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財産権の保障と制度的保障ざいさんけんのほしょうとせいどてきほしょう

憲法 第6章 経済的自由 過去問で9肢

財産権の保障とは、憲法29条1項が私有財産制度を制度として保障するとともに、個人が現に有する具体的な財産上の権利を基本的人権として保障することです。制度的保障とは、立法によっても私有財産制の核心を廃止できないという意味で、制度そのものを憲法が守る考え方です。

親から受け継いだ山林を兄弟で共有していて、片方が分けてほしいと言っても、森林法では持分が半分以下の側からは分割を求められませんでした。自分の物を自由に処分できるのが所有権の中身のはずなのに、法律がそれを縛っている場面です。憲法29条は、財産権を侵してはならないと言う一方で、その内容は公共の福祉に適合するように法律で定めるとも言っています。財産権は法律に形を与えられる権利なので、立法がどこまで内容を決めてよく、どこからが権利の侵害になるかを、目的と手段の釣り合いで判断する必要があるからです。

山林の入口の場面。先生が共有者役(札「共有者(持分2分の1以下)」)で「分割請求」と書かれた紙を持ち、隣に兄役の男性(札「共有者(持分2分の1超)」)が立っている。二人の後ろに広い山林と「共有林」の看板。先生の前に深紅の×印付きの「森林法:

29条1項は、制度と具体的な権利の両方を保障します

財産権の保障は、二つの意味を持ちます。一つは、私有財産制という制度そのものの保障であり、もう一つは、個人が現に有する具体的な財産上の権利の保障です。29条2項が財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律で定めると規定しているため、立法による形成と、既存の権利の制限との区別が問題になります。財産権は法律によって形を与えられる権利であり、その点で表現の自由のような前国家的な自由とは構造が異なります。29条1項は、私有財産制度という制度を保障するだけでも、個人の財産を保障するだけでもありません。最大判昭和62年4月22日(森林法共有林事件)は、29条が私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権を基本的人権として保障すると述べました。「憲法第29条は、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権を基本的人権として保障するのみでなく、私有財産制度をも保障する規定である」という肢(R8 問2 イ)は正しいです。1項を不可侵の宣言にすぎないと読むと、不可侵の中身まで2項の法律に委ねられてしまい、1項を憲法に置いた意味が失われるからです。また、財産権の内容は法律で定めるとされていますが、それは慣習に基づく権利を排除する趣旨ではありません。財産的価値のある権利であれば、発生の根拠が制定法か慣習かで憲法上の保護の有無は変わらないからです。入会権のような慣習に基づく伝統的な権利も、憲法上の財産権に含まれます。

  • 私有財産制の保障生産手段の私有を認める経済体制そのものを制度として保障する
  • 具体的財産権の保障個人が現に有する所有権その他の財産上の権利を保障する
  • 内容形成としての立法29条2項により、財産権の内容を法律で定める
  • 制限の審査目的、必要性、内容、財産権の種類、性質、制限の程度を比較衡量する

規制の審査は、目的だけでなく財産権の性質と制限の程度も含めた比較衡量です

最大判昭和62年4月22日(森林法共有林事件)と最大判平成14年2月13日(証券取引法一六四条一項の合憲性)は、いずれも、財産権に対して加えられる規制が29条2項に適合するかどうかを、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較衡量して判断するという枠組みを用いています。職業の自由の審査のように、消極目的か積極目的かで基準を振り分ける構成ではありません。証券取引法判決が、積極目的の規制の合憲性をより緩やかに認める考え方を明確にしたわけではありません。森林法判決は規制目的が積極的なものから消極的なものまで多岐にわたると述べていますが、証券取引法判決は積極的、消極的という語すら用いておらず、目的による振り分けを明確にしたとはいえません。二つの判決は、規制目的の正当性をいずれも認めたうえで、手段の必要性と合理性の評価で結論を分けました。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で中央に座り、机の上に天秤が置かれ、左の皿に「規制の目的・必要性・内容」の札、右の皿に「財産権の種類・性質・制限の程度」の札。左手前に「森林法共有林事件 最大判昭和62年4月22日」、右手前に「証券

