の観念と結び付くものであることを要します。日本国憲法も、最高法規性、基本的人権の保障、特別裁判所の設置の禁止、裁判所による違憲立法審査権などからして、法の支配の原理に立脚しているといえます。

硬性憲法の建前でも、空白を埋める憲法慣習の成立は認められます
成文の定めがない事項について国家機関の行動が反復継続し、それが法として意識されるに至った場合には、憲法慣習が法源となりうるかが問題になります。判例が正面から認めたものではありませんが、硬性憲法の建前からは、明文に反する慣習に憲法を改正する効力を認めることはできません。改正手続を経ずに憲法の内容を変えることを許せば、96条の加重手続を潜脱することになるからです。これに対し、明文のない空白を埋める限度で国家機関を政治的に拘束することは認められます。
日本国憲法 第96条第1項この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
試験ではこう問われる
- 固有の意味の憲法と立憲的意味の憲法は内容による区別で、全ての国家は固有の意味の憲法を持つ
- 形式的意味の憲法は成文の憲法典を指し、実質的意味の憲法には国会法や公職選挙法の規定も含まれる
- 日本国憲法は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議と国民の承認を要する硬性憲法である(96条1項)
- 法の支配は、権力を法で拘束して国民の権利・自由を保障する原理で、法の内容が合理的であることを求める

