特別な法律関係と公務員の人権とくべつなほうりつかんけいとこうむいんのじんけん
特別な法律関係と公務員の人権とは、公務員や在監者のように国と特別な法律関係にある者の人権を、どこまで制約できるかという問題です。法律の根拠なく包括的に制限することはできず、制約は、その関係を設けた憲法上の根拠と目的から、必要な限度で認められます。
郵便局で働く職員が、休みの日に応援する政党のポスターを貼ると、法律で罰せられることがあります。公務員も国民ですから人権はあるのに、なぜ一般の人には許される行為が禁じられるのでしょう。昔は、公務員や受刑者は国と特別な関係にあるから人権を制限されても仕方がないと説明されていました。今の憲法の下ではその説明は通らず、公務員なら行政の中立的な運営、受刑者なら施設の規律の維持というように、関係ごとに憲法上の理由を示し、必要な限度でだけ制約が認められます。

特別権力関係論は、日本国憲法の下では妥当しません
特別権力関係論とは、公権力が特別な関係に属する個人に対して包括的な支配権を有し、法律の根拠なく人権を制限することができ、それについて裁判所の審査が及ばないとする理論です。明治憲法下で説かれたもので、日本国憲法の下では妥当し得ないとされています。日本国憲法は法の支配を採用し、基本的人権の尊重を基本原理とし、国会を唯一の立法機関と定めているからです。理論の本質的な問題は、特別権力関係に属する者が一般国民としての地位に何らかの修正を受ける点で共通の特色を持つにとどまるにもかかわらず、権力服従性という形式的要素によって包括し、人権制約を一般的・観念的に許容する点にあります。成立原因として、法律の規定に基づくものの例に受刑者の在監関係、本人の同意に基づくものの例に国公立学校の在学関係が挙げられていましたが、公務員の在勤関係は任命に本人の同意があることから、同意に基づくものとされていました。なお、最高裁がこの理論に依拠して公務員の人権制約を正当化した判決はありません。猿払事件も、公務員にも政治的行為の自由の保障が及ぶことを前提に、制約が合理的で必要やむを得ない限度かを審査しています。現在は、関係ごとに憲法上の根拠と目的を確かめ、必要な限度で制約を認めるという処理をします。
在監関係では、施設の規律維持の必要から制約が認められます
多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設では、内部の規律及び秩序を維持し正常な状態を保持する必要があるため、未決拘禁者についても身体の自由やその他の行為の自由に一定の制限が加えられることはやむを得ません。最大判昭和45年9月16日(未決拘禁者喫煙禁止事件)は、火災が発生する危険性、火災発生時に被収容者が逃走するおそれ、喫煙中の通謀により罪証隠滅がされるおそれなどを考慮すると、未決拘禁者について喫煙の自由を一般に認めないのはやむを得ない措置であるとしました。煙草は嗜好品にすぎず、禁止しても人体に直接障害を与えないことも理由です。もっとも、喫煙の自由がおよそ13条の保障を受けないと述べたわけではなく、基本的人権の一つに含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではない、という言い方をしています。

新聞閲読の制限は、障害発生の相当の蓋然性で審査されます
最大判昭和58年6月22日(よど号ハイジャック記事抹消事件)は、閲読の自由の制限が許されるのは、規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、施設内の管理、保安の状況、新聞の内容その他の具体的事情のもとで、施設内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められる場合に限られ、制限の程度も必要かつ合理的な範囲にとどまるべきであるとしました。判例が採ったのは、より制限的でない他の選び得る手段の基準ではなく、相当の蓋然性の基準です。なお、現行の刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は、自弁の書籍等の閲覧を原則として禁止・制限してはならないとしつつ、規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるときは刑事施設の長が閲覧を禁止できると定めており、おそれの判断には施設の長の裁量が残ります。
猿払事件は、合理的関連性の基準で禁止を合憲としました
最大判昭和49年11月6日(猿払事件)は、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼の確保は憲法の要請にかない、公務員の政治的中立性を損うおそれのある政治的行為を禁止することは、合理的で必要やむを得ない限度にとどまる限り憲法の許容するところであるとしました。その限度かどうかは、禁止の目的、目的と禁止される行為との合理的関連性、禁止により得られる利益と失われる利益との均衡という三点を検討し、合憲としました。職種や職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無を問わず一律に禁止しても、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼の確保という目的との関連で合理的だとしたのが特徴です。禁止されているのは政治的行為であって政治的意見の表明そのものではないという点も押さえます。

堀越事件は、限定解釈により適用を否定しました
最判平成24年12月7日(堀越事件)は、国家公務員法102条1項の政治的行為を、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが観念的なものにとどまらず現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものに限定して解釈しました。そのうえで、管理職的地位になく、職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員が、職務と無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく、公務員による行為と認識し得る態様でもなく行った政党機関誌の配布には、そのおそれが実質的に認められないとして、罰則規定の構成要件に該当しないと結論付けて無罪としました。判例は適用違憲の判断をしたのではなく、構成要件に該当しないと結論付けています。

裁判官や自衛官にも、職務の性質に応じた制約が及びます
最大決平成10年12月1日(寺西判事補分限事件)は、裁判官の積極的な政治運動の禁止について、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにあるとし、禁止は合理的で必要やむを得ない限度にとどまるとしました。自衛官についても、防衛大臣が指定する場所に居住しなければならないとする規定は、自ら志願した結果として課される制約であり、いつでも職務に従事できる態勢にあることが求められるという職務の性質に照らし、合理的な制限であって合憲と解されます。
最大判昭和49年11月6日(猿払事件)公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならない。
試験ではこう問われる
- 特別権力関係論は日本国憲法の下では妥当せず、制約は関係ごとの憲法上の根拠と目的から必要な限度で認められる
- 公務員も28条の勤労者に当たり、労働基本権の保障を受ける(R5 問1 エ ×)
- 非現業の国家公務員の争議行為とそのあおり行為等を一律に禁止しても違憲ではない(R8 問1 オ ×)
- 公務員の政治的行為の禁止は、合理的で必要やむを得ない限度にとどまる限り許される(最大判昭和49年11月6日)
- 未決拘禁者の新聞閲読の制限は、規律及び秩序の維持上放置できない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合に限られる(最大判昭和58年6月22日)
- 堀越事件は政治的行為を限定解釈して構成要件に該当しないとし、適用違憲の判断はしていない(最判平成24年12月7日)