森林法の分割制限は、目的との関連で必要性と合理性を欠くとされました

森林法は、共有林について持分価額二分の一以下の共有者からの分割請求を認めていませんでした。判決は、森林の細分化を防止して森林経営の安定を図るという立法目的は公共の福祉に合致しないとはいえないとしつつ、分割を制限しても共有者間の対立が続けば森林の荒廃を招くこと、持分価額二分の一以下の者だけを制限する区別に合理性がないこと、分割を許さない森林の範囲と期間に限定がなく必要な限度を超えていること、共有物分割請求権が共有の本質的属性であることを挙げ、目的達成の手段として合理性と必要性のいずれも認められないとして違憲としました。分割請求を認めれば直ちに森林が細分化されるわけではなく、分割の方法として現物分割以外の途もあることも、手段の過剰さを示す事情とされました。他方、証券取引法の短期売買利益の提供請求権の規定については、内部者取引の防止という目的のために必要かつ合理的な規制であるとして合憲としています。結論の違いは、目的の性質ではなく手段の評価によるものです。両判決は、いずれも規制目的の正当性を認めたうえで、規制手段の必要性及び合理性について、森林法判決はこれを否定し、証券取引法判決はこれを肯定しました。森林法の事案では、分割制限が共有関係の解消を妨げることでかえって森林の荒廃を招くという、目的と手段の逆行が指摘された点が決定的でした。

荒れた山林の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で山林の前に立ち、左に対立して背を向け合う二人の共有者の男性(札「共有者」「共有者」)。山林には枯れ木と「荒廃」の札。先生の右手に「立法目的:森林の細分化を防止して森林経営の安定を図る」の札、

財産権の規制目的は、消極から積極まで幅がありますが、審査は一本の枠組みです

財産権の規制目的には、安全の保障や秩序の維持といった消極的なものから、社会政策や経済政策上の積極的なものまで多様なものがあります。もっとも、森林法の分割制限を積極目的の規制と位置づけて緩やかな審査でよいとする理解は、判決の枠組みと合いません。判決が認定した立法目的は、森林経営の安定を図り国民経済の発展に資するというもので、文言だけを見れば積極目的と読む余地はありますが、判決はその目的をどちらかに性質決定せず、手段の合理性と必要性を具体的に問う審査を行いました。判例が用いる審査は、目的と手段の関係を総合的に衡量するものであり、目的の分類が結論を決めるわけではありません。もっとも、立法府の判断を尊重する姿勢は維持されており、判例は、財産権規制の目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、規制手段が目的を達成する手段として必要性や合理性に欠けていることが明らかであって、立法府の判断が合理的裁量の範囲を超える場合に限り、規制立法は違憲となるとしています。規制の是非や内容の決定は立法府の裁量に委ねられる面が大きいので、裁判所はそれが明らかに合理的裁量の範囲を超える場合にだけ効力を否定できるという構造です。

制度的保障は、核心部分を立法から守る考え方です

私有財産制が制度として保障されるという理解は、立法によってもその核心を廃止できないことを意味します。生産手段の私有を全面的に否定する立法は、29条1項に反することになります。他方で、個別の財産権の内容は法律で形成されるため、立法の変更によって権利の中身が変わることも予想されます。ここから、既に取得した具体的な権利を事後に制限する場合と、これから生ずる権利の内容をあらかじめ定める場合とで、問題の立て方が変わってきます。前者は既得の権利の制限として別に検討する必要があり、後者は立法裁量の範囲の問題になります。既に定められた財産権の内容を事後の法律で変更することも、公共の福祉に適合するようにされたものであれば許され、「法律で一旦定められた財産権の内容を事後の法律で変更することは、それが公共の福祉に適合するようにされたものであっても、当該財産権に対する制約として許されない」という肢(R8 問2 ア)は誤りです。制度的保障という考え方は、立法による形成を認めつつ核心の侵害を許さないという形で、両者の間に線を引く道具として使われます。もっとも、核心の範囲を特定するのは容易ではなく、結局は個別の権利ごとの比較衡量に帰着することが多い点にも注意が要ります。

最大判昭和62年4月22日(森林法共有林事件)

財産権に対して加えられる規制が憲法二九条二項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものである。

試験ではこう問われる

  1. 29条は国民の個々の財産権を基本的人権として保障するとともに、私有財産制度も保障する(最大判昭和62年4月22日。R8 問2 イ ○)
  2. 財産権の規制が29条2項に適合するかは、規制の目的、必要性、内容、制限される財産権の種類・性質・制限の程度等を比較衡量して判断する(最大判昭和62年4月22日、最大判平成14年2月13日)
  3. 森林法の共有林の分割請求の制限は、目的達成の手段として合理性と必要性を欠き違憲とされた(最大判昭和62年4月22日)
  4. 既に定められた財産権の内容を事後の法律で変更することも、公共の福祉に適合するようにされたものであれば許される(R8 問2 ア ×)
  5. 入会権のような慣習に基づく権利も、憲法上の財産権に含まれる

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